生音を聴いてやりたいけど……
──50名規模のフルオーケストラの演奏にラップを乗せるという、ご自身初の試みに対するイメージや不安などは?
武部さんはほかの取材で俺のことを「今、日本で一番アフターに歌える人」と評してくださっていて。これは、「リズムの後ろに乗って歌う」「リズムのポケットが深い」ということを指していて、当然、このノリは俺と武部さんと直也の間では共有もできています。ただ、俺自身、アフターに合わせたフルオーケストラの演奏というものにまだ接したことがないので、そこが未知の領域で。アフターって、楽譜には起こせないんですよ。ここ、ちょっと説明が難しいんですが、楽譜上では1はあくまで1なんだけど、俺はその1.00いくつのアフターを攻めていこうとする。でも、これまでの経験だと、例えば弦楽器の方は、弾く分の動作の関係なのか、0.95ぐらいで入ってくる場合が比較的多いという印象を受ける。そこに対して俺がアフターでノッていくと、スベるというかズレて聞こえちゃうので、そこは気を付けたいですね。もっとも、うちのバンドから白根佳尚がドラムで参加してくれるのでそこは大きな担保になるんですが。直也が指揮でうまくコントロールするのか、俺が言葉で伝えることになるのかはわからないけど、ノリさえ合えば相当いいパフォーマンスになると思います。もちろん、俺がオーケストラの皆さんから学ぶこともたくさんあるはずだし、面白いコンサートになるのは間違いないですね。
──ちなみに細かい話ですが、当日はイヤーモニターを使う予定ですか? 今回みたいな場合、クリックを聴きながら歌うのかな?と、ちょっと気になって。
最初はイヤモニもクリックもほぼなしで、生音を聴いてやりたいと思っていたんだけど、かえって高ぶりそうなのでイヤモニをして努めて冷静にやったほうがいいような気もしてきました。そこはちょっと考えます(笑)。
誰かと一緒だから開ける新しい扉
──KREVAさんはアルバム「Project K」をリリース後、DJセットとバンド編成による全国ツアーを行いました。また、今年の9月8日の“クレバの日”に開催した「908 ON THE DAY」では、本編序盤で「アンコールなし。セトリぶっ通し」を宣言してのソリッドなパフォーマンスでファンを沸かせました。「Project K」以降、ステージに対する意識に何か変化は生じていますか?
特に変化はないけど、とにかく今できることを全力でやる。その全力感イコール全力疾走、みたいな姿勢を見せたいという思いは、より強くなっているかもしれませんね。ここ数年、「本当、いつ死ぬかわかんないから」という意識でやっているし。遠い目標を口にしちゃうよりも、まず今ここでしっかりやっておかないとたどり着けないような場所を全力で目指したくて。
──毎回ゲストを迎えてのトークを繰り広げるJ-WAVEのレギュラーラジオ番組(「PILOT THE ORIGINAL」)も2年目に入りましたが、そこで経験した他者との関わり合い、という点ではどうですか?
ライブやイベントみたいな機会以外は、相変わらず四六時中ずっと1人でトラックを作っていますけど、確かにラジオはいい刺激になっていますね。なんか俺、人の話を聞いて話題を掘り下げるのがちょっとうまくなってきたかも。
──それ、インタビュアーとしてはあまりうまくなってほしくないんですが。
(笑)。まあ、俺はたまたま音楽の世界でこういうスタイルのクリエイティブをしていますけど、世の中には、俺から見ると変わったポイントに注力している人がいっぱいいて面白いなって。「俺もがんばらなきゃな」と思いますね……なんていうか、「山の頂上に行きたいか?」と問われたらもう誰よりも行きたいんですよ。でも、そこに行くためにはたくさんの装備が必要なことももうわかっているから、あまり口には出さずに、その装備を黙々とそろえていきたい、という感じかな。でも、小林賢太郎さんと「KREVA CLASS -新しいラップの教室-」という舞台をやったときも、賢太郎さんに「俺1人じゃ立てない舞台に立たせてほしい」と言ったし。今回のこのコンサートにしても、フルオーケストラといい、東京文化会館や兵庫県立芸術文化センターという会場といい、武部さんが誘ってくださったからこそ実現するものであって、俺が俺だけでやっていく活動の中ではなかなか巡ってこなかったと思う。誰かと一緒に何かをやることで自分の新しい扉を開けてもらっているという実感はありますね。
──最後に、このコンサートが気になっている読者と来場してくれるオーディエンスに向けてひと言いただけますか?
まずフルオーケストラという質量だけでも、普段の俺のライブに来てくれているファンにとっては新鮮だと思います。で、そこにラップが乗るわけなので、かなり期待して来てください。あとは、年末ブースト、クリスマスブースト効果でたいしていいこと言ってなくてもいいこと言っているように聞こえると思います(笑)。クリスマスデートのモードで来てもらってもいいし。もし俺のライブグッズの「一目瞭然Tシャツ」(※蛍光色のKREVAのオフィシャルグッズ)を着てくる場合は、そこにちょっといいジャケットや靴を合わせてみるとか、自分なりにめちゃめちゃおしゃれして来てもらえたらうれしいです。
公演情報
billboard classics「KREVA Premium Orchestra Concert」~produced by 武部聡志
- 2025年12月18日(木)兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
OPEN 18:15 / START 19:00 - 2025年12月24日(水)東京都 東京文化会館 大ホール
OPEN 18:15 / START 19:00
プロフィール
KREVA(クレバ)
1976年生まれ、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にシングル「音色」でソロデビューを果たす。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録し、2008年にはアジア人のヒップホップアーティストとして初めて「MTV Unplugged」に出演した。2012年9月08日に主催フェス「908 FESTIVAL」を初開催。“9月08日”は“クレバの日”と日本記念日協会に正式認定されている。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、映画出演など幅広い分野で活躍しており、2011年には初の著書「KREAM ルールなき世界のルールブック」を刊行。2024年にソロデビュー20周年を迎えた。4月に事務所を独立後、小林賢太郎氏を脚本・演出に迎え、“授業型エンタテインメント”「KREVA CLASS -新しいラップの教室-」を全12公演開催。6月にソロ20周年イヤー突入と同時にビルボードライブツアーを東京、大阪で開催。2025年2月には10thアルバム「Project K」を発表、3月から6月まで「BACK TO BASICS」をテーマに19都市21公演の全国ツアー「KREVA LIVE 2025『Project K Tour』」、9月8日の“クレバの日”には「908 ON THE DAY」を東京・東京ガーデンシアターにて開催。作詞、作曲、トラックメイク、ラップ、さらにはプロデュースをすべて自身で行うなど各方面で才能を発揮している。
KREVA_Dr.K_dj908 (@KREVA_DrK_dj908) | X

