音楽ナタリー Power Push - Base Ball Bear

宇多丸が突撃!“第2思春期3部作”が完結したワケ

Base Ball Bearが6枚目のフルアルバム「C2」を完成させた。バンド結成記念日である11月11日に発表されたこのアルバムには、先行リリースされた“エクストリーム・シングル”「『それって、for 誰?』part.1」「文化祭の夜」「不思議な夜」を含む12曲が収録される。また初回限定盤“エクストリーム・エディション”は「C2」本編と全曲のインストバージョン、さらに2006年11月に発売された1stアルバム「C」のリマスタリング盤の3枚組だ。

音楽ナタリーでは7月にRHYMESTERの「Bitter, Sweet & Beautiful」の特集を公開しており、その際は小出祐介がインタビュアーを担当(参照:RHYMESTER「Bitter, Sweet & Beautiful」インタビュー by 小出祐介(Base Ball Bear))。今回はその“逆バージョン”として、宇多丸(RHYMESTER)がBase Ball Bearにインタビューを行い、「C2」の制作にまつわる話や今のバンドのモードなどを聞いた。

取材 / 宇多丸(RHYMESTER) 文 / 清本千尋 撮影 / 小坂茂雄

20代後半は第2思春期?

──泣きました! 最高! 「二十九歳」(2014年6月発売のアルバム)も素晴らしかったけど、もっとよかった。特に終盤の「HUMAN」からの流れでマジ泣いた。素晴らしいっす。

左からBase Ball Bear、宇多丸。

小出祐介(G, Vo) うれしいです(笑)。

堀之内大介(Dr, Cho) うれしいっすね。

──聴きすぎて、俺の中で答えが出すぎちゃってて、メンバーに話を聞く必要がないんじゃないかっていうぐらい。一番ダメなタイプのインタビュアーですね(笑)。

小出 でも俺もこの前RHYMESTERにインタビューさせてもらったときは宇多さんと同じように聴きすぎて、俺の中で答えが出すぎていて俺ばっかりがしゃべってたし(笑)。

──この機会に全アルバムをキャリア順に聴き直しまして。ということで、話はちょっと遡ります。「二十九歳」を作る前に、俺がこいちゃんに「どうよ、アルバム」みたいなことを聞いたら、「途中までこういう方向で行こうと思っていたのをひっくり返さなきゃいけなくなった」って言ってて。それは何かっていうと「セルフタイトルで行こうと思ってたんですよ」って。そのセルフタイトルにする意図って「バンドをもう1回再定義する」みたいなこと言ってたよね? で、そのつもりだったのに、サカナクションがセルフタイトルでアルバムを出しちゃって、それがやれなくなっちゃったと。

小出 そうそう。「表裏一体をテーマにしたセルフタイトルのアルバム」っていうところまで丸被りだったんですよ。それでそのプランが死産してしまった。

──そのプランをひっくり返して作った作品に付けたタイトルが「二十九歳」。「二十九歳」ってどういう位置付けのアルバムなの?

小出 それこそこの間のインタビューのときに宇多さんと話したNUMBER GIRL以降の日本のギターロックと言いますか、1990年代後半から2000年代初頭直系の日本のギターロックを最大限にやろうとした作品ですね。ギターロックの歌詞の内容っていうとまず、自分語りがあると思うんですが、曲に乗せて自分語りしていくと、まあ、自己陶酔してくるわけですよ。でも僕はそれを自分自身に嗅ぎ取ると、イヤになってきちゃうんです。だけど、「二十九歳」は16曲っていうロングストロークで、自分を騙しながら自分語りをすることで、“ギターロック的”であることをとことんまで追求してみたんです。で、やりきってすっきりしました。

──なるほど。ただ、「二十九歳」ってある意味「十七歳」(2007年12月発表の2ndアルバム)と対のタイトルじゃないですか。というのはね、俺、29歳くらいって“第2思春期”だなっていうのを最近よく言ってて。20代後半ぐらいになると、人生に迷いが生じだして、思春期的な言動に走る人が多い気がするんだよね。自分もそうだったし。だから、「十七歳」の対としての「二十九歳」ってジャストだなと思ったし、それってある意味セルフタイトル的だなとも思ったのよ。

小出 面白い! 僕はそういうの考えてなかったんですけど、もしかしたらバイオリズム的にも第2思春期的な方向に導かれたのかもしれないですね。

「新呼吸」が第2思春期の始まり

───Base Ball Bearのアルバムをキャリア順に聴くと、やっぱり「新呼吸」(2011年11月発売の4thアルバム)からちょっとモードが変わってる気がして。「新呼吸」「二十九歳」「C2」までの3部作……で終わるかまだわからないけど、この3枚が“第2思春期3部作”なのかなと思ったの。またの名を“もう若くねえ3部作”(笑)。「新呼吸」を作ったとき、モードが変わった感はありましたか?

小出 はっきりとありました。

宇多丸

──だよね。だから、計画的なのかなと思うぐらいなんだよね。その上で、俺が「C2」で第2思春期3部作に区切りがついたんじゃないかと思う理由は、アルバムの起承転結の“結”の部分に力強さを感じたからなんだよね。一言で言うと、“大人になることに成功した”感じがする。

小出 ありがとうございます。たぶん「DETECTIVE BOYS」(2010年10月発売の“3.5th”アルバム)以前のBase Ball Bearと、「新呼吸」以降のBase Ball Bearっていうのは見え方がちょっと違うと思います。

──そこまでの劇的な変化が起きて、ファンからの評判は変わりましたか?

小出 その頃から捉えられ方も変化し始めたかもしれないですね。「新呼吸」を出した2011年はバンド的にもけっこう大変な年だったんですよ。3月からバンド結成10周年を記念したロングツアーをやる予定だったのが、震災で3月の分が全部ぶっ飛んじゃって。4月からすぐに始めたんですけど、「なんで俺らツアーやるのかな?」「この状況で、誰がロックを聴きたいんだろう?」みたいなことを思いながらツアーを回っていて。たぶん、ストイックにやりすぎてたんでしょうね。ライブのクオリティを上げたいと思うが故に反省会をやりすぎたせいで、言い合いが多くなり、メンバー間がギスギスしまして。4人それぞれの沸点が違うんですけど、堀之内さんは特に沸点が低いんです。

堀之内 そうだね。熱くなりやすい。あのときって今思い返すと、メンバー4人で見えてるものが違う感じになっちゃってたんだよ。僕はもう3人が演奏の中で楽しめてないっていう状況に耐え切れなくなっちゃって。

小出 でも俺らは俺らで別にそんなこともなかった。

堀之内 そう。だから楽屋に戻ったら結果3対1になっちゃって。で、もうそこから音楽的な話じゃなくて、人としての話になってくるわけですよ。「あ、これはもうさすがにヤバいな」とか「俺もうやれないかもしれない」ぐらいまで考えちゃって。

──2011年って、みんな知らず知らずのうちにピリピリしちゃってて、今から考えると普通の精神状態じゃなかったな、ってとこあると思うけど。

小出 そうですね。なんかやっぱり真剣にやらなきゃみたいなのが先立ち過ぎちゃって。結果ライブのやり方とかあり方みたいなものが自分たちのせいでわからなくなっちゃって、みんなボロボロになりながらツアーをやってたんです。そしたらファイナルの直前で俺のおじいちゃんが亡くなって、そのせいでもっとわけわかんなくなっちゃったんです。そんな中で「新呼吸」の制作に入ったんですけど、そしたら関根が全然弾けねえっていう。

関根史織(B, Cho) そのときは本当に私、楽器が下手くそだったんですよ。だから言い返せないし、バンドのギスギスもつらかった。正直辞めたいって思ってたんですよね。で、小出に「お前辞めろ」って言われたんですけど、私も辞めたいってどこかで思ってたので、言葉が喉元まで出かかってたんです。でもどうしても辞めるって言えなかった。

堀之内 スタジオで俺以外の3人で話してて、スタジオから出てきた小出が「関根辞めるって」って。で、そこに対して俺がまた「なんで俺がいねえところで決めるんだよ!」ってキレる。

──モメ方が半端じゃない……今、話聞いてるだけでちょっと気分悪くなってきたわ(笑)。そういうとき湯浅くんはどうしてるの?

湯浅将平(G) 聞いてましたね。

──やっぱり黙ってる(笑)。そういう意味で「新呼吸」は間違いなく2011年的なアルバムだよね。でも、メンバー同士改めてぶつかりあったりして、ちゃんと第2思春期してたってことじゃない?

堀之内 そう言われるとそうなんだなってピンときますね。

関根 めちゃめちゃ思春期だね。

小出 2011年に自分たちがライブについてだったり、バンドってなんだろうみたいなことをナーバスになるぐらい考え出したっていうのは、このあとの動きにすごくつながってるんですよ。2012年、2013年といろんな人とコラボレーションをやったりしたし、たくさんライブもやった。でも2012年、2013年にやったライブって1回も納得したことがなかったよね。

堀之内 うん。で、本間律子さんっていうライブプロデューサーについてもらうことになるんですけど、俺、その人にめちゃくちゃ怒られたんですよ。そもそもドラムがしっかりしてればバンドは大丈夫だって。すげーストイックな練習をさせられたんですけど、でもそれが結果的に今自分が一番楽になることだったし、メンバーもきっと楽になったと思う。

ニューアルバム「C2」2015年11月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
初回限定エクストリーム・エディション [CD3枚組] 4860円 /UPCH-29203~5
通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-20399
アナログ盤 [アナログ2枚組] 2015年12月2日発売 / 5184円 / UPJH-20002
初回限定エクストリーム・エディション DISC1 /
通常盤収録曲
  1. 「それって、for 誰?」part.1
  2. こぼさないでShadow
  3. 美しいのさ
  4. 曖してる
  5. 文化祭の夜
  6. レインメーカー
  7. どうしよう
  8. カシカ
  9. ホーリーロンリーマウンテン
  10. HUMAN
  11. 不思議な夜
  12. 「それって、for 誰?」part.2
初回限定エクストリーム・エディション DISC2収録曲
  1. 「それって、for 誰?」part.1(Instrumental)
  2. こぼさないでShadow(Instrumental)
  3. 美しいのさ(Instrumental)
  4. 曖してる(Instrumental)
  5. 文化祭の夜(Instrumental)
  6. レインメーカー(Instrumental)
  7. どうしよう(Instrumental)
  8. カシカ(Instrumental)
  9. ホーリーロンリーマウンテン(Instrumental)
  10. HUMAN(Instrumental) 
  11. 不思議な夜(Instrumental) 
  12. 「それって、for 誰?」part.2(Instrumental)
初回限定エクストリーム・エディション DISC3収録曲
  1. CRAZY FOR YOUの季節 <Album ver.>
  2. GIRL FRIEND
  3. 祭りのあと
  4. ELECTRIC SUMMER
  5. スイミングガール
  6. YOU'RE MY SUNSHINEのすべて
  7. GIRL OF ARMS
  8. DEATH と LOVE
  9. STAND BY ME 
  10. ラストダンス
  11. SHE IS BACK
Base Ball Bear(ベースボールベアー)
Base Ball Bear

小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2015年は「シリーズ“三十一”」と題して8月から3カ月連続で“エクストリーム・シングル”を発表した後、バンド結成記念日である11月11日にニューアルバム「C2」をリリースした。

RHYMESTER(ライムスター)
RHYMESTER

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。
なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。