雨宿り「傘をなくして」インタビュー|水野あつ&Soodaが語る音楽の原体験、結成の経緯、1stアルバムのテーマ (2/2)

雨宿りの活動は衝撃的な日々の連続

──ここまでの雨宿りとしての活動を振り返って、印象に残っている出来事があれば教えてください。

水野 僕は今まで「人と一緒に何かをする」ということが少なかったので、そういう意味では雨宿りの活動自体、新鮮というか、衝撃の連続です。その中でもやっぱり、先日の1stワンマンライブが自分の中で印象深かったですね(参照:2人組音楽ユニット・雨宿り、1stワンマン「傘をなくして」で体現した情緒あふれる独自の世界観)。実はライブでピアノを弾くのが初めてで、Soodaちゃんもライブで歌うのが初めて。2人とも初めて尽くしだったんですね。ライブ前の1カ月間、とにかくピアノを弾きまくっていたら腱鞘炎になっちゃって……。ピアノ以外で指や腕を使わないようにしながら本番までなんとか練習しました。

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

Sooda 私は歌うことに関してもそうですし、音楽活動全体に対しても、そのときに応じて考え方がいろいろ変わるほうだと思うんですけど、自分のシンガーとしての魅力、ファンの方に歌を聴いてもらえる理由は、「歌がうまい」ということではないだろうなと思っていたんですね。自分を客観的に考えて、分析したらそうだろうなと。歌唱力ではない別のところに私の魅力があるんだなという気持ちでこれまで活動してきました。でも、雨宿りの楽曲を歌っていくうちに「もっとこうできたら、この曲をさらに盛り上げられたのに」と思うことが増えて、悔しさが生まれてきたんです。雨宿りの活動を通して、歌がうまくなりたいと思うようになった。それが、これまでの活動の中で印象に残っていることです。

水野 実際、客観的に見ていて本当にうまくなったと思う。声も出るようになっているし。「歌がうまい」の定義って人それぞれだと思うんですけど、僕自身も歌うので、同じ悩みを抱えたことがありました。歌がうまいかどうかを決める要素ってピッチが正確だとか、ビブラートができるとか、ニュアンスのつけ方がどうとか……本当にいろんな観点があると思うんです。でも、特にオリジナル曲となると、必ずしも歌がうまいからといって評価されるわけでもないんですよね。

──先ほど話に出た1stワンマンライブでの手応えはどうでした?

Sooda ライブの序盤は声がすごく震えちゃいました。ライブが始まって声を出した瞬間に「今、自分は緊張しているんだ」と気付いたんですけど、後半になるにつれて慣れていって。とにかくすごく緊張しましたが、それ以上にライブ会場の温かさに感動した記憶があります。

──リハーサルのときから緊張していたんですか?

Sooda リハーサルのときは全然大丈夫だったんですよ。

水野 初めてのライブだったから、前の日にちゃんと寝れなかったんじゃないかと思って「寝れた?」と聞いたら、「全然寝れました!」と言っていて。めっちゃタフだなと思っていたんですけど、ライブの最初のほうの曲では緊張が伝わってきました。「緊張してる!」って(笑)。

──ファンの方が目の前にいるという状況が影響したんですかね?

Sooda うーん、正直、緊張してるのかどうかも自分でわからないくらいで……。声を出したときに「緊張してるんだ」と体の反応で気付きました。心にはわりと余裕があったんですけど、それによって焦りも出てきて「がんばらなきゃ、がんばらなきゃ!」と自分自身に言い聞かせていました。

感情を乗せて歌うと、自然と涙が出てくる

──ここからは1stアルバム「傘をなくして」についてお聞きしたいのですが、ワンマンライブと同じタイトルにしたのは何か理由があるんですか?

Sooda 2つ理由があって。ワンマンライブの開催もアルバムのリリースも初めてということで、雨宿りらしい名前にしたかったんです。「傘をなくして」というフレーズは、雨宿りをしている情景を想像しやすいなと思った。それが1つ目の理由ですね。2つ目の理由としては、傘って雨はしのげるけど、上のほうの視界が遮られちゃって、下を見て歩くことが増えちゃうじゃないですか。そうやって足元ばかり見てしまうなら一度立ち止まって、傘をなくして、一緒に上を見てみませんかという意味を込めて、「傘をなくして」というタイトルにしました。

水野 タイトルにはそういった意味があるものの、「こういうアルバムにしよう」という決まったコンセプトは決めず、現時点での雨宿りの集大成のような作品にしようと思いました。結果として、自分たちがどういう軌跡を描いてきたか、それがすべて詰まったアルバムになっているなと。雨宿りでは「いろんな自分たちを模索していく」ということを結成時からの目標にしていて、方向性を固定しすぎるのはよくないなという気持ちがあったんです。伝えたいメッセージも含め、その時々で音楽性は変化していくと思うので。そういう意味で、1stアルバムはいろいろな雨宿りを楽しめる作品になっていると思います。

──アルバムのレコーディング中に印象に残っていることはありますか?

水野 「シグナル」と「ナインティーン」という曲に「パ」と「ラ」を繰り返すフレーズがあるんですよ。楽曲の中に「パ」と「ラ」をどう配置するか、アレンジャーさんも含めいろんな人と話し合いました。自分の根底にあるもの、ポリシーといいますか、一見して無駄だと思われるようなことでもどこまで追求できるかということを、自分の“サブ課題”にしているんですよね。

Sooda 私が思い出に残っているのは、「どんどん」のレコーディングです。個人的に、「どんどん」によって“雨宿りらしさ”というものがなんとなく決まったと思っていて。私が初めてレコーディングした曲でもありますし、曲の内容としても自分の感情と共通するものがあるので印象深いです。

──初めてのレコーディングはどうでした?

Sooda とても楽しかったです。もともと感情を込めて歌うことは得意だと思っていて、それをちゃんと意識してできたんじゃないかなと。感情を乗せて歌ってると、自然と涙が出てきちゃうことがあって。それは、あつさんの作る曲と自分自身の感情を重ねられるようになってきているということなのかなって思いました。

──曲に込めたメッセージや感情を、水野さんからSoodaさんに伝えることはあるんですか?

水野 はい。ダイレクトに伝えるときもありますし、漠然と曲のテーマを伝えるときもあります。Soodaちゃんのほうから質問してくれることも。Soodaちゃんは歌にアプローチする力、楽曲について解釈したり、考えたりする力がすごくあると感じていて。自分のものにしようとするといいますか、そういう姿勢に刺激されることは多いですね。レコーディングの最中、僕があまりしゃべらないので、「もっと話してください」と言われることも多いです(笑)。

今音楽ができてることが幸せ

──アルバムには新曲が3曲収録されています。まずは「秘密」について、制作の経緯やテーマを教えてください。

水野 「秘密」は、ミステリーゲーム「Project:;COLD 2.0 ALTÆR CARNIVAL」のエンディング曲で。雨宿りにとっては初めてのタイアップ曲なんですよ。今まではそのときに僕が雨宿りとして表現したいことを歌詞や曲を書いてきたんですけど、今回は作品のプロットを読み込みながら、どういうふうに歌詞に落とし込んでいくのかを考えながら作りました。

Sooda 「秘密」を最初に聴いたとき、今までの雨宿りにない新しいタイプの曲だなと思いました。私個人としてもこれまで歌ってこなかったような曲。なので、レコーディングは楽しかったですね。

──どのあたりが新しいと感じたのでしょうか?

Sooda ちょっと表現が難しいんですけど、Aメロあたりの音の低さと言いますか……。バラード系というくくりで話すと、今までのあつさんの曲では「拝啓、五年前の僕へ」がありますが……なんと言ったらいいんですかね。

水野 自分としては、心のチグハグみたいなものを表現したかったんです。Soodaちゃんは、どっちかというとさわやかでクリーンなイメージがあって。今までセンチメンタルな曲やナイーブな感情をつづった曲を歌ってきたと思うんですけど、ダーク寄りな曲はなかったんですよね。攻撃的というか、アグレッシブな部分も見せる曲をあえてSoodaちゃんが歌うことで、チグハグさを表現したかったという思いがあります。

──ワンマンライブの最後に歌っていた「卒業」についてはどうですか?

水野 「卒業」は、卒業ソングを作りたかったという自分の欲をただ実現させただけなんですけど、ワンマンライブの開催時期がちょうど卒業シーズンだったので、そのことを意識しつつ衝動的に書きました。

Sooda 説明がいらないぐらい、曲を聴けばイメージが伝わってくるような作品ですよね。歌詞やメロディから3月の終わりを想像できて、とても好きな曲です。

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

──ワンマンライブに来ていたお客さんの中にも、この春に学校を卒業した人がいたかもしれませんね。

水野 そうなんですよ。ライブではそういう人たちに届くといいなと思いながら演奏していた記憶があります。

──アルバムの最後を飾っている「動き出せるよ」についても話を聞かせてください。

水野 「生きる feat. 可不」という曲があるんですけど、その曲について「1本の映画を観ているみたい」と言ってもらえることが多くて。「動き出せるよ」でも起承転結を意識しました。Soodaちゃんの歌声って、耳当たりのいい周波数を放っているんですよね。それを生かすポエトリーみたいな部分をもっと前面に出していきたいと思ったんです。声だけで世界観を作れるので、朗読的な要素はどんどん入れていきたいんですよ。活動を重ねる中で、少しずつ自分の中で「雨宿りってこんな感じだよね」ということがわかってきて。その最新版が「動き出せるよ」なんじゃないかなと思っています。

Sooda あつさんの曲って、何回も聴いていくうちに好きになっていくことが多いんですが、「動き出せるよ」は初めて聴いた瞬間に「なんか好き」と感じたというか。直感で好きだと思えた曲です。

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

雨宿り1stワンマンライブ「傘をなくして」の様子。(撮影:江藤はんな[SHERPA+])

──最後に、今後の雨宿りとしての展望があれば教えてください。

水野 音楽方面とは別のものになるんですけど、ラジオをやりたいですね。今もYouTubeで月1くらいのペースでトーク番組をやってはいるんですけど、2人で話すことにも慣れてきたので、今後もし機会があればラジオ局で番組をやりたいという思いがあります。

Sooda 私は雨宿りとしても、Sooda個人としても、本当に今音楽ができてることが幸せだなとずっと思っているんです。次に作る曲が聴いてくれる人にとっての“いい曲”であってほしい。そしてもちろん、私自身も“いい曲”だと思いながら楽曲を発表していきたいですね。仮に「この曲はダメだ」と評価されても、「そんなことないだろう!」ってブチギレられるくらいの自信を持って楽曲を届けていきたい。いつもその気持ちを大事にしています。「自分の好きなものを誰かに見せたい」という感情をこれからも大切にしていきたいです。

プロフィール

雨宿り(アマヤドリ)

2022年11月に始動した、水野あつとSoodaによる2人組の音楽ユニット。KAMITSUBAKI STUDIO所属。ユニット名には「日常のつらいことからそっと雨宿りするような気持ちで聴ける音楽を届けたい」という思いが込められている。2024年3月に東京・Spotify O-WESTで1stワンマンライブ「傘をなくして」を開催。同タイトルの1stアルバムを6月にリリースする。