バーチャルK-POPアーティスト・APOKIインタビュー|バーチャル文化とK-POP文化をつなぐ唯一無二の世界観

SNS総フォロワー数が400万人を超えるバーチャルK-POPアーティスト・APOKIが、3rdシングル「Shut Up Kiss Me(Feat. Lil Cherry)」の日本語バージョンを配信リリースした。

韓国で昨年12月にリリースされた「Shut Up Kiss Me(Feat. Lil Cherry)」は、人気ラッパーのLil Cherryをフィーチャーした楽曲。ドリーミーでファンタスティック、かつグルーヴィーな曲調が、APOKIのハスキーかつキュートな歌声を存分に引き立てている。音楽ナタリーではこの曲のリリースに合わせ、オリジナリティあふれる彼女の経歴や魅力を紹介。そしてインタビューを通して音楽や自身の活動に対する思いを聞いた。

取材・文 / 黒田隆憲

APOKIとは?

“宇宙のどこかに住むウサギに似た存在”。2019年にYouTubeやTikTokなどでK-POPを中心としたグローバルヒット曲のカバー動画を配信し始め、関心を集めてきた。そして2021年2月、配信シングル「GET IT OUT」で韓国初のバーチャルK-POPアーティストとしてデビューした。

同年6月には2ndシングル「Coming Back」、12月には3rdシングル「Shut Up Kiss Me(Feat. Lil Cherry)」を順調にリリース。「Shut Up Kiss Me」では楽曲のみならず、ミュージックビデオ内でもフィメールラッパーのLil Cherryとコラボレーションし、リアルとバーチャルを違和感なく融合してみせた。

またこの年、APOKIは台湾に拠点を置く情報端末メーカー・HTCが同年5月に発表した2021年の「グローバルVRソーシャルインフルエンサートップ100」で、アジア勢トップとなる5位にランクイン。9月には世界最大規模のNFTマーケットプレイスBinanceより独自のNFTを発売し、またたく間に日本円にして約5800万円を売り上げるなど、デビュー1年目にして大きな注目を浴びた。

2022年に入ると、APOKIは「Coming Back」の日本語バージョンをリリースして日本へ進出。ファッションイベント「東京ガールズコレクション」の公式メタバース「バーチャルTGC」内には彼女のブースが登場した。日本では2016年にキズナアイが活動をスタートさせたのを発端に数多くのVtuberが登場し、ここ数年で1つの大きな音楽シーンが形成されたが、APOKIのビジュアルや音楽スタイルは日本のバーチャル文化が持つそれとは大きく異なる。アニメ映画の世界から飛び出してきたような風姿と美麗な3DCG、なめらかな動き、K-POPのマナーを踏襲した音楽性が何よりの特徴で、バーチャル文化とK-POP文化の架け橋として唯一無二の世界観を作り上げている。

そのハイクオリティな映像表現、楽曲と、ファンとのコミュニケーションの中で見せる気さくな人柄のギャップで人々の心を惹きつけているAPOKI。韓国でもまだほかに類を見ない珍しい存在ではあるが、メタバースなどにより注目度が高まっているバーチャルカルチャーという分野に、彼女がいったいどのような風穴を開けてくれるのか、今から楽しみでならない。

APOKI インタビュー

シティポップを聴いていると存在しない記憶がよみがえってくる

──APOKIさんが活動を始めたきっかけから教えてください。

小さい頃から音楽が大好きで、気が付いたら「アーティストになりたい」と思っていました。そのための方法は今、いろいろありますよね。例えば、すぐに自分のオリジナルアルバムを制作する人もいれば、海外進出を視野に入れての活動を考える人もいます。でも私はまず、人間の皆さんと仲よくなりたいと思ってYouTubeで配信をすることにしました。そこでいろんなアーティストの方々のカバーを歌ったり、ファンの皆さんとコミュニケーションしたり。それを続けていくうちに、皆さんが特にK-POPの楽曲を好きだとわかったので、ここ最近はK-POPを中心にカバーしています。そして去年、自分自身のオリジナル曲をリリースすることもできました。

APOKI

──APOKIさんの所属するVV Entertainmentの印象は?

VV Entertainmentは、私がアーティスト活動を始めた当初からサポートしてくれている事務所です。私にとっては事務所というよりクルーやチームのような存在ですね。最初から私の才能や可能性を信じてくださっていますし、私も彼らのことを信頼しています。とてもいい関係を築いてこれましたし、私のことを見つけた彼らはとっても運がよかったと思いますね(笑)。

──確かに(笑)。今までどんな音楽に影響を受けてきましたか?

今お話ししたように、私は2019年頃からたくさんのK-POPアーティストの楽曲をカバーしてきました。なので、そこから自然と影響を受けていると思います。特にRed VelvetやBLACKPINK、MAMAMOO、TWICEは大好きですね。もちろん彼女たちのような楽曲を、自分自身のオリジナルとしてやってみたい気持ちもあります。でもそこに特にこだわりがあるわけではなくて、ヒップホップやロック、しっとりとしたバラードなどさまざまなジャンルの音楽にチャレンジしたいですし、そのほうが自分の好きなことをやる以上に“学び”が多いと思います。

──日本の音楽も聴くそうですね。

日本のシティポップが大好きなんです。特に竹内まりやさんや山下達郎さんの楽曲はたくさん聴いてきました。「トレンドは繰り返される」という言葉がありますが、1980年代に日本で流行っていた音楽を聴いていると、「昨日リリースされた楽曲」と言われても信じてしまうくらい洗練された音楽だと感じますね。そして、シティポップを聴いていると存在しない記憶がよみがえってくるような、そんな不思議な体験ができるところも気に入っています。ちなみに一番好きな曲は、山下達郎さんの「クリスマス・イブ」です。

──「存在しない記憶がよみがえってくる」というのは、素敵な表現ですね。

あと、ジブリ映画の音楽を手がけている久石譲さんも好きですね。久石さんの楽曲を聴いていると映画のシーンがありありとよみがえってきます。アレンジもすごくシンプルだったり、かと思えばとてつもなくゴージャスだったり、映画のシーンに合わせて過不足のない“完璧な音使い”をしているところにもいつも感心させられます。特に好きなのは、映画「千と千尋の神隠し」の挿入歌「あの夏へ」ですね。

APOKI

──そういえばAPOKIさんのデビュー曲「GET IT OUT」のミュージックビデオは、「AKIRA」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「2001年宇宙の旅」などのSF映画がモチーフになっていました。そういったジャンルの映画も好きなんですか?

個人的にはもっとかわいらしくて、ファンタジー要素が強い作品が好きですね。例えば「ハリー・ポッター」シリーズや、「チャーリーとチョコレート工場」のような……あ、でも最近だと「DUNE」はすごくよかったです。主演のティモシー・シャラメさんが美しすぎました(笑)。

黙って、キスして

──では、新曲「Shut Up Kiss Me(Feat. Lil Cherry)Japanese version」について聞かせてください。APOKIさん自身はこの曲にどんな印象をお持ちですか?

サウンドがすごくトレンディで、メロディは複雑でありながらもポップな部分もあるのが魅力ですね。このタイトル、日本語にするとちょっと強烈です。「黙って、キスして」ですからね(笑)。そこをどうやってかわいらしく表現できるかがポイントなのかなと思っています。そのためには、どれだけ“愛おしさ”を歌に込められるかが大事だと思ったので、レコーディングのときにはそこにこだわりました。

APOKI

──今年3月に配信リリースされた「Coming Back Japanese Version」に引き続き、今回も日本語での歌唱にも挑戦していますよね。

今回も日本のファンの皆さんに日本語で歌を届けることができるのがとっても楽しみだった一方で、発音がものすごく大変だったし、うまく歌えているのか心配ですね(笑)。

──いや、とても上手なのでびっくりしましたよ。

わー! (日本語で)ありがとうございます!

──音楽を含め、日本の文化全体に興味があるんですか?

もちろん音楽もアニメも好きですし、すき焼きやお寿司など日本の食べ物も大好きです。それと以前、日本を訪れたときはドン・キホーテでたくさんショッピングをしたのですが、店内で流れるCMソングを覚えてしまうくらい入り浸っていました(と言いながら、ドン・キホーテの楽曲「ミラクルショッピング ~ドン・キホーテのテーマ~」を歌い始める)。

APOKI

──あははは。新曲に話を戻すと、「Shut Up Kiss Me」では韓国のラッパーLil Cherryさんとコラボしています。

Lil Cherryさんは韓国でもっとも有名なラッパーの1人ですし、彼女の作り出すサウンドもそしてファッションもすごく独特。ぜひ一度コラボをしてみたいと思って直接InstagramのDMでオファーしたところ、快諾してもらいました。とても光栄で、新曲の作業している間はずっと幸せでしたね。