アルバム制作過程で見つかった共通点は「歪んでいてぐちゃぐちゃ」

──初ライブも終わり、その後どんどん曲を増やしていったわけですが、自分のソロの曲とAoooに持っていく曲の境界線は意識されますか？

ツミキ　このバンドは型にハマらない曲者の4人が集まってるから、どうしてもイビツなものになると思っていて。それを是とするような曲、というのがテーマにあります。作風はそれぞれ違うんですけど、僕が担っているのは、個々の主張が激しい曲。特に楽器隊はうまく混ざらないというか、不協和音もよしとして、それぞれが作ってきたフレーズをとにかくぶつけて録音するみたいなやり方でした。打ち合わせもなしで、奇跡的に合う瞬間がめっちゃ気持ちいいみたいな。普段、楽曲提供やユニット活動では「僕の頭にあるものを再現してもらう」という感覚なんですけど、Aoooに関しては「自分が持ってきた種に全員で水をやって花を咲かせよう」という。思いついたように演奏して歌ってもらってます。

──アルバムの中で、特にメンバーの演奏によって当初の想定から化けた曲を1つ挙げるとすると？

ツミキ　3曲目の「イエロートイ」ですね。4人の不協和みたいなものを強くイメージして作ったので、エンジニアの井上うにさんのミックスも相まって本当にぐちゃぐちゃなんですよ。歪みまくってて、何をやってるかまったくわからない（笑）。この時代に、いわゆるネットミュージシャンと呼ばれる人たちがバンドを組んでこんなものを作ってる、ということを面白がって聴いてほしいです。

石野　最初はメンバー同士の共通点が見えなかったんですけど、曲作りを続けていくうちに、みんな歪んでいてぐちゃぐちゃなものが好きだとわかってきて。制作の過程で自分たちの方向性がつかめてきました。

──このメンバーで新しいバンドが始まると聞いたとき、もっと精密で音数が多い楽曲をやるのかなと思ったんですが、真正面からシンプルなバンドサウンドになっていたのは意外でした。

ツミキ　今回のアルバムに関しては、それを制約として掲げていた部分はありますね。うにさんがそういう思想の人なのもあって、4人で完結するものを目指すと。バンドのというよりは、このアルバムのコンセプトですね。

すりぃ　僕の曲は、石野理子が歌うことが前提なのでそれを想像しつつ、シンプルでストレートなものを目指してます。各々のフレーズから、4人編成だからこそのよさが出ればいいなと。

──「リピート」のギターソロなんて、まさにシンプルの極みですよね。バンドだからこそグッとくるという。

すりぃ　クサいとも言えるんですけど、それでもカッコいいと思えるものがやりたくて。みんなもこの感覚を汲み取ってくれている感じがします。

石野理子、作詞作曲に挑戦

やまもと　すりぃさんもツミキさんも、何がやりたいのかわかりやすい音像のデモを送ってくれるんですよ。細かく作り込んでいるわけじゃないんですけど、完成形が見えやすい。私も自分の曲だとサウンド感から考えていくんですけど、このバンドではやっぱり「石野に歌ってほしい曲」という考え方が大きいです。この母音で、この音程で伸ばしている石野の声が好き、みたいな。「青い煙」はツミキさんが得意そうなビートだなっていうところから発想しました。ギターのフレーズを考えるのは苦手なので、すりぃさんにはいつも「カッコいいギターでお願いします」って丸投げしてるんですけど（笑）。

ツミキ　ひかるちゃんの曲が一番アカデミックさを感じるんですよね。もっと作家仕事やればいいのにって思うくらい。びっくりするような展開を持ってくるから、パクろうかなって（笑）。

石野　ひかるちゃんが作曲をしている曲は、私が作詞を担当して2人で制作したんですけど、曲のイメージを共有して途中までの歌詞を送ったら、ものすごいスピードで曲が仕上がるんですよ。歌詞に音がちゃんと合っていて、いつもびっくりしています。

やまもと　石野の歌詞はメロディが付けやすいんですよね。

──そもそも石野さんが作詞するようになったきっかけは？

石野　ソロの活動でも作詞はしていたんですが、Aoooでは「アパシー」が初めて作詞した曲でした。Aoooで活動するにあたって、自分もみんなと一緒に曲作りをしたいと思っていたので、自然にスッと書けました。

──ご自身の歌詞とほかの人が書いた歌詞では、歌うときの心持ちに変化はありますか？

石野　心持ちという意味では変わりはないんですけど、自分が作詞した曲は歌うイメージが初めからだいたいできていますね。ほかのメンバーが作詞した曲に関しても、私の感覚に委ねてもらうことが多いので、汲み取りながら自分でディレクションしている感覚です。

ツミキ　意図して言わないようにしているので。

石野　不安になったときは「これでいいの？大丈夫？」って聞いちゃいました（笑）。

──ほぼ初対面の状態からの1年間で石野さんの人間性をより理解したことで、ツミキさんとすりぃさんの書く歌詞に変化はありましたか？

ツミキ　作詞においてはあまりないんですが、仲よくなるにつれて、ライブでの目配せとかはしやすくなりました。

すりぃ　どういうアルバムができるのか全然わからなかったのが、ちょっと見えてきたことで歌詞も変わった感じはあります。「サラダボウル」の「決まりのないおもちゃ箱みたい 詰め込め自由な衝動」がこのアルバムのテーマというか。

石野　アルバムレコーディングの後半に録った曲ですもんね。

──「MORE」は作曲で石野さんもクレジットされています。

石野　アルバム制作を進めているときに、自分の中で歌詞の種と曲のイメージが生まれたのが「MORE」でした。歌詞とサビのメロディを持っていって、ツミキさんとやりとりしながら作りました。

やまもと　ツミキさんが各々と調整しながら完成まで持っていった感じですよね。

ツミキ　めっちゃ全員の協力プレイって感じでした。

石野　個人的には一番想像の枠を超えた曲になってびっくりしました。

ツミキ　でも、制作から録音までのスパンが短すぎてヤバかったですよ。

やまもと　ヤバかった……。

ツミキ　レコスタに居残りしたり早く来たりして練習しましたから。ラテンやヒップホップみたいなリズムも出てくるし。「このアルバムにこういう曲があったらいいよね」と作り始めたものの、思いのほか自分たちの体に馴染んでなかった（笑）。

やまもと　これは1人ひとり分けて録りたかったんですけど、うにさんに「一発録りでいけるよ」って言われて。結局全曲「せーの」で一斉に録りました。ボーカルも含めて全部一発録りなんです。

石野　でも、それが本当にいい味出してると思っていて。初期衝動というか、勢いをそのまま詰め込んだ感じが、1stアルバムらしさを出していると思います。

Aoooはシェアハウス形式？

──初ライブからちょうど1年、今年の9月16日に行われた初のワンマンライブは「バンドをやる喜び」にあふれていました。

やまもと　あとでライブ写真を見て思いました。「すごい楽しそうだな！」って。

石野　改めてバンドを選択した4人なので、どうしてもあふれ出ちゃうみたいです。

──1年経って、メンバー間の関係性は変わりましたか？

やまもと　あんまり自覚がないですね。まだ役割も定まってない気がするし、そのときそのときで違う気がします。

ツミキ　やりたい人がやる、みたいな。シェアハウス形式ですね。トイレットペーパーがないことに気付いた人が補充する感じ。

やまもと　基本的にみんないい人なんですよ。アーティストっぽい部分もあるけど、すごくまとも。みんな気を使い合うし、余計な気は使わなくていい。なんとなく補い合えるんだろうなって。

石野　イライラ、ギスギスすることが今のところ起きてないですね。

すりぃ　僕は本当のシェアハウスに住んだ経験がありますけど、最初の1、2年はそうでしたね。でも3年目からは「なんでこいつせえへんねん」と思うことが増えた（笑）。でも、そこからまた音楽も変わったら面白いかもしれない。

──初期衝動の1stアルバムを作って、今後Aoooはどうなっていくんでしょう？

ツミキ　各々がソロの活動でもどんどんバーションアップしていくと思うんですよ。その過程がAoooにも反映されると思っていて。群像劇みたいな作品の精度が増していくんかなって思いますね。みんなが新たに得た知見を持ち寄って、Aoooというブランドを進化させるような。アンコントローラブルな部分が楽しみだし、1人のソロアーティストとしても触発されることも多いでしょうし。4人それぞれのドラマが作品になっていくのが楽しみです。

すりぃ　お互いが作ってきた曲で刺激を受け合っていきたいですよね。メンバーをギャフンと言わせたい、みたいな気持ちもあるので。今よりももっと個々が際立つような曲もできていくと思いますし、より面白い作品になっていくんじゃないかなと。

石野　自分のソロ活動とバンドでどっちが上か下かではなく、それぞれが影響を与え合うものになればいいなと思っています。どっちも100%でがんばって。環境もどんどん変わっていくと思うので、刺激をもらいながらAoooでもソロでもいい作品を作っていけたらなって思います。

やまもと　「1stアルバムが一番いい」ということってけっこうあるじゃないですか。今回のアルバムもそうなってもいいと思って作ったんですけど、このバンドはこの先もどんどん尖っていくんじゃないかなという予感があって。それがすごく楽しみです。