BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」発売記念 TOSHI-LOW(BRAHMAN)×河村康輔|音楽 / アートで仕掛ける頭の中の時限爆弾

デジタル化を真っ向否定するアナログ作業のジャケデザイン

──今回のアートワークはシュレッダーにかけられた紙幣をモチーフとしたコラージュです。「CLUSTER BLUSTER」におけるBOSSさんのリリックにも「シュレッダー」という言葉がありますが、アートワークのコンセプトは河村さんの参加が決定したあとに決まったのですか?

BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」CD+DVDジャケット

TOSHI-LOW いや、そのリリックは初めからあったの。

河村 僕の作品もお札のモチーフが多いし、「お札でいきたい」という話になって。でも、ここに着地することができたのはTOSHI-LOWさんのおかげです。

TOSHI-LOW レコード会社の会議に俺が立ち会ったとき、いわゆるメジャーの論理でアートワークはもっと毒のない方向に進みそうだったんだよね。でも、そもそも今回、俺は女王様に安全ピンをぶっ刺すみたいな、パンクの持つアイロニーが欲しかったから河村康輔に依頼したわけで。だから俺が「違うんだよ」とその会議を制したんだよ。そうしたら康輔の表情がパッと変わって。

河村 はい。「好き勝手やらせてもらいます」と。TOSHI-LOWさんが本気で委ねてくださる以上、僕がちょっとでも日和ったら失礼だと、覚悟を決めました。

TOSHI-LOW 俺らはいつも7STARS DESIGNというデザイン事務所と一緒にアートワークを作っているんだけど、今回はせっかくBOSSも入るわけだし、単に河村康輔に参加してもらうんじゃなくて、BRAHMANとBOSSが混じり合ったように、河村康輔と7STARSにも化学反応を生み出してほしかった。それによって、借りもののアートワークを乗せたような感じではなく、二重三重の意味を帯びた強い作品になるはずだという確信があったから。

河村 7STARS DESIGNの岩田圭市(IWATA ROOM)さんと、どういうアプローチでいくのか、一から一緒に取り組ませてもらいました。例えば、ジャケットと言うと曲タイトルをバンと乗せがちだけど、2人とも「それはやりたくないね」という話になって。そうしたら岩田さん、すぐに透明のアクリルに透明のインクでものすごい厚みのロゴを刷ってくれたんです。このジャケットはコラージュをカメラで撮影したものですが、パッと見だとわからないけど、撮影のライティングでロゴが反射するとモザイクみたいな効果が生まれるようになっているんです。

TOSHI-LOW 細かい(笑)。21世紀のデジタル化を真っ向から否定するようなアナログ作業。

河村 半端なかったですよ(笑)。岩田さんがモニターを見ながら、僕とカメラマンの方と2人で少しずつ作品の位置を調整しました。しかも岩田さんはこだわりがものすごくて、アクリル版もCDジャケット用と10inchのジャケット用と2種類を用意していたんです。この話は現物を見ないと伝わりづらいと思うけど、「CDジャケットは写真もアップでサイズも小さくなるから、文字は大きくないとわからない」と2種類のアクリル版を重ねて「この位置だと影がこのくらい落ちるけど、モノクロにしたときはここが潰れる」と細やかな調整をされていました。

TOSHI-LOW それを大の大人が一晩中ああだこうだといじっているわけでしょ? 最高だよね。でも、そこまで苦労してくれていたとは。

BOSSと河村康輔を入れた“1つのバンド”

──河村さんはコラージュを作る前段階でレコーディングスタジオも訪れたそうですね。

河村 岩田さんが「見たほうがいいよ」と勧めてくれて。「CLUSTER BLUSTER」もそこで初めて聴きました。

TOSHI-LOW レコーディングの最中だったよね。歌入れしている途中みたいな生々しいタイミングに来てくれて。

河村 曲がレコーディングの中でどんどん変わっていく過程を爆音で体験させてもらえて。その分、曲の重みも自分の中で増して、よりリアルに感じることができました。音楽とビジュアルを対等なスタンスで詰めていけたのは本当にうれしかったし、自分の中でもかなり新鮮な経験でしたね。

TOSHI-LOW それは目論見通りでうれしいな。それこそ、今回はBOSSと河村康輔を入れたうえでの“1つのバンド”をイメージしていたから。

河村 まさにバンドの中に入れてもらったような感覚でした。打ち合わせのときも、やっぱり「ああ、今居心地のいいところにいるなあ」って。

河村康輔=爆弾魔

──河村さんは「CLUSTER BLUSTER」のミュージックビデオにも出演されていますね。

河村 はい。最初から最後まで。

TOSHI-LOW バンドメンバーなら登場するのが当たり前じゃん?(笑) でも、最初はなんか紙をチョキチョキ切ってる工作おじさんみたいな映像の仕上がりになっちゃって。俺の中で、あのビデオにおける河村康輔は人の頭の中にトラウマ的なものをドンっと仕掛けられる爆弾魔というイメージだったから、もう一度作り直してもらったんだよ。

──「CLUSTER BLUSTER」のMVは、9月5日から6日にかけてBRAHMANが実施した25時間配信番組「BRAHMAN 25TH 25HOUR TV」のラストに解禁されました。

河村 納品はギリギリでした。監督さんから納品前日の夜9時に「1時間だけ撮り直しの時間もらえますか?」と言われて(笑)。ジャケットも8月5日の夜中から6日の朝にかけて最終の撮影をしていたので、完徹のまま新幹線に飛び乗って、僕の広島到着に間に合うように岩田さんがデザインの最終調整をしてくださり、去年と同じ日に、同じ広島でTOSHI-LOWさんに「できました!」と届いたばかりのジャケットをスマホで見てもらったんです。たまたまそうなったんだけど、まるで1年前から仕組まれていたんじゃないかっていうぐらい一連の流れが運命的でした。去年は隠れていたけど、今年は堂々と一緒に写真を撮ってもらいました(笑)。

TOSHI-LOW 出会ってわずか1年だけど、もう一緒に駆け抜けた仲間だから。でも、物事が噛み合うときってそういうもんだよね。必ずしも長さじゃない。

──大人になってから仲良くなる間柄って、それぞれの生活もあるし、必ずしも多くの時間を一緒に過ごせるわけじゃないですからね。

TOSHI-LOW そうそう。だからあまりいい振る舞いじゃないけど、俺はあえて失礼な態度で相手との距離を詰めるときもある。仲良くなれるのかなれないのかの判断を早めにしたいから、「ぶっちゃけどう?」みたいなとこから入ってグッといっちゃう。それで結果的に嫌われてしまうこともあるけど、時間かけられないじゃん?

河村 もったいないですよね。変に心を開けずに無駄な時間ばかりが過ぎちゃうのとか、しんどいだけだし。僕にとって、この1年の間で特にTOSHI-LOWさんとの距離がグッと縮まったのは、息子さんのことでした。