上京して5年、今の視点で描いた「東京」
──2曲目の「東京」についても聞かせてください。荒谷さんはyonawo時代に鈴木真海子さん、Skaaiさんとのコラボ曲「tokyo」を発表していますが、なぜ改めて「東京」というタイトルの曲を作ろうと思ったのでしょうか?
おっしゃる通り、yonawoとしての「tokyo」があったから、“東京”をタイトルに掲げた曲を作ろうとはまったく考えていませんでした。ただ、レーベルからあるタイアップのエントリーの話をいただいて、「じゃあちょっと書いてみます」という感じで作り始めてみたら、意外と自分の中に書きたい情景の種があることに気付いて、素直にこれはちゃんと形にしたいと思ったんです。なので、1回書いてみて、そこからより詰めて作ったんですけど、最初のサビはパッとできたものをそのまま使ってます。
──yonawoの「tokyo」を書いたのは、福岡から上京してすぐのタイミングでしたよね。
そうなんです。あのときは東京の情景というより、福岡から出てきた心境をベースにしていたんですよね。だから今回は上京して5年が経った自分の中にある東京を、心境しかり情景として描きたいと思いました。
──ご自身の実体験だったり、パーソナルな心情だったりをストレートに言葉にするようになったのも、ソロになってからの曲の1つの特徴ですよね。
yonawoの頃からパーソナルな曲を書いてみたかったけど、「4人でやってる」という感覚が大きかったからか書けなかったんです。自分のルーツの1つには歌謡曲があって、ストーリー性のある歌詞も好きだから、ソロを始めるにあたって挑戦してみたかった。いい具合に抽象性と具体性を混ぜられたらと思っていて、そこの挑戦は今も続いています。
──どの曲にも他者の存在があって、つながりや別れが描かれているから、ラブソングと受け取ることもできるし、もっと多様な関係性としても受け取れるなと感じました。「東京」はどのようなイメージで書いたのでしょうか?
がっつりストーリーがあるというより、いろんなドラマが断片的に流れてくるというか、東京という街もそうだと思うんですよね。だから、先ほどおっしゃっていただいたように、恋愛にも捉えられるし、もう少し大きく哲学や思想的なもの、人生観のようなものにも映るような、切り取る場面で違う見え方をする、東京の街のさまざまなドラマを描けたらと考えていました。
敬愛するミュージシャンの音楽に触れて
──今回のアルバムの中で特にパーソナルな心情や実体験が色濃く反映されていて、「これはソロだから書けた」と感じる曲を挙げるとしたら?
「真夏のラストナンバー」ですかね。すべてが実体験ではないけど、わりとパーソナルな内容になったと思います。でもポップには仕上げたかったので、ちょっと引いた目線を持たせつつ、「真夏の果実」(サザンオールスターズ)のようなアンセムを書きたいなと意識しました。
──indigo la Endの「夏夜のマジック」も意識にあったのでは?
そうですね。自分の好きないろんな夏のナンバーを踏襲して書ければなと思って。
──2025年にリリースした「ひとりぼっち」はSUPER BUTTER DOGの「サヨナラCOLOR」がモチーフだったり、「煌めきワンダー」は小沢健二&スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」を連想させたり、そういうオマージュは意図的に取り入れてますよね。
好きなポップスをテーマに、自分ならどんなふうに表現するだろうと想像するんです。例えば桑田佳祐さんの「祭りのあと」が僕はめちゃくちゃ好きで、こういう曲を自分なりに書いたらどうなるだろう?という着想から「Lovely Baby」ができました。歌詞というよりはビート感やコード感ですけど、そういうフォーマットを置いたうえで、どれだけ自分の色を出せるんだろう、みたいなことはけっこう意識しましたね。「黄昏ソウル」も少しだけ、Original Loveの「接吻」を意識してたり。
──また「ポップスとは?」の話に戻りますが、桑田佳祐さんも田島貴男さんも、海外の音楽に憧れて、それを自分なりに楽曲に昇華してきたわけですもんね。そうやって受け継がれてきたものが、このアルバムにも2020年代の形で入っている。
まあ、パクりと言われたらそうかもしれないですけどね。
──SNSとかだと、よく言われちゃいますよね。
でも、先ほどおっしゃった通り、それは脈々と皆さんがやってきたことでもあるわけで。自分はリスペクトを持っているし、名曲は残り続けるだろうけど、新しい解釈でそのよさをもっと届けたい。おこがましいですけど、そういう思いもあります。「Lovely Baby」を聴いて、そこから「祭りのあと」を知ってくれたら、それはすごく素敵なことだなって。やっぱり「自分が好きなものを作りたい」っていう、それが最初の衝動で、The Beatlesみたいな音楽を作りたい、ジョン・レノンみたいに思想を自分なりに表現したいっていう思いがあったから、そこは昔から変わらない部分かもしれないです。
“それでも”希望を描きたかった
──アルバムの最後の1曲、「心」もとても印象的です。
1曲目が「黄昏ソウル」だから、最後はどんな曲がいいだろう?と考えながら作りました。「黄昏」もそうですけど、僕の中で「心」も大きなテーマで、「心が揺れる瞬間があるからこそ生きられるんじゃないか」という考えがあります。あと感覚的な話になっちゃうけど、最後は「それでも」って気持ちにさせられるような曲にしたかった。アルバムとしては最後の曲だけど、聴き手の人生や生活はその後も続いていくわけじゃないですか。続きを感じられるような、余韻を感じられるような曲を作りたいと最初から考えていました。
──この曲は「心」というタイトルだけど、「桜」でも成立する内容ですよね。旋律も日本的だし、「花咲く街をきみと歩いた」と歌ってるし。
ああ、曲の中で描いている情景はまさに桜です。桜散る、みたいな。
──桜はすぐに散ってしまうけど、春は新しい年度の始まりでもあるから、「終わりだけど、でも続いていく」というフィーリングはよくわかるなって。
この曲だけじゃないけど、人の生きる道を花に例えたかったんです。だから「心」を作っているときは、散る姿や咲き誇る姿を人の人生として捉えるとどんなふうになるんだろう?と考えていました。雨に濡れることも花にとっては大切で、その雨は悲しみかもしれないけど、それもすべて踏まえたうえで「生きる」っていうことを描けたらいいなと。生きていく中でわかり合えないこともあるから、最後に希望があるとは言い切らず、そこもそれぞれに「それでも」と思ってもらえたらいいというか、最後に「私を越えて また会おう」と歌っているんですけど、「また会えたらいいよな」ぐらいの希望の残し方ですかね。
──「U R ALWAYS ON MY MIND」と歌われているように、物理的に会えなくても、心はずっとつながってるかもしれないし、その人なりの受け止め方ができる。少なくとも後ろ向きではなく、「ここからまた続いていく」というメッセージを受け取りました。
ありがとうございます。何かを言い切ってはいないけど、最後にはどの曲でもちゃんと希望を描きたいなと思っていたので。
歌にフォーカスしたグランドピアノツアー
──6月にはグランドピアノツアーが開催されます。アルバムリリース後のツアーをこの形式にしたのには何か理由が?
今回はピアニストの方を交えることで、自分は歌にフォーカスしたかったんです。きっと観に来てくださるお客さんも、歌詞の受け取り方が全然違うと思うので。前の「ひとりぼっちツアー」のとき、BLUE NOTE PLACEでピアノの弾き語りをしたんですけど、「ピアノの響きがすごく声に合ってるね」と言ってくれる人が多かったんですよね。
──この2年は自分の歌と向き合ってきた期間でもあったと思いますが、シンガーとしての変化や成長についてはどう感じていますか?
ソロになってからはギターで弾き語りをすることが多くて、バンド編成でも名義は自分1人の名前なので、声に対する重みのようなものはyonawo時代の何倍も感じています。つい最近、藤原季節さんの“朗読×音楽”をモチーフにした舞台に呼んでいただいて、夏目漱石の「こころ」の朗読の間で、伴奏をしつつ曲を歌ったんですよ。物語の強さをすごく感じたし、最後に「涙」を演奏したら、自分が作った曲なのに、今まで経験したことがない感情になったんです。自分の中で物語をちゃんと感じながら歌えると、また違う世界が広がるんだろうなと。だから「TASOGARE SOUL」の物語や情景を自分の中に持って歌うことで、歌い手としてまた幅を広げられるのかなと思います。




