BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」発売記念 TOSHI-LOW(BRAHMAN)×河村康輔|音楽 / アートで仕掛ける頭の中の時限爆弾

うちの子からしたら河村康輔はヒーローなわけさ

河村の作業机に置かれていた国際版「AKIRA」。
河村の仕事場に飾られたオブジェ。

TOSHI-LOW 去年、息子に「AKIRA展(※2019年11月に東京・渋谷PARCOで開催された「AKIRA ART OF WALL Katsuhiro Otomo × Kosuke Kawamura AKIRA ART EXHIBITION」)に行きたいからお金ちょうだい」と言われたんだよ。「AKIRA」は素晴らしい作品だからまあいいかと思って小遣いを1万円握らせたら足りないって言ってきて、すげえ数のグッズを買ってきたんですよ。しかも「知ってる? 大友克洋が唯一認めた日本人コラージュアーティストがいてさ、河村康輔って言うんだよ」とかご機嫌で言うから「今、なんつった?」と(笑)。それで買ってきたTシャツを撮って、「子供が2万円分も買ってきやがった」って康輔にメッセージを送ったんだよね。で、翌朝、康輔からの返事を息子に見せたら「友達なの!?」とえらく驚かれて、親父としての俺の株が爆上がりしたという話です(笑)。

河村 僕もすごくテンションが上がりました。自分の子供でもおかしくない世代に作品が届いているのをリアルに聞く機会はそうはないし。しかもあそこで「2万も使われちゃったよ」というTOSHI-LOWさんのお父さんの部分に触れたことで、グッと距離が縮まって、なんかほっこりしたというか。

TOSHI-LOW うちの子からしたら河村康輔はヒーローなわけさ。しかもそれを俺に教えてくれたのがすげえうれしくて。今回一緒にやれたのも、ある意味うちの息子がきっかけだったようなもの。だから頭の中に仕掛ける時限爆弾ってすごく大事だよね。10代の頃に誰を好きになるかで下手したら一生が左右されるわけじゃん。

河村の仕事場の様子。

河村 そうですね。僕は広島時代、BRAHMANがCDを出す前から知っていて。あの多感な頃にBRAHMANの音楽に触れることができてよかった。ジャパコアとかいわゆるUKやUSのハードコアを聴いていた周りの友達も、みんな一斉にBRAHMANを聴いていましたよ。

TOSHI-LOW うれしいね。俺も今でも自分の時限爆弾がハードコアやパンクでよかったと思っている。仮にどこかでブレそうになったとしても、愛すべき先輩たちの顔を見るだけで気持ちがシャキッとするし。

河村 先輩方の前で下手なことはできないっていうのはすごくあります。

TOSHI-LOW 広島なら俺のことを西日本災害のボランティアに連れて行ってくれたGUYくん(※骸 a.k.a. GUY。ハードコアバンド・愚鈍のオリジナルメンバー。「TO FUTURE GIG」の主催者)とか、愛すべき先輩がいる。それは本当にラッキーなことだと思っていて。

河村 GUYさんの世代が大ボスで、その下にTOSHI-LOWさんと細美(武士)さんがいて、さらにその下が僕ら。

TOSHI-LOW “世界の河村康輔”も広島に帰ったらペーペーだもんね(笑)。

河村 この間の寝ずの広島のときも、TOSHI-LOWさんと細美さんを送り出し、大ボスがベロベロになるのを待ち、やっと帰って寝たのが朝の5時でした(笑)。

TOSHI-LOW ごくろうさま。俺の「25時間テレビ」よりも全然すごいよね(笑)。

──今回のカップリング曲「BACK TO LIFE」で歌われている情景とも重なるシーンですね。

TOSHI-LOW そうそう。愛すべき珍獣たちの話(笑)。

アーティストとして、今やるべき仕事

──「CLUSTER BLUSTER」は強力なミクスチャーサウンドのナンバーです。そしてBRAHMANはいつだって酔狂ではないけれど、現代の世相への憂いや憤りを歌うこの曲のリリックからは、より一層の覚悟が伝わってきます。

TOSHI-LOW BOSSがこんなにすげえ言葉を書いてくれたら、やっぱり俺らも引っ張られるし、さらに覚悟が決まるよね。実際、BOSSも「THA BLUE HERBのときもここまでは言わない」と言っていたけど、それもうれしいじゃん。BRAHMANだから言えるのかなって。俺らが強い騎馬戦の馬になって、その言葉を支えているイメージというか。

──BOSSさんと3年半前に発表した「ラストダンス」で歌われていた「東京オリンピック」もコロナ禍の影響で現時点では延期となっています。また同じように歌われていた原発の問題も、大きく解消されたとは言い難い状況です。

TOSHI-LOW だからこそ、今やるべきアーティストとしての仕事があるとすれば、「そこから逃げるべきじゃない」ということ。俺とBOSSが今年、ひさびさに会って「また会いましょうね」みたいなふんわりとした曲を出したら、リスナーは「この世界情勢を見てマジでそれしか歌うことねえの?」と思うだろうし、「こいつらろくでもねえな」と思うよね。

──確かに今どのような表現を発信するのか、多くのアーティストが試されている時期でもあると思います。

TOSHI-LOW 特に言論や表現の自由は脅かされていて、「たかが政治家に中指立てるのにいちいち許可が要るの?」といった状況だよね。俺らが子供だった頃って、政治家って新聞に風刺画がバンバン載るような対象だった。本来そうであるべきなのに、いつの間にか王様みたくなって。別に反体制というわけじゃなくて、表現者はいつでも自由であるべきだという姿勢を崩すべきじゃない。江戸時代の歌舞伎役者だって幕府に対する風刺をいっぱい入れていたんだから、むしろ俺たちは表現者として真っ当だとさえ思うよ。もちろん最低限の対価はありがたく受け取るけど、これは食っていくためだけの手段じゃないし、誰かの真似がしたくてやっている表現でもない。ただ、幸せなのはBOSSにせよ康輔にせよ、自分らの周りにはまだまだこうして一緒に物申せる人たちがいるということ。それが救いだし、孤独な闘いでもないなと思えるから。

──ため息が出るような現状を歌ったこの曲が届いたとき、リスナーそれぞれもまた考えさせられ、試されるのかもしれません。

TOSHI-LOW 俺らはそのため息とか「くだらねえ」という嘆きみてえなものを自分たちなりの表現に変えている。もし同じような思いを抱えている人たちがこの曲を聴いて何かを感じてくれたら、どんどん自分から表現してほしいね。

河村 実際、この「CLUSTER BLUSTER」は「思ったことをこう形にしていいんだ」という1つの答えであり、若い世代の背中を後押しするような力があると思います。

TOSHI-LOW そういう種も常に蒔いているつもりだからね。みんなの芽生えを待っています。

ライブ情報

BRAHMAN「ONLINE LIVE "IN YOUR【 】HOUSE"」
  • 配信日時:2020年10月9日(金)19:30~20:30(予定)
  • ※「ONLINE LIVE "IN YOUR【 】HOUSE"」の【】内は半角スペース6つ空けが正式表記。

左から河村康輔、TOSHI-LOW。