福永浩平(雨のパレード)×椎木知仁(My Hair is Bad)|異なる道で同じ場所を目指す 同世代フロントマンが語るバンドの現在

まさか泣くとは思わなかった

──お互いにそこからどんどん活躍のフィールドを広げていったわけですけど、その姿をどういうふうに見てました?

福永 いやあ、やっぱり僕の目に狂いはなかったなって(笑)。

椎木 そんなねえ、もうちょいがんばりたいですね(笑)。

福永 本当にマイヘアはびっくりするぐらいみるみるうちにデカくなったから。驚かされることばかりでしたね。節目のライブはけっこう行ってるつもりなので、ずっと見守ってるというか、そういうマイヘアを見ていられるのはうれしい。

──マイヘアなんてそれこそ前は年間200本とかライブをやっていたわけですが、そういう姿はどういうふうに見えていたんですか?

福永 いや、すさまじかったですね。半分ハイエースで暮らしてる感じでしたもんね。だからやっぱり別の世界の生き物みたいな。

椎木 僕も同じ気持ちだな。僕とは逆に、福永はすごく器用なんですよ。人としては不器用なところもあるんですけど、作品作りだったり、料理だったりで器用な一面をいっぱい見てきて。雨パレはベースが抜けて3人でやることになったり、いろんなことがあったんですけど、いつも僕は福永の器用さに驚かされてます。歌詞に関しても「面白いことを思いつくね」と思ったり、やっぱり刺激をたくさんもらってる。

──そういえば椎木さん、去年の雨のパレードのZepp DiverCity(TOKYO)でのワンマンライブを観に行って泣いたらしいじゃないですか。

椎木 びっくりしましたね。自分でも泣くとは思わなくて。

福永 ガチで泣いたんだね(笑)。

椎木 4曲目の「IDENTITY」だったかな。1人で行って、ちょっと泣いて、挨拶しに行こうと思ったらセキュリティの人にガチで止められました(笑)。

福永 はははははは。

椎木 俺もちょっと奢りがあって、パスを持ってればいけるだろうと思ってたら「そのパスではちょっと」って(笑)。それで帰りました。ちょっと調子乗りました。

──逆にマイヘアのライブで泣いたことは?

福永 それはもうよくありますよ!

椎木 そういうことにしておこう。

一緒に成長していった

──出会ってからの5年でお互いの成長は感じますか?

福永 椎木はものすごく努力家だし、「列伝ツアー」が終わったあとに出たアルバム(2016年10月発売の「woman's」)も、椎木には直接言ったんですけど、メロディとかめちゃくちゃがんばって作ってるのがすごくわかる。「今までの曲と似ないように」って、すごく意識しながら作ってるのをひしひしと感じて。

椎木 君みたいに器用にできないからね。

福永 いやいや、それが本当にすごいことだなと思うんです。偉いなあと思うし、聴いていて今どういうものを作りたいのか、どうなっていきたいのかがわかりますね。

椎木 福永の成長ということで1つはっきり思いつくのは歌唱力ですね。もともと上手な人だなあと思ってたんですけど、上手な人がもっと上手になる瞬間を見せてもらった気がして。昔カラオケに行ったら、もう引くぐらい歌がうまくて(笑)。「歌、うまっ!」と思ってたら、去年のZeppのライブでもさらに歌がうまくなってたという。曲作りも、誰かプロデューサーと一緒にやるとそこからめちゃくちゃ盗んで、いろんな技をまた新しく手に入れていっている。一番新しいアルバム(2020年12月発売の「Face to Face」)でもそれは感じます。器用に成長するし、僕はそういうことがあんまり上手にできないからすごくうらやましいですね。

──福永さんはさっきから「器用」と言われてますが、そうなんですか?

椎木 もの作りに対しては器用ですね。あと、部屋にも行ったことがあるんですが、洋服とか料理とか、いろんなところまで気が利いていて。でも、人として器用かというとあんまり……(笑)。そういうところが好きなんですけど。

福永 お恥ずかしいです(笑)。マイヘアとは別の畑生まれですけど、目指してるところは近いなと僕は思ってるんです。自分たちの思い描いている理想像はたぶん近いんだけど、ただ全然違う道をたどってるだけなのかなという。

椎木 ああ……。

福永 僕らも多くの人に届くようにと思いながら曲を書いてるし、もう本当に頭抱えながら、どうやったらもっといいものになるんだろうということを考えていて。ライブにおいても音源においてもそう思ってるので、そういう面は一緒なのかなと思ってますね。

椎木 自分たちだけ、やってる本人たちだけ気持ちよければいいという感じじゃなくて、なんかもっと、どうやって届ければうまくこの気持ちが伝わるだろうということを考えているバンドではあるな。でも、一緒に成長していったからそうなったのかもしんないね(笑)。

福永 言われてみればそうかもしれない(笑)。

──バンドとしての共通点はないに等しいですもんね。

福永 そうですね。だからこそ興味がより湧くというか。どういう子供時代を過ごして、人としてどういう生き方をしてきたんだろうとか。そういうのを聞いたりするのがすごく楽しい。

椎木 共通点としては、ドラマーがお互い美人というのはあるけどね(笑)。髪の長い美人ドラマーが叩いてる。

福永 はははは。

メンバーが家族寄りになってきている

──お二人が「バンドでよかったなあ」と思う瞬間はどういうときですか?

椎木 コロナ禍であんまり外に出られない状況になって、ひさしぶりにメンバーと「せえの!」で音を合わせた瞬間は、マジでバンドを続けてよかったなと思いました。

福永 まったく同じことを思う。雨パレは最近シーケンスが多いんですけど、前作のアルバムで僕がアコギを弾く曲が1曲あって。そういう曲をスタジオでやってると、バンドってめっちゃいいなと思う。

椎木 長く一緒にやってるメンバーだからこそ感じるのは、もう何も言わなくてもお互いのことをわかるようになってきたんですよ。男同士で急に3人車ん中に突っ込まれて1年中ツアーでどっかに行けと言われたら、やっぱりお互いの嫌なとこも見えるし、嫌じゃなくても変なぶつかり方をするし、そういうのがいっぱいあったんです。でも、やっぱり年を食ってきてるのか、距離感がいい感じになってきたのかわからないけど、ますます仲よくなってる感じはあって。日常生活で嫌なことがあっても、スタジオで2人に会って、愚痴ったりしゃべったりしてると、なんか楽になれる。この言い方が合ってるかはわからないんですけど、家族寄りになってきている。

福永 ああ、うちもマジで家族っぽいですね。やっぱり親より全然長い時間一緒にいるし。最近マンガの「BECK」を全巻読み返したんですよ。バンドのサクセスストーリーを読んで、そのあとスタジオに入って音を出したとき、バンドで生活してる自分が鏡に映って、最高の気分だった(笑)。

椎木 それは「クローズ」読んでケンカが強くなった気がするのとは違う?

福永 ああ、完全に一緒(笑)。

椎木 まあでも、ある種、僕たちはそういうストーリーの登場人物だもんね。