音楽ナタリー Power Push - Base Ball Bear
宇多丸が突撃!“第2思春期3部作”が完結したワケ
わからないなら、よそに似たような味のお店あるんで
──で、それを経た結果、ベボベにとっての“青春”が、再定義できたんだと思うんですよね。僕は常々、青春っていうのは“可能性が開かれた状態”だと思っていて。で、過去のすごく可能性が開かれていた状態を振り返るときに、人は懐かしさを感じるんだと思うんだけど。でも今回のアルバムでは、例えば「どうしよう」で、ずばり「青春が終わって知った / 青春は終わらないってこと」って歌ってるじゃないですか。それはつまり、大人になっても、自ら可能性を閉じない限り青春は終わらないんだ、って決意表明なんだと思うんですよ。で、この“可能性”って部分が、ベボベの曲にとても大きな意味を占めてるんじゃないかと僕は考えるようになって。それこそ他者に対するイラ立ちも、ひとことで言えば「なんでそんな簡単にすべてを決めつけてしまうんだ」「なんで勝手に可能性を狭めてしまうんだ」という怒りなんじゃないかと思うんです。
小出 そうですね。思考停止に対してムカついてるんですよ。このアルバムの主なイラ立ちの原因はそこなんです。なんでみんな即時的な盛り上がりとかにウェーイ!と飛びついて、今後のこととか考えないんだろうなとか。今楽しければそれでいいのかよとか、そういうイラ立ちにだんだんなってきてて。
──ただ今回のアルバムでは、そういう他者に対する違和感や怒りさえ、たとえば「HUMAN」で、大きな意味で世界が持つ“可能性”に昇華されていく。やっぱりちょっとスタンスが大人になってるんですよね。で、そこからさらに、「不思議な夜」で、「たまにこんな夜があればこの世界もなんとか生きていけるじゃん」みたいな、大きく言えば人生の価値みたいなところまで力強く打ち出していて……「二十九歳」ラストの「カナリア」にも通じる構成だけど、ホントよかったっす。泣いちゃいました。
小出 あはは(笑)。ありがとうございます。でも本当にその通りなんですよ。
──そうやって今回ベボベが決定的に青春を再定義して、大人になることに成功したとして、それってリスナーに対してはちょっとした賭けでもあったりしない?
小出 うーん、今のロックシーンのスタンダードは「ウェーイ!(ドッチータッチードッチータッチー)」ですから(笑)。今作は現在のスタンダードではないでしょうね。ただ、フェスでいえば、メインステージから一番ちっちゃいステージまでサイズが違うだけの同じことが起きていて、それをみんなが楽しい楽しい言ってるのもわけがわからないんですよ。何しに来てんの?っていう。とはいえ、盛り上がっているところに水を差すのもなんだし、だったら僕らはちょっと先に行ってますねってことで。でも、こうしておかないと、この“ウェーイフェスティバル”にみんなが飽きたときに、「まわりを見渡したら砂漠でした……」ってことになったら困るじゃないですか。だから、今はわからないかもしれないけれど、砂漠に水を撒いておく必要がある。2、3年後とかに「Base Ball Bear、3年前にもうこれやってたんだな」とか思ってもらえればいいし、時間をかけてじっくり共有できたらなって思ってます。
──あとさ、こいちゃんは歌詞がアルバムを重ねるごとに聞き取りやすくなってるんだけど、いざ歌詞カードを読んでみると、音だけで聴いてた段階で思ってた言葉と違ったりすることが多いんだよね。特に今回、同音異義語があえて多用されてるよね。
小出 何回も聴いて発見があるような仕掛けを意識的に組み込んでいったんですよ。何度も聴いていくうちに表面的なメッセージだけじゃなくて、作者の意図にどんどん気付いていくというか。例えば美術館でゴッホの「ひまわり」を観て、「へえー、ひまわりの絵なんだな」って言って帰る人いないじゃないですか(笑)。美術館に行く人はみんな、じっくり鑑賞して、質感だったり色合いだったりを味わうわけで。でも、音楽も、ロックだって昔はみんなそうやって楽しんでたはずなのに、今は一聴してわかりやすいものが求められてる。っていうか、わかりやすいが美徳とされている空気すらある。
──1周でわかってもらえない恐怖はないですか?
小出 全然ないですね。少なくともうちのバンドのファンの方たちは「何重にも仕掛けてきてるぞ」っていうのをもうわかってくれてるんですよ。言葉やサウンドから読み解こうと、何回も何回も聴いてくれる方たちなので、それに関しては安心しているし、意図が伝っていて本当にうれしいです。あとはこの意図や意志がジワジワと広く伝わればいいなと思ってます。それは自分たちを理解してもらいたいというだけではなくて、真面目に正攻法で戦う人たちにも戦いやすい土質になっていってもらいたいです。あとはもう、はっきり言って「昔みたいな青春っぽさがない」とか「疾走感がない」とか言われてもどうでもいいんです。好みの領域にどうこう言うつもりはないし、どうしてもそういうものを求めるのであれば、無理にお願いするつもりもないですし。
──なるほど。よそに似たような味のお店あるんでみたいな感じね。
小出 そうそう。うちの店はもうその型、生産終了しましたので(笑)。
「C2」ができてバンドの寿命が10年伸びた
──あと、僭越ながら言わせていただくと、なんかこのアルバムさ、他人が作ったものだって気がしないんだよね。俺らが言ってることとテーマの本質が本当に近いというか。それこそ「『それって、for 誰?』part.1」で、他者に対してどう折り合いをつけんのかみたいな問いかけからスタートして、終盤の「HUMAN」でそれを多様性という答えに回収していく、そういう構成というか論理の流れが、僕らのこの間の「Bitter,Sweet & Beautiful」ってアルバムにすっごく近いと思うし。あと、RHYMESTERに「ラストヴァース」とか「そしてまた歌い出す」っていう曲があるんだけど、「『それって、for 誰?』part.2」なんか完全に同じメッセージだもんね。
小出 こうやって締めるのは自分でもRHYMESTER的だと思ってました。そもそも、僕は昔からRHYMESTERの持ってる論の立て方や思考の順序立てが大好きだし、一緒に曲を作ってからは特に、僕が一番感化されてる人たちだと思うんですよ。だからこそ今回「『それって、for 誰?』part.1」で外に対してこれだけ言ったっていうことは、自分はこういうスタンスだっていうのをはっきり表明しないと成立しないと思ったんです。だから「part.2」を作る必要があったし、その中での言い方についてしっかり悩む必要があった。で、考えに考えてやっぱりこういうところにたどり着いたっていうのも、RHYMESTERの影響は絶対にありますね。
──そう、だから熱い! 小出熱いぜ!とグッと来たところもあります。流れで聴くといいアルバム、アルバムらしいアルバムをちゃんと作り続けてるところも共通してると思うし……とにかくベボベは今回、バンドとしての足腰もさらに強くなったし、歌詞も見事に成熟したし、偉そうな言い方だけど、この「C2」を作り上げたことで寿命が10年は確実に伸びたと思いますよ。あと歌詞で言うと、どんどん具体性が高まっているというか、まあヒップホップ的と言っていいのかな……とにかく異常に「歌の詞にそれ入れる?」っていう刺さるフレーズが増えたよね。
小出 宇多さんを前に自分から“ヒップホップ的”とは言えなかったんですけど(笑)、僕としては本当にそういう気持ちで作っていました。僕はさっき言ったように怒ってる人だから、ここに対して素直になれるかどうかっていうのは1つの節目だったんですよ。ギターロックで怒ってる人ってあんまりいないので。いたとしても自分語り領域に忍ばせてしまうし、ここまで物申してる人は少ない。でもRHYMESTERに一緒に「THE CUT」を作ってもらったことで混血したというか、免罪符を得たというか、ギターロックでもこういう歌詞は全然成立させられるんだなと思った。
──それに、あれだけ言いたいことを言ってる「『それって、for 誰?』」が、それでもあんまり嫌な感じに響かないのは、“みんな内心思ってるけど言わなかったこと”をちゃんと抽出してるからだよね。それこそ、SNS的なるものへの皮肉だって、SNSやってる人みんなが自分でも薄々思ってることだったりするんじゃない? っていうか、曲でSNS文化的なものにここまではっきり文句言ってる人もなかなかいないですよ。俺たちでももう少しぼかすと思うわ(笑)。
Base Ball Bear あはは(笑)。
──でもそこがすごくいいと思う。その潔さ。あとアルバムを通して聴いたときのちゃんと丁寧な落とし前の付け方とかも含めて、参りましたって感じ。2015年現在の日本にふさわしい、素晴らしいアルバムだと思いました。なおかつ、自分らも同じ年に、この作品とある意味重なるようなアルバムを出せていてよかったなあと、僭越ながら改めて思っております。
小出 いやいや、こちらこそ。大好きな人たちが自分と同じようなことを考えていて、すごくうれしかったです。ありがとうございました。
- ニューアルバム「C2」2015年11月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
- 初回限定エクストリーム・エディション [CD3枚組] 4860円 /UPCH-29203~5
- 通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-20399
- アナログ盤 [アナログ2枚組] 2015年12月2日発売 / 5184円 / UPJH-20002
初回限定エクストリーム・エディション DISC1 /
通常盤収録曲
- 「それって、for 誰?」part.1
- こぼさないでShadow
- 美しいのさ
- 曖してる
- 文化祭の夜
- レインメーカー
- どうしよう
- カシカ
- ホーリーロンリーマウンテン
- HUMAN
- 不思議な夜
- 「それって、for 誰?」part.2
初回限定エクストリーム・エディション DISC2収録曲
- 「それって、for 誰?」part.1(Instrumental)
- こぼさないでShadow(Instrumental)
- 美しいのさ(Instrumental)
- 曖してる(Instrumental)
- 文化祭の夜(Instrumental)
- レインメーカー(Instrumental)
- どうしよう(Instrumental)
- カシカ(Instrumental)
- ホーリーロンリーマウンテン(Instrumental)
- HUMAN(Instrumental)
- 不思議な夜(Instrumental)
- 「それって、for 誰?」part.2(Instrumental)
初回限定エクストリーム・エディション DISC3収録曲
- CRAZY FOR YOUの季節 <Album ver.>
- GIRL FRIEND
- 祭りのあと
- ELECTRIC SUMMER
- スイミングガール
- YOU'RE MY SUNSHINEのすべて
- GIRL OF ARMS
- DEATH と LOVE
- STAND BY ME
- ラストダンス
- SHE IS BACK
Base Ball Bear(ベースボールベアー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たし、2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2015年は「シリーズ“三十一”」と題して8月から3カ月連続で“エクストリーム・シングル”を発表した後、バンド結成記念日である11月11日にニューアルバム「C2」をリリースした。
RHYMESTER(ライムスター)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。
なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。