ASKA、憧れのデイヴィッド・フォスターとの共演を振り返る (2/3)

娘・宮﨑薫との初共演

──スペシャルゲストとして招かれた宮﨑薫さんが歌うセリーヌ・ディオンの「To Love You More」も、当日のハイライトのひとつでした。

デイヴィッドは薫に数曲、共演曲を提示してくれたようです。その中の1曲が「To Love You More」で、薫も歌いたい曲だった。僕は薫に「The Power of Love」を歌ってほしかったんですけけどね。結果、薫のチョイスに間違いはなかったですね。あの曲で正解だったと思います。

──薫さんとの初共演のステージはいかがでしたか?

僕はこういう取材で娘のことはほとんどしゃべってなかったんですけど、僕としては親子という部分を切り離して、いちミュージシャンとして、なぜこの才能がもっと世の中に出てこないんだろう?という気持ちが強かったんです。彼女は彼女なりに「ライブハウスから」という思いがあって、それが今のスタイルなんでしょうけど、きっかけがあれば大きいステージに目を向けていいんじゃないの?って話をよくしたんです。だけど「時代が違うから」って。まあ、そう言われてしまうとね。だけど僕から見て宮﨑薫は大きなステージがすごく似合うと思っていたので、大舞台で堂々とパフォーマンスしている姿を見て、「ああ、やっぱりな」と思いました。デビューからちょっと時間は経ちましたけど、その分を今から取り返しにいくんじゃないかって気がしてるんです。楽曲の作り方もすごくうまくなってるし。

──歌声はもちろん、華やかなドレスを見事に着こなされていたのも印象的でした。

宮﨑薫としてああいう衣装を着たのも初めてじゃないですかね。薫はラスベガスでセリーヌ・ディオンのライブを観ているので、向こうのシンガーが大舞台に立ったときにどういう佇まいで歌うのか、ステージパフォーマーとしての見せ方をインプットされていたみたいで、思い切ったことをしてましたよね。

──いつかASKAさんと薫さんのデュエットを聴いてみたいという気持ちが強くなりました。

親子ですから、声の成分って絶対に同じなんですよね。だからきっと歌うとすごくぴったりくると思うんです。双子のザ・ピーナッツがそうだったように。いい響きをするでしょうね。いつか機会があったら一緒にやりたいと思います。

ASKA

25年前まで使っていた右の声帯が復活

──声といえば、ASKAさんは最近ご自身のブログで、裏声を表声で発声する歌唱法「ミックスボイス」について触れられていましたね。

僕は「ミックスボイス」って最初知らなかったんです。たまたま風邪を引いたときにそういう声が出て、それからずっとその歌い方を忘れないようにしようと思ってずっとやってきたんですけど、周りのボーカリストが「あれどうやって歌ってるの?」ってみんな聴いてくるから、これって特別な歌い方なのかな?と思って。ただ、海外のミュージシャンはそういう歌い方をしていたらしくて、そのうちハーフトーンボイスって呼ばれるようになったんです。「ああ、そうか。表声がハーフで裏声がハーフで、それをまっすぐ出すからハーフトーンボイスなんだ」と思っていたら、そのうち「ミックスボイス」っていう言葉ができて、いつの間にか定着しましたね。

──真似したい人は多いけれど、なかなか真似できない歌い方です。

ファルセットの音域の歌い方を、怖がらずに表声のまんまで歌う。だから喉の声帯をグワッと絞らなきゃダメなんです。絞ったまま、思いっきり狭い隙間で。ファルセットだと広くなりますから。ハーッというふうに。そのハーッをグッと絞ると、ミックスボイスになるんです。それを思いっきり絞ったまま声を出すから、威力のある声になる。とはいえ、僕本人はよくわかってないまま歌ってますから、いつも必死です(笑)。

──今年の頭に「声帯の状態がとてもよい」とおっしゃっていましたけど、このBlu-rayで多くの方に堪能していただきたいポイントが伸びやかなASKAさんの歌声です。

僕もびっくりです。それこそデイヴィッドとやる少し前ぐらいから体の変化に気が付いて。もともと僕はずっと右の声帯だけで歌っていたんですけれども、壊してしまったんです。あれは1999年頃だから、今から25年前ですか。それで、右で歌えてたのなら左でも歌えるはずだと思い、左にスイッチしてトレーニングを始めて。最初は音程が不安定でしたが、だんだん左の声帯で歌えるようになり、それからずっと左だけで歌っていたんです。ところがある日、ふと右も使ってみようかな?と思って試してみたら、昔の声がバーンと出たんですよ。病院の先生は「もう二度と出ない」と言ってたけど、嘘じゃんと思って。おそらく機能しなくなったんじゃなく、うまくコントロールできなくなっていたんですね。ピッチャーが肘を悪くするのと一緒で。本当にひょんなことから右の声帯を使ってみたら鳴ったので、今はスイッチで両方できます。

──素晴らしい。利き声帯って、あるんですね。

ありますね。高い音域を歌うときに体が毎回同じ角度になっている人は必ず利き声帯を使ってますよ。普通はみんなだんだん歳を重ねていくと声が低くなっていくんですけど、ここに来て使ってなかった側の声帯で声が出てるので、ちょっとびっくりしてます。まあ、これもデイヴィッドと一緒にステージに立てる高揚感を受けて体が反応しただけかもしれないので、またすぐ出なくなるかもしれませんけど、この感覚を忘れないうちにツアーをやろうと思って、「ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023」(4月1日から8月4日まで全17公演が行われたライブツアー)の日程のスケジュールを早めにしたんです。

一夜限りの即興曲もBlu-rayに収録

──澤近さんとデイヴィッドさんがキーを合わせてピアノを弾き、それにASKAさんがスキャットでメロディを付けてこの日限りの曲をアドリブで作るコーナーも贅沢な時間でした。

デイヴィッドもああいうことをステージでしたことなかったそうなんです。澤近と目配せしながらお互いリレーしてたので、ああ、すごく楽しんでるなと思って。3公演とも違うキーで「今日はデイヴィッドの“D”でいこうか」なんて言いながらやってました(笑)。

──普段ASKAさんが作曲するときも、ああいう感じでメロディを作っているんですか?

ほとんど同じです。ただ、僕は手癖がありますから。ああいうふうにその場限りの緊張感……次にどこに展開するかわからない中、3人とも楽曲の構成について「こうすれば1曲になる」というのはわかってるので、Bメロでリット(だんだん遅く)しながらサビにデイヴィッドが入ってくると「ああ、来たな」って思いましたね。

──あの即興のメロディ、いつか作品として形にしてほしいです。

けっこうできてましたよね? 歌詞を書いてみてもいいかもしれないですね。