朝倉さやが7月5日にニューシングル「そのままの笑顔でいて」をリリースする。
今作には2017年6、7月に「NHKみんなのうた」でオンエアされている表題曲「そのままの笑顔でいて」のほか、「茶の間に帰る」「ただいま-moubangedadorya-」など、生きていることの素晴らしさや故郷のありがたみを歌う楽曲が収められている。さらにシングルには静岡の番組出演を機に、民謡を歌い継ぐ者としての使命を感じて制作された「茶摘み唄」も収録。7月から開催されるコンサートツアーも目前に迫るタイミングで、意欲的な活動を続ける彼女にインタビューを行った。
取材・文 / 上野三樹 撮影 / moco.(kilioffice)
世界は優しさでできている
──「そのままの笑顔でいて」はゆったりとした曲調の優しい楽曲です。こちらはNHK「みんなのうた」のために書き下ろされたということですが。
はい。曲を作るとき最初にいただいたテーマは「そのままの君でいいよ」というものだったんです。そこから「そのままの君ってなんだろう」と私の中で考え始めて。それで思ったのが、「人それぞれ長所と短所がある中で、それを互いに認め合うことが大事だな」ということなんです。認め合ったときにお互いの関係の中に新しい世界が広がるんじゃないかなと。
──実際にそういう経験をされたことがあるんですか?
小学生のときにとても仲のいい友達とケンカしてしまったことがあって。放課後そのまま家に帰ったら、次の日の朝までずっとそのことばかりを考えてしまうんですよね。「次に会ったとき、なんて話そう? どうやって謝ろう?」って。そしたらその友達もずっと同じことを考えていたみたいで、次の日にお互いの気持ちがわかったときにさらにわかりあえたし、もっと仲良くなれた気がしました。すごくいい経験だったので、当時のことを思い出しながら「そのままの笑顔でいて」を書きました。「この世界はいつも複雑にやさしく」という歌詞もありますが、小学生だけじゃなくて大人になって社会に出てからも落ち込んだり、傷付いたりすることはいっぱいありますよね。いろんな人がいますけど、1人ひとりとちゃんと話してみたら誰にでも優しいところや素晴らしいところがあるんです。いろんな感情や人間関係が複雑に入り組んでいるように見えて怖くなることもあるけど、本当はそんなことなくて。「1つひとつと向き合ったら世界は優しさでできているんだよ」ということが歌いたかった。「みんなのうた」として自分の歌にアニメーションを付けていただいたのは初めての経験だったのでとてもうれしいです。
「もう晩げだどりゃ!」
──表題曲以外の3曲についても聞かせてください。まずは「ただいま-moubangedadorya-」。こちらはアルバム「快進撃のミュージック」に収録されていた「おかえり-manzumamake-」と対をなすような曲ですね。
いわゆるアンサーソングです。BS日テレの「三宅裕司のふるさと探訪~こだわり田舎自慢~」で「おかえり-manzumamake-」をエンディングテーマとして使っていただいていたんです。それで新しいエンディングテーマとして「ただいま-moubangedadorya-」を書き下ろしました。ふるさとを思い浮かべると小さい頃の思い出が蘇ってきて、なんだか遠い記憶のように感じますが、実際その場所に行ってみるとつい昨日のことのようにも感じる。それが不思議だなと思いながらいろんな景色や家族とのやり取りを入れながら歌詞にしました。
──「moubangedadorya」というのは山形弁ですよね。
標準語にすると「もう夜じゃん!」って意味です。例えば「ただいまー!」って家に帰ってきたときに「あれ? 帰ってきたばっかりなのに、もう晩げだどりゃ!」という感じで家族に言われたりします。ちなみに「manzumamake」の方は「まずご飯食べろ」という意味。ひさしぶりに帰ってきたときとか、いろんな話をしたいだろうけど「まんずまんまけー!」ってことになります(笑)。
──温かなやり取りが目に浮かびます(笑)。「ただいま-moubangedadorya-」に出てくる「理由なんてものいらなかったんだ」「帰ろう そうだ、帰ろう」という歌詞もリアルで心に染みます。
東京にいると、何か理由がないと故郷に帰れない気がしちゃうんですよね。例えば誰かが結婚するからとか、何かいいことがあったから報告しに帰るとか。でもいざ帰ってみると全然そんなことなくて。いつでも待ってくれている家族や友達がいて「ここにいていいんだ、ここが帰る場所なんだもんな」と思うし、帰ることに理由なんていらないんだなって。私自身、上京したばかりの頃に「東京」という曲で「帰らないとても大切な遠いふるさと」と書いたくらい、しばらく帰らないでがんばらなきゃいけないと思っていた時期もあったんですが、家族はいつでも待ってくれていることに気付いて、今はちょっと違う思いになっているんです。こんなふうに思えるようになったのはいろんな経験をさせていただいたからこそなので、本当に幸せなことだと思います。「ただいま-moubangedadorya-」を作って、「東京」を書いたときとの思いの違いに気付いて、私が今感じていることを素直に曲にしていくのが大事なんだっていうことも改めて感じました。聴いてくれた人が、ふと故郷に帰ってみようかなって思うきっかけになったらうれしいですね。
──そして「茶の間に帰る」という曲も家族への愛を歌った曲ですよね。山形から上京して歌手として活躍されている今のさやさんだからこそ歌えるメッセージソングだと思いました。
本当にそうですね。今回のシングルは故郷を思って書いた曲が多いです。
──「心配されることに反抗した日や 優しさに気がつけない様な時もあったけど」という歌詞にも共感しました。親に向けて「大丈夫だよ!」としか言えないときってありますもんね(笑)。
そうなんですよ!「大丈夫って言ってっぺ!」って感じ(笑)。小さい頃に母が私に「宝物だから」って言ってくれたことがあって、それがすごく印象に残っていたので歌詞に使っているんです。そのときは母に喜びを伝えきれてなかったかもしれないんですけど、大人になっても残っている母からの言葉や思いはこんなに強いものなんだなって実感しています。
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伝統×最先端で民謡復活
- 朝倉さや「そのままの笑顔でいて」
- 2017年7月5日発売 / Solaya Label
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[CD]
1200円 / SLSC-0012
- 収録曲
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- そのままの笑顔でいて
- ただいま-moubangedadorya-
- 茶の間に帰る
- 茶摘み唄
- 朝倉さや(アサクラサヤ)
- 山形県出身のシンガーソングライター。家族の影響を受けて小学生の頃から民謡を習い始め「民謡民舞少年少女全国大会」で、2度優勝した経験を持つ。18歳で上京し、Solayaのプロデュースのもとオリジナル曲の制作を開始した。2013年4月にデビューシングル「東京」をリリース。2014年10月には「タッチ」「女々しくて」「ロビンソン」といった楽曲を山形弁で歌ったカバーアルバム「方言革命」を発表し、大きな話題を呼ぶ。また2015年9月に発表された「River Boat Song-Future Trax-」では、「第57回日本レコード大賞」の企画賞、「第8回CDショップ大賞2016」の東北ブロック賞を獲得。2016年4月にニューアルバム「快進撃のミュージック」を、同年12月にはカバーアルバム「日本漬け」をリリースした。2017年7月5日にはNHK「みんなのうた」でオンエアされた楽曲「そのままの笑顔でいて」を表題曲に収めたシングルを発表する。