ナタリー PowerPush - ANARCHY×Bose(スチャダラパー)

「NEW YANKEE」像を巡る異色ヒップホップ対談

わかりやすいアルバムにしたかった

左からANARCHY、Bose。

──Boseさんが「NEW YANKEE」を聴いた印象は?

Bose まず気になったのは音。今回の音はどういうふうに作っていったの?

ANARCHY いつも通り好きなトラックを選んで、半分くらいまでは自分が作りたい曲を作っていって、そこからはアルバムに足りない要素を考えながら、こんな曲が欲しいなっていうのを作っていったんです。

Bose 僕らはSHINCO(DJ)がいて最初から全員で作っていくから、ここまでいろいろな曲調になることはなくて。ANARCHYくんの過去作だとMUROが全部やってる「Diggin' Anarchy」が一番自分らの感じに近いなって思ったの。トータル的に似てるし、世代も近いから「ピート・ロック感、バリバリだな」みたいな。でも今回もこういうふうにバラバラな曲調がちゃんとアルバムとしてまとまって聞こえるのがすごいなと思って。それって難しいと思うから。

ANARCHY 今回は今までやってきたいろんな形の音楽を詰め込みたいなっていう気持ちが一番にあったんです。メジャーに挑戦するっていうこともあって、1stアルバムを作る気持ちで作ったんで。聴きやすいように10曲程度にしたかったし、10曲すべて違うトラックを作ってもらって。

Bose 確かに、今までの曲のいろんなパターンが入ってる感じがしたな。今までの集大成っていうか。

──作詞面ではどんなことを意識してました?

ANARCHY 簡単にしたいなと今回は思ってて。ヒップホップを聴かない人でも聴いてもらえるようなものにしたくて、いつもならもっとカッコつけて書いてる部分ももうちょっと簡単にするとか、そういう工夫をしたんです。

ANARCHY

──ストレートな物言いにしてみたり?

ANARCHY そう。裏読みするカッコよさもあるじゃないですか。隠れた意味とかひねった言い方とか、ラップにはそういう楽しませ方もあるけど、今回はそういうのはないです。よりわかりやすくしたかったから。

──ANARCHYさんって基本的に自分の人生やパーソナリティを題材にした曲が多いですよね。

ANARCHY はい。でも、今回はいつもより幅広く考えたつもりですね。

Bose ANARCHYくんが持ってるイメージって、「何あの子。もう付き合ったらあかんで」みたいな感じだと思うんだ(笑)。で、歌詞もそのイメージそのままで……まるで「グランド・セフト・オート」みたいな、「これって本当の話なの? ゲームの話なの?」っていうのをちゃんと歌詞にしてるのがいいよね。

ANARCHY 本当のことなんですよ、ここに書いてあるのは。

Bose もちろん。でもラップ特有のデフォルメがちゃんと効いていて、これは田舎とかにいる子がなんの免疫もなく聴いたらいろいろ想像が膨らんできちゃうんだろうなあ。それでいいんだと思うの。いい意味でのプロレス感っていうかさ、「あれ、本当に殴ってんな」って思わせるみたいな。ラップにはそういうのが重要だよね。

ANARCHY スチャダラパーにもそういうところありますか?

Bose あるよ。スチャダラパーっていうイメージをより増幅させてる。ANIなんてのはとんでもなくダラダラしてるふうに表現されてるけど、実際は待ち合わせに時間通りに来るとかさ、会うと意外と普通みたいなところもあって(笑)。それと一緒で、(イメージを)拡大した感じで表現してるほうがサービス精神があっていいと思う。

──Boseさんが、最近、歌詞を書くときに意識していることは?

Bose

Bose 昔からあんま変わらないけど、僕らが言ったからこそ伝わるような言葉を大事にしてるかな。いい意味で、世の中に対して嫌なことを言う。「こういうのは嫌だなー」っていうことを言うっていうのは変わらないですね。

──スチャダラって、ひょうひょうとしているように見えて、その実は風刺を効かせたり、皮肉を込めたりして、世の中に噛みついてる歌詞が多いですよね。

Bose 僕らは最初からマイノリティだし、いわゆる世間一般の目線とは自然とスタンスが違ってくる。でも、俯瞰で見ると実はこっちのほうが普通のことを思ってるんですよ、みたいな。例えば今の社会がおかしくないって思っているのは、かなり頭がおかしいと思うし。最初から外側にいて文句をずっと言ってる気分はあるけど、特に3.11以降はそういう構造がより見えやすくなってきてるとは思う。

ANARCHY スチャダラって、みんなができひんことをやってくれてる感じがあるんですよね。

──物事を斜めに見る面白さ、視点をズラす面白さにも気付かせてくれるし。

Bose でも最初っからこれだけ入れ墨入れてるANARCHYくんも、もうそれで表現してるわけじゃん。それと意味はまったく一緒だと思うよ。最初から一般の人が普通だと思っている社会の外にいるよっていうのを表現してるんだから。 

──表現の形やアウトプットの仕方は違うけど、アウトロー精神は共通してるんじゃないかと。

Bose バランスは似てると思う。ファンタジー感みたいなのもそうだし、ラッパーはこうだったほうがうれしくない?みたいな、そういうのを裏切らないようにっていう。僕らはそういうズレ方をやりたいし、それを見せたい。ANARCHYくんだったらこういう格好をしてて「ラッパーだぜ!」みたいにやってるのを見たいじゃないですか。そういう、見てる人の期待を裏切らないラッパーだと思う。

あのヤンキーよりこっちのヤンキー

──話題を変えますが、お2人に共通するキーワードとして「京都」がありますね。

Bose そう。京都精華大学で准教授を頼まれたから、今、京都に家を借りてて週の半分はそっちに住んでるの。だからね、「Kyoto Chillin」(「DGKA」収録曲)とかすごくわかる。

ANARCHY あ、わかってくれました?

左からANARCHY、Bose。

Bose 全然わかるよ、三条大橋渡ってローソンとか(笑)。だいたい絵が浮かぶから、「ああ、あのへんで中高生の頃遊んでたんだー」と思って楽しめた。ANARCHYくんが育った向島団地ってどのへんなの?

ANARCHY 伏見区のほうですね、寺田屋とかがある。でもなんにもないですよ。

──ANARCHYさんが小中学校に通ってる頃の向島団地ってどんな場所だったんですか?

ANARCHY ガラの悪い地域でしたね。そんなんが嫌で……というか、つまんなくてヒップホップをやりだしたっていうのが大きくて。あのヤンキーより、こっちのヤンキーのほうがカッコいいやんみたいな感じでヒップホップを始めたんですよ。初めの頃はヒップホップっていうのはそういうもんだという捉え方をしてた。

Bose その頃って、ただのヤンキーは何を聴いてた?

ANARCHY うーん、何を聴いてたかな……ちょっとわからないですね。

Bose 周りと合わないでしょ?「お前なに、ラップとか聴いてんの?」みたいになるよね。

ANARCHY 全然そう。あんま理解されなかったですね。

Bose でも、ニューヨークのRuff Rydersとかさ、あんなのヤンキーじゃん。暴走族が聴く音楽でしょ、完全に(笑)。

ANARCHY そうっすよね。僕もニューヨークでDipsetのライブを観たときにヤンキーやんと思ったんですよ。あそこにたまってたヤツらは、ジャージ着てた俺らがオシャレしてチェーンはめてラップし出したのと同じノリやなと思って。そこから今回のアルバムで言いたかった気持ちが俺の中で芽生えだして、なんも間違えてなかったなって。

ANARCHY ニューアルバム「NEW YANKEE」 / 2014年7月2日発売 / CLOUD 9 CLiQUE
初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 4104円 / AVCD-38905/B
初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 4104円 / AVCD-38905/B
CD+DVD / 3564円 / AVCD-38906/B
CD / 3024円 / AVCD-38907
CD収録曲
  1. The Theme(prod by YGSP)
  2. Energy Drink(prod by AVA1ANCHE)
  3. Shake Dat Ass feat. AISHA(prod by Habanero Posse)
  4. VVVIP feat. VERBAL(prod by Major Dude)
  5. Moon Child feat. KOHH(prod by Mally the Martian)
  6. Spiral(prod by BACHLOGIC)
  7. Cry(prod by Blast Off Productions)
  8. Love Song feat. AISHA(Prod by 理貴)
  9. Right Here(prod by John Fontein)
  10. Good Day feat. JESSE (prod by 理貴)
初回限定盤およびCD+DVD DVD収録内容
  1. “Right Here” Music Video
  2. “Right Here” Studio Recording
  3. “Right Here” Music Video Shooting
  4. “Energy Drink” Music Video(Live Version)
ANARCHY(アナーキー)

京都出身のラッパー。1995年からラップを始め、2000年からはJC、NAUGHTY、YOUNG BERY、DJ AKIOとRUFF NECKのメンバーとしても活動している。2006年には1stアルバム「Rob The World」をリリースし、翌2007年にはヒップホップ誌「BLAST」最終号で日本語ラップの未来を担うラッパーの1人として表紙を飾った。2013年11月には4thアルバム「DGKA (Dirty Ghetto King Anarchy)」をフリーダウンロード配信し話題を集める。そして2014年1月1日にはエイベックスのヒップホップ専門レーベル「CLOUD 9 CLiQUE」とメジャー契約を締結。7月2日にメジャーデビューアルバム「NEW YANKEE」をリリースする。

スチャダラパー

1988年にBose、ANI、SHINCOによって結成されたヒップホップチーム。1990年にアルバム「スチャダラ大作戦」でメジャーデビューし、1994年に発表した小沢健二とのコラボシングル「今夜はブギー・バック」が大ヒットを記録する。デビュー20周年を迎えた2010年にはベストアルバム「THE BEST OF スチャダラパー 1990~2010」をリリース。日本のヒップホップシーンを牽引する存在として、多くのアーティストからリスペクトされている。