悲しいだけじゃなくて希望を感じるバラード
──結果、「K SEVEN SONGS」は非常にバラエティ豊かな作品になりましたよね。
atsuko きっと「K SEVEN STORIES」に出会わなければ生まれなかったであろう曲調のものもあるので、「K」にいろんな引き出しを開けてもらった感覚がありますね。
鈴木 すごい引き出しの数ですよね。今回は3曲目の「上書き世界」のようなバラードも書かれているじゃないですか。個人的にバラードっていうとどうしても悲しげなイメージを抱いてしまうんですけど、angelaさんのバラードって悲しいだけじゃなくて、その中から立ち上がっていける希望を感じるんです。そこがすごく特徴的だなと思って。
atsuko 私たち、デビューした当時からわりとシリアスめなアニメの主題歌の依頼をいただくことが多かったんですよ。「生徒会役員共」みたいな作品は稀なんです。だけど、そういうシリアスなアニメの曲を依頼されるときにはデビューの頃からプロデューサーに「どんなに暗くても、一筋の光だけは残してください」と言われてきていて。それを何で表現していくのか具体的に言葉にはできないんですけど、常に意識してる部分ではあります。「お先真っ暗。もうダメだ。あきらめるしかない」では終わらない感じ。
鈴木 それは聴き手にもしっかり伝わっていると思います。
KATSU うれしいなあ。でも「K」の曲って反対に、例えば「BURN」みたいにアッパーで激しい曲なのに泣けてしまうと言うか。あるいはエピソード6の「Nameless Song」も明るい曲なのになんか切なく感じてしまうんですよね。それはなんでだろうって考えると、やっぱり「K」の持ってる絵の力だと思うんです。それがあるから好きなキャラクターだったり印象的なシーンだったりが浮かんできて、だからジーンとしちゃうんだろうなって。
鈴木 僕も楽曲からいただいた雰囲気やイメージを絵に落とし込んでいるところは多分にあるので、そう考えると相乗効果が生まれてるのかもしれませんね。
atsuko またありがたいことに、私たちはGoRA(「K」の原作者にあたる7人組の作家集団)の皆さんとは、「K」が始まる前から知り合っていて、一緒にごはんを食べたり、カラオケに行ったりしたこともあって。GoHandsの皆さんも「生徒会役員共」の頃から、私たちのライブやイベントを観に来てくださっていて……。要は作り手の皆さんの顔が見えてるんですよね。そういう積み重ねも曲作りに表れるんじゃないかなって。正直、アニメのキャラクターやストーリーのことだけじゃなくて、原作やアニメの作り手の皆さんの思いまでも含んでしまうこともあるくらいですね。さっき「To be with U!」について鈴木監督が「鈍器で殴られたよう」と褒めてくださいましたけど、GoRAのリーダーの宮沢(龍生)さんにも「あれは僕のテーマソングなんです」と言われたことがあって。
鈴木 うん、そういう曲ですよ。
atsuko 今は別の曲に更新されてるしれないんですけど(笑)。そういう、人と人とのつながりみたいなものも感じながら書いた部分って、意外と伝わるのかもしれませんね。
きっと私のことが大好きなんだ
──「K SEVEN SONGS」の各曲のタイトルは、映画の「K SEVEN STORIES」の各エピソードのサブタイトルもしくはタイトルと同じなんですよね。どちらが先だったんですか?
atsuko まさかの、曲のタイトルが先なんです。だから最初は、映画のタイトルもエピソード1なら「R:B」、エピソード2なら「SIDE:BLUE」だけで。でもGoRAの宮沢さんから「atsukoさんの曲のタイトルを、映画のサブタイトルとして付けたいんですけど」って言われて「ええー!」みたいな。だって、プロの作家さんが7人もいて、その人たちが書かれた大事な作品のタイトルに、なんでいちアーティストである私の曲名が……。だから、GoRAさんはきっと私のことが大好きなんだと思う。
KATSU 君、アホやろ(笑)。
atsuko だって嫌いな人がつけたタイトルなんか、わざわざ入れないでしょ? しかも、エピソード4の「Lost Small World」だけは原作小説のタイトルをそのまま曲名にしてたので、「もうひとフレーズお願いします」っていう依頼までくださって。私のイメージとしては、中学時代の伏見と八田にとっての学校や家を「檻」に見立てて「檻の向こうに」っていうサブタイトルをつけたんですけど、KATSUさんは「エピソード5の『メモリー・オブ・レッド』と間違えてない?」って言うんですよ。
KATSU 「メモリー・オブ・レッド」で、尊さんが檻の中に閉じ込められてるシーンがあったから。
atsuko 見たまんますぎる(笑)。そんなこともありましたけど、原作者の方が私の考えた曲名をサブタイトルに採用してくださるなんて、光栄すぎて。
鈴木 おそらくそれは、angelaさんに対するGoRAさんの感謝の気持ちなんじゃないですか。
atsuko それを言うなら私たちもね、「K」に足を向けて寝られないですよ。
KATSU それってどっちの方向?
atsuko もう(GoHandsの東京支社がある)高円寺と(本社がある)大阪方面には足を向けて寝られない。私は、北に足を向けてるからたぶん大丈夫。KATSUさんどっち向き?
KATSU 僕は、たぶんatsukoの家のほうに足を向けてるわ(笑)。
「K」は何の頭文字?
──すでに結論が出かけているような気がしますが、これまでの特集でも伺ってきた共通の質問を1つさせてください。「K」シリーズのみならずangelaはアニソンシーンで多くの人に支持される存在となっていますが、鈴木監督はその理由がどこにあると思いますか?
鈴木 ここまで深くアニメの脚本や原作に寄り添ってくれるアーティストさんって、angelaさん以外に僕は知らなくて。だからこそ、僕らアニメを作る側も気合いが入るんですよね。それに今回の「K SEVEN SONGS」で言うと、提供していただいた各楽曲が各エピソードを補完しているような感覚もあるんです。本編ではハッキリと見えていなかったものが、エンディング主題歌という最後のピースがハマることによって浮かび上がってくる。エンディングと一体になって初めて物語が完成するようなところがあるので、一緒にストーリーを作っている気さえしてくるんです。
atsuko 最初に「K」のお話をいただいたときって、実は私たちがもがいてた時期なんですよね。以前の特集でもお話したことなんですけど、2010年前後のいわゆる萌えアニメ全盛期に私たちの需要がなくなりかけていた頃で(参照:angela デビュー15周年特集 第2回「angela All Time Best」特集)。そんな中でプロデューサーの中西さんは「絶対にまたシリアスなバトル系のアニメは戻ってきますよ」ってずっと言ってくれてて……今考えるとそれは自分が仕込んでたからだと思うんですけど(笑)。
一同 ははは(笑)。
atsuko 一方でアニソンのフェスが世の中に増えていって、そこに出演させてもらう中で「みんなが求めているものはなんだろう?」みたいなことを考えたりして。それまではキャラクターと同じ目線と言うか、低い視点で主題歌を書いていたような気がするんですけど、「K」第1期の主題歌の「KINGS」からはもうちょっと高い目線で、作品にも寄り添いつつもっとみんなを巻き込んで楽しめるような曲作りを目指すようになったので、私的には「KINGS」から“angela第2章”がスタートしたと思っているんです。それが今まで続いていて、いろんなチャレンジをさせてもらっていますから。
KATSU 「KINGS」はホントにみんなを巻き込んでくれる曲。それとやっぱり「K」関連の曲って、アニメで使っていただいた際のシーンのインパクトがどれも強烈なんですよね。第2期のときに提供した「KIZUNA」は、僕らも観ている人も感情が入りすぎちゃうから最近のライブでは「あえて『KIZUNA』はちょっと控えようか」っていうぐらいの曲になってるんです。
atsuko なんかね、感動が“過ぎる”んだよね(笑)。
KATSU そう。特に女の子は「KIZUNA」をやると泣いちゃうから。
鈴木 「KIZUNA」は第2期の最終話エンディング主題歌で、1回しか流れていないのに。
atsuko そう。あのときは私たちも「これで『K』も最後だ」と思ったので……まあ最後じゃなかったんですけど(笑)、「K」という作品とそのキャラクターだけじゃなくて、アニメーション制作のGoHandsさんも原作のGoRAさんも、そしてファンの子たちも含めたみんなに感謝の気持ちを込めてるんですね。だから私も歌っててジーンとくるし、angelaのワンマンライブではホントに重要なポイントで歌う曲にもなってるんですよ。そういう曲が生まれたのは「K」があったから。
鈴木 「KIZUNA」は集大成になっていましたね。atsukoさんのおっしゃる通り気持ちが入ってましたし、あのエンディングが流れたときに視聴者の方々との一体感も生まれたと思います。
atsuko あのときもKATSUさんが「シロくんが目を覚ましたあたりからイントロが流れて」みたいな、なんかめんどくさいことを言ってたんだよ。すごい電話とかして。
KATSU ちょっと思いが強すぎて。「KIZUNA」って曲は90秒よりもちょっと尺が長いんですよ。なのに僕が望んだ通りに曲を使ってくださって。
鈴木 いやいや。繰り返しになりますけど、そうやって一緒に作っていってるのが「K」であって、ホントにいろんな意味で「絆」でつながってるのかなって。
KATSU あ、きれいにまとまったんじゃないですか。
atsuko うん。そうだなあ、「K」関連の楽曲っていうのはangelaの、なんだろな……angelaを形作る、筋肉みたいな存在なんですよね。だから「KINNIKU」の「K」なんだと思う。
KATSU 一瞬で台無しにしたな(笑)。
- angela「K SEVEN SONGS」
- 2018年11月28日発売 / KING RECORDS
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[CD+Blu-ray] 3024円
KIZC-464~5
- CD収録曲
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- BLAZE
- 天狼の如く
- 上書き世界
- Lost Small World ~檻の向こうに~
- BURN
- Nameless Song
- Blu-ray収録内容
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- オープニング主題歌「SURVIVE!」ミュージックビデオ
- angela(アンジェラ)
- 岡山県出身のatsuko(Vo)とKATSU(G, Key)による2人組ユニット。それぞれ音楽を志し上京したのちに結成し、2003年にテレビアニメ「宇宙のステルヴィア」のオープニング主題歌「明日へのbrilliant road」でメジャーデビュー。1stシングルながらオリコン週間シングルランキングで15位をマークし、瞬く間にアニメソングシーンで存在感を示す。以来「蒼穹のファフナー」シリーズ、「アスラクライン」、「K」シリーズなど、多くの人気アニメの関連楽曲を担当している。2014年には5月にアニメ「シドニアの騎士」のオープニングテーマ「シドニア」を発表。この曲は同年、アニメファンが選ぶ「アニメーション神戸賞」で主題歌賞を受賞した。2018年5月に山梨・河口湖ステラシアターにて、メジャーデビュー15周年を記念したライブ「angela 15th Anniversary Live」を実施。10月にはベストアルバム「angela All Time Best 2003-2009」「angela All Time Best 2010-2017」を同時リリースし、東京・日比谷野外音楽堂にてワンマンライブ「angela Live 2018 All Time Best in 日比谷野音」を開催した。同年11月、劇場アニメ「K SEVEN STORIES」のエンディングテーマを集めたミニアルバム「K SEVEN SONGS」を発表する。
- 鈴木信吾(スズキシンゴ)
- 監督・演出家・アニメーター、キャラクターデザイナー。株式会社GoHands所属。数々のアニメーションの原画を担当し、劇場アニメーション「マルドゥック・スクランブル」シリーズではキャラクターデザイン・アニメーションディレクターを、テレビアニメ「プリンセスラバー」「COPPELION」「ハンドシェイカー」といった作品ではキャラクターデザインや監督を務める。2012年より数多くの作品が作られている「K」シリーズでは監督、キャラクターデザイン、美術設定、絵コンテ、3DCGIなど多岐に制作に携わっている。
- angela デビュー15周年特集