藍坊主4年ぶり新作ミニアルバム「月の円盤」インタビュー|メンバーの脱退、コロナ禍を乗り越えた3人が語る今の思い (2/2)

藤森さん、天才かよ

──ここからは「月の円盤」の収録曲について聞かせてください。まず1曲目の「卵」は、メロディの切なさと激しさ、鮮烈な疾走感を感じさせるサウンドなど、今の藍坊主がダイレクトに反映された楽曲だと思ったのですが、いかがですか?

hozzy 曲の全体像を自分が作ったんですけど、ちょっとAメロが弱いなと思って。もっとキャッチーにしたいと思って藤森さんに「Aメロ、何かいいメロディない?」とお願いしたら、秒で返ってきました(笑)。

田中 天才かよ(笑)。

hozzy しかも2パターン来て。どっちもよかったんですけど、Bメロとのつながりを考えて、今のバージョンになりました。

藤森 「卵」のデモはけっこう前からあって、僕自身もすごく好きな曲だったんです。サビはもちろんですけど、Bメロがめちゃくちゃよくて。「だったらAメロはこれだろ」というイメージが明確になったので、それをぶつけさせてもらいました。

藤森真一(B)

藤森真一(B)

田中 この曲の原型を初めて聴いたのは、配信ライブだったんです。そのときはhozzyの弾き語りだったんですけど、自分もすごくいいなと思ったし、ファンの人たちの反応もよくて、なんとしてもいい形にしたいと思っていて。HAZEさんやプロデューサーの時乗浩一郎さんと一緒にアレンジをしたらすごくスムーズに進んだので、これは1曲目しかないなという感じでした。

──2曲目の「小さな哲学」も藍坊主らしさ全開のアッパーチューンです。

藤森 この曲はコロナの時期に作った曲ですね。その頃、僕とhozzyが住んでいる場所が近くて。スタジオに来てもらってデモを作っていたんですけど、その最初の頃にできた曲だと思います。hozzyが作詞、ユウイチがアレンジをやってくれて、今の藍坊主のベストパターンですね。

田中 デモの段階では静かでさわやかな雰囲気だったんですけど、もっとバキバキにしたいなと思って。確かイントロのギターから考えたのかな。そこからバンド全体で突き進んでいくイメージでアレンジしました。

──世界や世間と“僕”の関係を想起させる歌詞も、hozzyさんらしいなと。

hozzy この曲の歌詞は……なんていうか、コロナ禍の中でルールとかもすごく変わっていったじゃないですか。もちろんルールありきの社会だし、みんなの幸せのためだったりするんだけど、本来の自分とは沿わない部分もあって。言い方はアレですけど、同調圧力も強かったし、右ならえをしておかないと息苦しくなる部分もあった気がして。そういう違和感みたいなものを形にできたらいいなと思ってましたね。

──そして「シュート」は冒頭のギターリフ、コード構成、メロディを含めて、hozzyさんらしい変な曲だなと。

hozzy (笑)。そういう感想をもらいたくて書きました。

田中 最高ですよね。

hozzy 去年のツアー(「aobozu TOUR 2022 OTOMOTO ~金網の向こう側~」)が終わって、このミニアルバムをまとめるモードになったときに、メンバーに「どんな曲があったらいいかな?」とヒアリングしたんです。そしたらユウイチから「変なテイストの曲が欲しい」と言われて(笑)。

hozzy(Vo)

hozzy(Vo)

田中 hozzyのグルグルした部分というか、個性がしっかり出ている曲がこの作品には必要だと思ったんですよね。そうすることで藍坊主というものが総合的に立ち上がってくるんじゃないかなと。

hozzy 「シュート」みたいな曲を作るのって、脳みそを切り替えなくちゃいけないんですよ。その作業に1週間くらいかかるんですけど(笑)、作り始めたらめっちゃ早かったですね。コードとかで説明しても全然伝わらないから、全体像をある程度自分で作ってから聴いてもらって。

藤森 ユウイチが言う通り、こういう曲があると藍坊主の作品になるというか。僕ら今40歳なんですけど、この年になって、こういう曲を作れるメンバーがいるのはめちゃアツですね。

hozzy ハハハ。

藤森 メロディもアレンジもそうだし、「たたったたったったったったっ」という歌詞の当て方もhozzyワールド全開で。「これこれ!」と思ったし、リスナーの皆さんも同じように感じてくれると思います。

──続く「ルノの子」は藤森さんの世界観が強く出ている曲ですね。

藤森 そうですね。最近ライブのSEにしている「ルノと月のワルツ」という曲があって、そのテーマを発展させたのが「ルノの子」なんです。日本っぽいクラシックというか、僕が好きな久石譲さんのような感じもあって。その雰囲気とバンドでしかできないことを合わせながら作っていきました。

hozzy この曲も藤森と2人でスタジオに入っていた時期にあった曲で、その頃からすごく好きでした。個人的にもめっちゃ推していて、全体のアレンジも自分でやらせてもらったんです。制作を進める中で、「もう1つサビみたいなメロディがあればもっと広がるな」と思って、藤森さんにお願いしたら、また秒で返ってきて(笑)。

田中 すごい(笑)。

──「月明かりのマントに、僕たちは揺れてるよ」のパートですね。

hozzy その後もう1回スタジオに入って、実際に歌ってみたら「バッチリだな」と。そこからさらにアレンジの音像などを組み上げていきました。

──メンバー間のやりとりがすごく活発なんですね。

hozzy もちろん。

藤森 「ルノの子」はhozzyが「サビを作ってほしい」と言ってくれたことで、これまでと全然違う曲になりましたね。イントロのピアノのフレーズもコードに分解してくれて、サビっぽいメロディに当ててくれて。そういうやりとりはけっこうありました。

田中 いい曲だよね。おとぎ話や童謡のような世界観の曲は今までにも何回か作っていたんだけど、それがより濃くなった感じがあって。藤森のコアな部分が出ているし、それをhozzyがさらに高めてくれて、「今作の中でも一番藍坊主っぽいんじゃないか」と思うくらいの曲になりました。

──「プールサイドヒーローズ」は、昨年10月に配信リリースされた楽曲ですね。藍坊主のポップな側面が強く出ている楽曲だなと。

hozzy 収録曲の中では、最初にレコーディングした曲ですね。

田中 この曲だけ拓郎がドラムを叩いてるんですよ。コロナ禍の前に録った曲なんですけど、今作にも必要だと思ったし、収録することになりました。

藤森 藍坊主の王道のイメージですよね。この曲を作っていたときも「普通じゃ嫌だな」という気持ちがあって。サビの中にサブドミナントマイナーやマイナーセブンスのコードを使ったりして、音楽的にも新しいところを出せたかなと。みんなでアイデアを出し合えて、全員でいい曲にできたと思います。

──「戻れない だけどまだ あの夏を また目指してる」という歌詞も印象的でした。

hozzy タイアップ(「TIGER & BUNNY」の「P TIGER & BUNNY ~完全無欠WILDスペック~」イメージソング)があったんですよね。「タイバニ」は以前にもエンディングテーマ(「星のすみか」)を担当させていただいたこともあるし、もちろん作品も観ていて。新しいシリーズ(「TIGER & BUNNY 2」)のストーリーも聞かせてもらったんですけど、主人公の娘にヒーローとしてのパワーが芽生えるというエピソードがあるんです。そこから勝手に想像を膨らませて書いたのが、「プールサイドヒーローズ」の歌詞ですね。子供の頃は親に見守られながら「自分は特別なんだ」という気持ちになっていて。そこから立場が変わって、意識も変化していくっていう。

──今の年齢だから書けた歌詞かもしれないですね。

hozzy そうですね。今回の作品は全体を通して、40歳になった我々だから作れたと思っていて。ここまで音楽を続けさせてもらって、いろんなことを通過したからこそ作れる曲がある。コロナ禍のときは「これからどんなことが書けるんだろう?」とけっこう悩んでいたんですけど、今しか作れないものを作ろうと思えたので。

hozzy(Vo)

hozzy(Vo)

──hozzyさんの作詞作曲による6曲目「ツキノフォン」は、月明かりをモチーフにした幻想的で美しい曲ですね。

hozzy この曲、デモ音源の段階ではけっこうアップテンポだったんですよ。でもスタジオでみんなにアイデアをもらいながらアレンジしているうちに、夜、寝静まった後に聴けるような感じになって、これもすごくいいなと。

田中 プロデューサーの時乗さんから「スローにしてみてもいいんじゃない?」という意見があって、そこからセッションみたいな感じで作り上げてみました。なるべく音数を少なくして、それぞれの楽器の動きが見えるようなアレンジにしてるんです。勢いのある曲ではないけど、今の藍坊主のバンド感、グルーヴ感をしっかり形にできたのかなと。

藤森 スタジオで音を出しながら、それぞれのバックボーンをぶつけるような感じもあったんです。自分だったら、以前からずっと好きなミトさん(クラムボン)の音をイメージしながらベースを弾いたり。それによってドラムのフレーズが変わったり、まさにセッションですよね。

田中 そういうやり方はあまりやったことがなくて。新しい体制になって最初の作品だし、今までと違うやり方を取り入れられたのもよかったと思います。

今は過去イチのライブを見せられる状態

──6月からは全国ツアー「aobozu TOUR 2023 ~未確認 IN THE NIGHT~」がスタートします。

hozzy バンドの状態もいいし、「今日のライブ、めっちゃよかったな」と思うことが増えて、本当に楽しいんですよ。それがお客さんにも伝わってる実感もある。今作の曲もそうだし、昔の曲もまた違った形で聴いてもらえるんじゃないかなと。楽しみですね。

田中 コロナ禍があって、メンバーの脱退があって、その間に3人とも40歳になって。困難な状況だけど、それでも続ける意味があるバンドだと思うんですよね、藍坊主は。hozzyが言ったようにライブに対する欲求も高いし、「もっとお客さんに楽しんでほしい」という気持ちも強くなっていて。今回の作品もそうですけど、バンドのパワーがより高まってきているので、ぜひそれを感じに来てほしいですね。

藤森 全国ツアー自体、本当にひさびさなんですよね。2人(hozzy、田中)は半月酒場で福岡とかにも行ってたけど、バンドで回るのはすごくひさしぶりで。みんなが言っているように今は過去イチのライブを見せられる状態なので、楽しみにしていてほしいです。ずっと応援してくれてる人もそうだし、「最近、藍坊主を聴き始めました」という人もけっこういるんですよ。

田中 そうだね。

藤森 僕らの曲をコピーしていた20代くらいのアーティストが藍坊主の名前を出してくれて、それを通して知ってくれた人もいて。今回は新しいミニアルバムを引っさげたツアーだから、初めてライブに来るタイミングとしてはわかりやすいと思うんですよ。

──「月の円盤」のリリース、ツアーによって、藍坊主の新たなキャリアが本格的に始まりますね。すごく前向きな話が聞けてよかったです。

田中 今は間違いなく前向きなので。それはしっかり伝えたいと思っていました。

「aobozu LIVE 2023 OTOMOTO ~田中 NOT DEAD~」2023年3月26日 東京・東京キネマ俱楽部公演より。

「aobozu LIVE 2023 OTOMOTO ~田中 NOT DEAD~」2023年3月26日 東京・東京キネマ俱楽部公演より。

ライブ情報

aobozu TOUR 2023 ~未確認 IN THE NIGHT~

  • 2023年6月18日(日)神奈川県 小田原姿麗人
  • 2023年7月1日(土)宮城県 enn 2nd
  • 2023年7月2日(日)北海道 SPiCE
  • 2023年7月15日(土)香川県 高松TOONICE
  • 2023年7月16日(日)大阪府 Music Club JANUS
  • 2023年7月22日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2023年7月23日(日)愛知県 CLUB UPSET
  • 2023年8月11日(金・祝)福岡県 INSA
  • 2023年8月27日(日)東京都 新宿LOFT

プロフィール

藍坊主(アオボウズ)

hozzy(Vo)、田中ユウイチ(G)、藤森真一(B)からなる神奈川県小田原市出身のロックバンド。藤森、hozzy、亀井栄(Dr)で高校時代に前身バンド「ザ・ブルーボーズ」を結成。地元小田原を中心にライブ活動をスタートさせる。1999年8月にバンド名を「藍坊主」に改名。2000年に藤森の幼馴染みである田中を加え、活動拠点を東京へと移す。2004年5月にアルバム「ヒロシゲブルー」でメジャーデビュー。同年亀井が脱退し、サポートドラマーとして参加していた渡辺拓郎が2005年3月に正式加入した。2015年に結成15周年を迎え、自主レーベル「Luno Records」を設立。2021年8月に渡辺が脱退し、現体制となる。2023年5月に5thミニアルバム「月の円盤」をリリース。