ナタリー PowerPush - バロック

激動経てたどり着いた、確かな“今” 怜ソロインタビュー

正直焦った万作失踪

──万作さんが行方不明になってしまったのは、去年の6月26日からスタートした「TOURバロック現象 第3現象 激しいライブハウスツアー」の直前ですよね。

いなくなったのがライブの2日前ですからね。正直、焦りましたよ。最初は「当日になったら姿を見せて、土下座して謝るんじゃない?」って思ってたけど、結局、来なかったから……。みんな不安だったんですけど「ちゃんと伝えにいかなくちゃいけない」と思ったし、結果的にはツアーを止めなくて良かったと思いますね。ファンにも支えられました。「万ちゃんがいないのに、なんでツアーをやるの?」という人がいないとは思ってないんですけど、すごく意味のあるツアーだったと思います。

──バロックにとってはもちろん、怜さんの音楽人生の中でもメチャクチャ大きい出来事ですよね……。

2012年11月7日のNHKホール公演の模様。(撮影:河井彩美)

そうですね(笑)。ベース、流しましたから。

──実際に万作さんが弾いたベースの音源を?

うん。ライブテイクとかCDの音源とかを混ぜて、いろいろ工夫してもらって。昔のライブテイクに関しては、ちゃんと弾いてるものが全然なかったんですけどね(笑)。暴れん坊だから、万ちゃんは(笑)。最初はかなり違和感がありましたね。特にサポートドラムのササブチヒロシさんには本当に苦労をかけました。「え、音源を流すの? テンポはどうするの?」から始まって……。バロックの昔の曲って、曲の途中でテンポが変わったりとか、結構アバウトなんですよ。もちろん人間的な揺れの範囲なんだけど、それに合わせるのは大変じゃないですか。俺自身もいろいろと経験させてもらいましたね。

──そのアクシデントを乗り越えて、ツアーをやり終えたことはバンドにとって本当に大きかったと思います。

やり終えた時点で、さらに考えなくちゃいけない感じでしたけどね。このまま続けるのか、やめるのか。やるにしても、何を歌っていくのか……。いい意味でも悪い意味でも新しいバロックというものを見ていかなくちゃいけなかったし、みんなも葛藤していたと思います。少なくとも俺はすごく葛藤してた。そういう意味では、「キズナ」というシングルが一番の番外編だったと思うんです。

──番外編というと……?

去年の12月のタイミングでシングルを切る予定はなかったんですよ。ただ、万ちゃんが現状ではいなくなってる中で、活動をどうしていこう?という話をして……(11月7日)のNHKホールまでは4人で決めたスケジュールだったんですけど、そのあとメジャーでやるということも含めて、何かしらのけじめが必要だと思ったんです。それは「さよなら」ということではなくて、そのときの自分たちの思いだったり、メッセージを込めた曲を残さなくちゃいけないということなんですけど。

──なるほど、それが「キズナ」という曲だったんですね。

そうです。ジャケットのデザインは、鍵穴をモチーフにしていて、今まで4人で作ってきた作品をちりばめてるんですね。作曲した圭(G)も「記憶を閉じ込めたい」ということを言っていて、そこでしっかりリンクして。自分たちも心を決めないと、先に進めないと思ったし。もちろん万ちゃんの居場所をなくしたわけではないし、今も待ってる状態なんですけどね。

──これだけ大きなアクシデントがあってもバンドを続けようと思った最大の理由はなんですか?

うーん……やっぱり、バロックが好きだからじゃないですか? メンバーがバロックを愛している限り、歌い続けようと思ってるし。何より、俺が一番のファンなんですよ。このバンドが好きで、このメンバーが好きで、だからこそ続けたいんだなって、最近よく思うんですよね。音楽が好きだからバンドを作ったわけではなくて、圭と出会って、その人間性が面白いと思ったから「一緒に何かやりたい」と思ったんですよ。その最大のツールが音楽だったっていう。だったら、あとは真剣に遊ぶだけだなって——この1カ月くらい、心底そう思ってますね。そういうシンプルなところにたどり着くまでに、10年くらいかかった気がするけど(笑)。

──さっき言ってた「バロックは自分の夢」ということにもつながりますか?

もちろんそうですね。その思いでここまで駆け抜けてきたし、それが今も色褪せてなかったんだと思います。だって、青春時代から始めてるバンドですから。kannivalismもそうですけど。

最初は単なる悪ガキの集まり

──ちなみにバロックって、どんなビジョンの元に始まったバンドなんですか?

2012年11月7日のNHKホール公演の模様。(撮影:河井彩美)

最初は晃(G)くんと万ちゃんが軸になってたんです。kannivalismの初ライブに晃くんたちが来て、「一緒にバンドやろうよ」って誘われて(笑)。もうひとりギターを探してたから、「kannivalismのギター(圭)、いいですよ」って俺が紹介して。万ちゃんはMERRYのガラさん、ネロさんと一緒にバンドをやってたし、晃くんも結生さん(MERRYのギタリスト)とバンドやってから、俺にとっては大先輩なんですけどね。最初はずっと敬語で話してたし(笑)。

──当時から「面白いことができそう」という予感があった?

俺、条件を挙げさせてもらったんですよ。「すぐさまデカいところで歌いたい」って。当時はまだ10代だったんですけど、「20歳までにメジャーデビューしたい」って言って「よし、じゃあやろう。すぐやろう」ということになって。

──それが実現した、と。

そうですね。やりたいと強く思って行動すれば、必ず夢は叶うっていう。それがこのバンドの魅力だったとも思うし。まあ、最初はかなりメチャクチャでしたけどね(笑)。俺が入ったときに既にライブも決まっていて、しかも1日2公演だったんですよ。曲も全然なかったのに。

──確かにメチャクチャですね(笑)。

あるイベントのライブでは1曲目からトラブルでベースとギターの音が出なくなっちゃって、ドラムとボーカルだけでやってたこともあったし。バンドに必要なものが全然備わってなかったんですよ。単なる悪ガキの集まりというか(笑)。

──今は音楽的な技術も伴ってますけどね。

全部あとから身に付けたんですよね。それが7年間のブランクの良いところかもしれないです、もしかしたら。それぞれが自分の楽器だったり、自分自身と向き合ったと思うし、そこで得たことも大きいんじゃないかなって。

ニューシングル「たとえば君と僕」 / 2013年1月23日発売 Warner Music Japan
初回限定盤A[CD+DVD] 1000円 WPZL-30547/8
初回限定盤B[CD+DVD] 1000円 WPZL-30549/50
通常盤[CD] 500円 WPCL-11268
CD収録曲
  1. たとえば君と僕
初回限定盤A DVD収録内容
  • 「たとえば君と僕」ミュージック・ビデオ
初回限定盤B DVD収録内容
  • 「メロウホロウ」ミュージック・ビデオ
バロック

怜(Vo)、圭(G)、晃(G)からなるヴィジュアル系ロックバンド。2001年に結成。瞬く間に人気を獲得して2003年にシングル「我伐道」でメジャーデビューし、同年8月に初の日本武道館ライブを成功させるも、2004年12月25日にZepp Tokyoでのライブをもって解散する。その後、怜と圭はkannivalism、晃はboogiemanのメンバーとして活動。2011年7月に横浜赤レンガ倉庫野外特設ステージでフリーライブを行い、本格的な活動再開を発表。2012年からは、1月に完全復活第1弾シングル3タイトルを同時発売するなど、精力的なリリースやライブ活動を続けている。なお2012年6月にメンバーの万作(B)が行方不明になり、その後代理人を通じて体調不良による契約解除の申し出があったため、現在は3人で活動中。


2013年1月31日更新