ASKA、憧れのデイヴィッド・フォスターとの共演を振り返る (3/3)

この曲は世の中のために作ったんじゃない

──そしてASKAさんがかねてからデイヴィッドさんからの影響を強く受けた曲だと公言している「PRIDE」から、Chicago「Hard To Say I'm Sorry」への流れも素晴らしかったです。ラストで再びデイヴィッドさんを招き入れて2022年リリースの「僕のwonderful world」をパフォーマンスされましたが、あの曲を最後に歌おうというのは早くから決めてらっしゃったんですか?

決めてました。自分で言うのはなんですけど、この時代に「僕のwonderful world」を作って本当によかったと思っているんです。(コロナ禍の)すさんだ3年間で「何が“Wonderful world”だ」と思われた方もいらっしゃったでしょう。でも、そうじゃないんです。突き放した言い方に聞こえるかもしれないですが、「この曲は世の中のために作ったんじゃない、自分のために作った曲だから」って。自分が世の中の波動を受けて本当に気持ちが沈んでしまってるときに、すごく気持ちが温かくなる曲を作ってみたいと思って書いたのがこの曲ですから、それを最後に持ってこられてよかったです。

──「僕のwonderful world」に勇気付けられたファンの方も多いと思います。

僕はみんなのために曲を作ることはほぼなくて、自分のためであり、ただ自分がいいと思った楽曲をみんなに聴いてもらいたいだけなんですよね。そういう意味で曲を作るまでは自分の曲だけど、それが世の中に出たらもう世の中の楽曲なんだと思ってます。

──夢のような3公演でしたが、共演を終えられた感想はいかがですか?

すべての出来事は“始まり”が“延長”になるだけで、どこかでFin(終わり)になったとしてもそれは“一旦のFin”で、そこからまた次が始まると思っているんです。だからデイヴィッドとのステージもこれで終わりではない。この先のアメリカの情勢がどうなるかわからないですけれども、いつかデイヴィッドのもとを訪ねたいです。

──新たな展開を期待しております。この日の収録会場となったぴあアリーナMMは2020年にオープンした音楽専用アリーナですが、実際にステージに立たれた感想はいかがでしたか?

すごくやりやすかったです。やりやすいっていうのは、いろんな意味があって。音重視でやりやすいと思うミュージシャンもいるでしょうけど、僕の場合はステージをやるうえでの最大の演出はお客さんだと思っているんです。お客さんがステージに立つ僕を観るのと同じように、僕もいちオーディエンスとして満員のお客さんが盛り上がる光景を見ている。そしてステージの演出とお客さんの演出が相まって、そのときの景色ができる。音楽のステージにおいて最高の演出はお客さんが完成させるものなんだというのが僕の考えなので、そういう意味で、ぴあアリーナMMはすごく演出ができる会場でした。また機会があったらやらせていただきたいですね。

ASKA

若者が多い音楽フェスには「乗り込む感じ」

──ツアーの合間、今年7月には茨城・国営ひたち海浜公園で開催された音楽フェス「Lucky Fes '23」にも出演されました。貫禄のパフォーマンスが話題になりましたね。

僕はフェスに出るとき、いつもアウェイのつもりで乗り込む感じなんです。その場にいるお客さんをつかんで離さないようなパフォーマンスを心がけて40何年やってきましたけど、「ASKAって名前だけは知ってるぞ」っていう若い人たちもいるので、そういう層に向けて、思いっきり今の自分のパフォーマンスを見せるんだという気概でいます。

──動画撮影をOKにされたんですね。SNSでライブ映像をたくさん目にしました。

前回のツアーの最終日にも動画撮影OKにしたんですよ。ああいう撮影って中途半端に規制するとブラックマーケットで売られてしまいますけど、規制しなければ誰もが持ってるものだから買わないですよね。ただ、慣習の変わり目って非常に難しいところで。みんなが撮影してると、後ろにいるお客さんの中にはすごく邪魔だなと思う方もいらっしゃるでしょうから、これが当然なんだと変わるにはちょっと時間かかるでしょうね。そこはうまく使い分けないといけない時期です。今って、いろんなことがダブル、トリプルスタンダードですから。僕としては個人が楽しむ分にはかまわないんですけどね。Blu-rayを出すときには映像も音も最高のクオリティのものができあがってくるわけで、お客さんが撮影する動画はそれとはまったく別物ですよ。

音楽を楽しむことが一番

──最後にもう1つ、うかがってもいいですか? 先ほどASKAさんは滅多に緊張しないというお話をされてましたよね。

僕はどんなときもステージ前に緊張しないんですよ。なんなら楽屋で着替えた瞬間、後ろを振り向いてすぐにお客さんがいても大丈夫ですから(笑)。

──喉は精神的な影響を受けやすい器官ですが、普段どうやってリラックスされているんですか?

別に外部に対してバリアを張ってるわけじゃないんです。全部受け止めながら、僕にとってどうでもいいこと、知ったこっちゃないっていうものはサッと受け流してるだけです。今の時代、外的な言葉から身を守るタフさを持ってないと生きていけないですよね。それは僕らだけじゃなくて一般の人もそう。正義を振りかざしたい側でいたい人たちの正義ってあるじゃないですか? これが一番厄介ですね。そこはもう取捨選択していかないといけない。いいことか悪いことか、本人が一番わかってますよ。そんなこと周りから言われなくても。だけど今、世の中おかしいですよね? 僕が過ごしてきた70年代、80年代、90年代の感覚とはまったく違いますから。

──ライブのMCでも「時代は回るなんて言うけど、“あの90年代のいい時期をもう一度”なんて考えてると絶対に来ないから。過ぎ去ったものとは別の形で、エンタテインメント性を持ったステージをこの先どこかでやれると信じてます」とおっしゃっていましたね。確かに今の時代の音楽のあり方については、いろいろと考えてしまいます。

だけどミュージシャンは音楽を楽しむことが一番大切であって、「ここはひとつ音楽の力でみんなを幸せにしないと」なんていうのは、よこしまな考え方なんです。音楽で世の中なんて変えられないですから。無理ですよ、そんなこと。もし変わったとしても、変えられた側がそう思っているだけですから。だから余計なことを考えずに楽しむことが一番大切なんじゃないですか。僕はそう思います。

──力強い言葉をありがとうございます。2024年もまたASKAさんの歌声をいろんな場所で聴くことができそうですね。現在レコーディング中だそうで、本当は今年中に4曲仕上げたかったとブログに書かれていました。

完成させたかったけど、忙しすぎて時間が全然足りなかったです(笑)。でも、すでに何曲かはできてますから。ぜひ楽しみにしていてください。

プロフィール

ASKA(アスカ)

CHAGE and ASKAのメンバーとして1979年にシングル「ひとり咲き」でデビュー。約300万枚のセールスを記録した「SAY YES」をはじめ、ヒットナンバーを数多く世の中に送り出す。1988年にアルバム「SCENE」でソロデビュー。1991年にリリースされた3rdシングル「はじまりはいつも雨」がミリオンヒットを記録し、ソロアーティストとしても地位を確立した。2017年には自主レーベル・DADAレーベルを立ち上げ、アルバム「Too many people」「Black&White」を発表。同年10月には配信サイト「Weare」を開設した。2022年11月にアルバム「Wonderful world」をリリース。2023年3月にデイヴィッド・フォスターとのコンサート「ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」を開催し、4月から8月にかけて全国ツアー「ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023」を行った。2024年1月にライブBlu-ray「ASKA featuring DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」をリリース。