シンガーでクリエイターのあたしが、6月16日に新曲「イベリス」をリリースした。
「イベリス」は、MBS系で放送中のドラマ「4月の東京は…」のオープニング主題歌。中学時代に同級生だった和真と蓮の10年越しの“運命の恋”を描く「4月の東京は…」のために書き下ろされたこの楽曲で、あたしは大切な人へのまっすぐな愛をみずみずしく歌い上げている。
リリースを記念して、音楽ナタリーではあたしへの初インタビューを行った。現役高校生時代に歌い手として活動を始めた彼女がデビューのチャンスをつかみ、ドラマ主題歌を担当するに至るまで。これまでの歩みの1つひとつについて、話を聞いた。
取材・文 / 三橋あずみ撮影 / 望月宏樹
なんでも演奏するガールズバンド
──まずは、あたしさんが3年前に「現役女子高生あたし」として歌い手の活動を始めた、そのきっかけから伺ってもいいですか?
高校生のときに私は軽音楽部に所属していたんですが、2年生の終わり頃にコロナ禍になってしまって、バンド活動がなかなかできなくなってしまったんです。そうしたら、顧問の先生が「YouTubeに歌を投稿してみたら?」と提案してくれて。その言葉をきっかけに投稿するようになったのが始まりです。
──「歌い手になりたい」という意志で活動を始めたわけではなかった。
そうなんです。もともと“歌ってみた”文化は大好きだし「将来、音楽に関わるお仕事がしたいな」ということも考えていたんですけど、自分が歌い手になることでその夢を叶えるということは考えていなかったんです。なので、1本目に投稿したのも自分のオリジナル曲だったんですよ。
──そうだったんですね。そもそも、軽音楽部に所属されたのは何がきっかけで?
母が歌手をやっていて、小さい頃から音楽が身近にある環境だったんです。だから自然と選んだ感じでした。
──部活動では、どんな曲を歌っていたんですか?
私含めて4人組のガールズバンドをやっていたんですけど、みんなそれぞれに好きなアーティストさんがいて、それぞれの好きな曲を持ってくるというスタイルで。だから演奏する曲はバラバラ(笑)。ドラムの子はback numberが好きで、ベースの子はMrs. GREEN APPLEが好きだったからミセスもやって、私とキーボードの子はVocaloidが好きだったので、ボカロ系の曲も演奏していました。
──特に好きなボカロPはいらっしゃるんですか?
私はVocaloid界隈が全体的に好きなのですが、その中でも特に好きなのはきくおさんです。自分の音楽性や表現に影響を受けているか?と言ったらそれはちょっと違って、ただただ好きという感じなんですけど……小学生くらいのときにニコニコ動画を観始めて、Vocaloidを知って、ずっと幅広く聴いてきました。
あたしが歌ってあたしが発信するなら「あたし」でしょ
──歌ってみた動画の投稿を始めた当初の活動はいかがでしたか?
すごく模索していましたね。どんな曲が自分の声に合うのか?みたいなこともわかっていなかったから、自分の好きな曲を歌ってみたり、その日に出会って「めっちゃいい!」と思った曲を衝動的に録ってみたり、自分なりに試していました。
──視聴者からの反応はどうでした?
まずYouTubeを始めて、そのあとにTwitterのアカウントを作って動画の紹介を始めたんですけど、Twitterの初投稿に400いいねくらい反応をもらったんです。それまでは見ず知らずの方に評価されるという経験がなかったので、めちゃくちゃうれしかった記憶があります。やりがいを得た感覚でした。
──投稿はどのくらいのペースで?
始めた当時は本当に何も考えてなかったし、学校もお休みだったりしたので、時間が無限にあったんです。なので、一時期は1週間に2、3本のペースで投稿したりとか。あとから聴き直し自分的に納得がいかなくて、消してしまったものもけっこうあるんですけど……(笑)。でも、そのくらいのペースで最初は上げていましたね。
──ちなみに、投稿者名を「あたし」としたのにはどんな理由が?
もう、本当に衝動的なんですけど……「あたしが歌ってあたしが発信するなら『あたし』でしょ!」みたいな理由です(笑)。
──たくさん動画を投稿される中でも、特に大きな反響を集めたのは「グッバイ宣言」の歌ってみた動画かと思います。こちらの動画は、現在532万再生されています。
そうですね。この曲は確かTikTokで最初に聞いて、YouTubeのおすすめにも出てきたので「聴いてみよう」と再生してみたらめちゃくちゃハマって、そのまま自分も歌って投稿した流れでした。
──視聴者からの反響は、どのように受け止めましたか?
こんなにたくさんの方に自分の歌を評価してもらえるなんて思っていなかったから、めちゃくちゃびっくりしたのが一番です。周りの人からも「すごいじゃん」と言われて、すごくうれしかったことを覚えています。
──その反響が、あたしさんに変化を与えるようなことはありましたか?
投稿した時期が、確か高校3年生の1月か2月くらい。動画投稿を始めて1年ほど経った頃で、もうすぐ卒業というタイミングだったんです。卒業後は一応音楽の道に進もうとは思っていたけれど、自分の歌は世間の人に認められるのか、いいと思ってもらえるのか。私は音楽で生活していけるのか、不安を抱えて一番ふわふわしていた時期で。そんなときに「グッバイ宣言」の動画にたくさんの反応をいただけたので……「こんなに反応をくれる人がいるならがんばろう」と決心できたような気がします。
いまだに初めてのことをし続けている感覚
──その後、SDR主催の「クリエイターズマッチングプロジェクト」(イラスト、楽曲、歌唱、ストーリーという4項目でそれぞれの才能を募る、マッチング形式のコンテスト)という企画に参加されたんですね。
はい、誰にも何も言わず、ひっそりと応募したんです(笑)。そうしたら、たまたま見つけてもらえて。
──このプロジェクトで、あたしさんの所属チームが優勝し、個人としても歌唱部門で受賞をされました。
「あたし」のキャラクターをまったく知らない人たちが、歌だけで自分のことを評価してくれたことがすごくうれしかったです。
──レーベルに所属されてデビューして以降、2022年から今年の5月までに計10曲が配信リリースされました。かなり精力的に活動されていますよね。
それまでは歌ってみたの活動が中心だったので、オリジナル曲を発信していくということがほぼ初めての経験で。1年経ったという実感がないですし、いまだに初めてのことをし続けている感覚なんです。なので、心境は活動当初からあまり変わらないです(笑)。
──そんな去年の活動の中で、特に印象に残っていることはありますか?
8月末に出演したライブイベントが印象に残っています。高校時代の軽音楽部の活動含め、それまではほかのアーティストさんのカバー曲でライブをしていたけれど、初めてオリジナル曲でライブをしたんです。たくさんのアーティストさんのファンの方が聴いてくれている環境だったんですけど、自分のオリジナル曲で、生歌で「あたし」のことを知ってもらえて……実際、ここで私のことを知って、YouTubeを観てくださった方もいて。それがすごく印象的でした。
──ステージに立つ感覚についてはいかがですか?
緊張しいなので舞台裏ではめっちゃビクビクしているんですけど(笑)、ステージに立つこと自体はすごく好きなんです。簡単な言葉になってしまうんですけど、やっぱり楽しいです。
理由があったらすぐに外へ出ます
──ちなみに、あたしさんのパーソナルなお話も少し伺えたらと思うのですが……趣味や好きなことはあったりしますか?
時期によっていろいろ変わるんです。絵を描くのがすごく好きな時期とか、ゲームをするのが好きな時期とか。私、普段まったく外に出ないんですよ。超インドア派なのに、急に花畑を見に行きたくなる時期があったり(笑)。ゲームをすることとマンガを読むことは好きです。それこそ最近は「マインクラフト」にハマっていて、友達と夜通しでゲームすることもあります。
──マンガで言うと、「東京卍リベンジャーズ」がお好きだということは資料で拝見しました。
そうなんです。単行本を買いつつ、本誌の展開も気になるからWeb版を買って、映画も観て……すべてのコンテンツに食い付いています(笑)。
──基本インドアではあるけれど、行動派は行動派なんですね。
そうかもしれないです。フットワークは軽いけど、外に出る理由がない、みたいな。花畑にハマったときみたいに、理由があったらすぐに外へ出ます(笑)。
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相手のことを長く、ずっとまっすぐに愛しているんです