Aldious|変化して成長し続けるメタルバンド、その柔軟かつ剛健な考え方

Aldiousが3月18日にアルバム「Evoke 2010-2020」をリリースする。

「Evoke 2010-2020」は昨年8月に加入したR!N(Vo)を迎えて過去の代表曲12曲を新たにレコーディングした作品で、シンガーソングライターとして活動していたR!Nが作詞作曲を手がけた新曲「I Wish For You」も収録される。音楽ナタリーでは、R!Nの加入、トキ(G)の産休を経て海外公演も成功させたばかりのAldiousメンバー全員にインタビュー。5人それぞれの言葉からバンドに向き合う真摯な姿勢が伝わってきた。

取材・文 / 阿刀“DA”大志

ボーカリスト探しは人間を見る

──R!N(Vo)さん加入後初のインタビューということで、いきなりですがAldiousのボーカリストに求められる能力はなんでしょうか?

Yoshi(G) 私自身にはあんまりこれといった理想像はなくて、「やりたい!」と言ってくれる子とやりたくて。2008年のAldious結成時はmixi全盛期で、「ギターやりたいな」と書いてるくらいの温度感の子にもメッセージを送ってたんです。でも200人くらいに送ってもまったく返事がなくて、やっと1人返ってきたと思ったら、「すみません、ちょっとメタルは……」みたいな。そういう経験があるので、これまでと同様に今回も一番重視したのは、「Aldiousのボーカルをやりたい」という気持ちがあるかどうかでした。

──最初から変わっていないと。

Yoshi(G)

Yoshi そうですね。メンバー探しが難しいというのは結成からの12年間で身をもって感じているし、自分自身、やりたくないことをやるつらさを知ってるので、たとえどんなに歌がうまくてかわいくてスタイルよくて性格までいい子がいたとしても、「いやー、ちょっとどうかな……」という返事があったとしたら、こっちも「あ、いいです」ってなってたと思います。R!Nにはゲストボーカリストとして去年一緒にツアーを回ってもらって、Aldiousを実際に体感しながら加入するかどうか決めてもらう状態だったので、こっちはかなり受け身ではありましたね。

──そうだったんですね。でも10年以上の歴史のあるバンドで、結成当時に比べたら理想は高くなりそうな気がしますが。

Yoshi さすがに素人からの抜擢はちょっと難しいとは思いました。ある程度酸いも甘いも知ってるくらいの子のほうがいいかなと。そういう意味でもR!Nはベストだったんです。彼女と私たちは過去に大きいステージも、お客さんがものすごく少ない状態も経験してるという点も大きかったですね。あとは自分でCDを作って手売りしたり、チケットを手売りしたり、自分たちで作ることの楽しさやしんどさを知っていて、音楽に対する価値観が近くて。例えば彼女が、「移動は新幹線でしかしたことないです」という子だったらちょっと怖いなというのはあったと思うんですけど。「え、機材車1台で……え、メンバーが運転するの? 10時間もかかるのっ!?」みたいな。でも、そういうこともなかったので。

──R!Nさんのような逸材をどうやって見つけたんですか?

Yoshi 最初はYouTubeでメンバー探しをしてたんですけど、ピンとくる子がいなかったんです。やっぱりメタルというジャンルでフリーで活動をしてる子ってなかなかいない。だけどR!NとMarinaの共通の知り合いの、元WANDSの大島こうすけさんからR!Nを紹介していただいて。その場で大島さんが彼女に電話して、「あ、R!Nちゃん? こういうバンドがいるんだけど興味ある?」「あ、興味あります」とその場で言ってもらえたんです。

──それはすごい。

Yoshi で、それから2、3週間後くらいにスタジオで試しにボーカル録りしてもらったら、「え! こんなにすごい人なのにいいんですか?」と逆にこっちがひるむぐらいの歌唱力だったので、去年はツアーにゲストボーカルと参加して40、50本近いライブをやってもらったんですけど、これまでとジャンルが違うという不安以上に彼女からやる気が感じられたので、最初から加入してもらいたいなと思ってました。

──Marinaさんは、新メンバーを探すにあたってどんなことを考えていたんですか?

Marina(Dr)

Marina(Dr) 私たちは全国ツアーをたくさん回ったり、一緒にいる時間が本当に長いので、やっぱり一緒にいて楽しい人がいいなって。R!Nちゃんは明るくて優しくて、一緒にいてめちゃくちゃ楽しいので、これからが楽しみなボーカリストに出会えてうれしいです。

──では今度はR!Nさん側に伺いたいと思います。最初に加入の話をもらったときはどんな気持ちでしたか?

R!N(Vo) 大島さんからお電話があったときは、お仕事の依頼かなと思っていたら「メタルバンド、どうですか?」だったので驚きました(笑)。それで送っていただいた音源を聴いてみたら、自分の中に思い描いてたメタルと全然違って聴きやすい印象で、曲もよかったのですごく興味が湧いて「ぜひやりたいです」と。スタジオでまずデモ録りをしたんですけど、歌っていて楽しかったし、メンバーの皆さんもいろいろお話してくださって、そういう気持ちもすごくうれしくかったんです。あと当時はシンガーソングライターの活動のほかに歌の仕事をしていて、それとは別に新しいチャレンジをしたいと思ってた時期でもあったので、すごくいいタイミングで出会えたなと思ってました。

──それまでは1人で活動してたのに、5人組バンドというまあまあ大きな所帯に入ることに対して不安はなかったのでしょうか。

R!N 最初はありましたけど、すぐになくなりました。自分の周りにいるバンドのことしか知らないんですけど、バンドってメンバー同士すごくベタベタしてるか、それぞれがすごく自立してるかのだいたいどちらかに分かれてると思っていて。Aldiousはベタベタしすぎず、それぞれが自立していて、その距離感がちょうどいいなと思いました。だから私も最初から加入したいという気持ちでした。

──そんなことってあるものなんですね。

R!N あったんですよ(笑)。自分でもびっくりしました。

──一目惚れ同士ってなかなかないですよね。

Yoshi 一応、人間性もブログでチェックしてたんですよ。R!Nの場合はブログはほとんど読んだし(笑)。

R!N 恥ずかしい。やだー。

一同 (笑)。

Yoshi なんかよくあるじゃないですか、書いたらまずいことを気にせず書いてしまってることとか。

R!N ひー!

Yoshi でもR!Nはめちゃくちゃファンになるくらい真面目というか、好感度の高い感じの子だったので、信頼できるなって思いました。

R!N いやー! うれしい。

Yoshi 去年のツアーはR!Nを含めたゲストボーカル2名体制で回ったんですけど、最初に事務所からゲストボーカルという形を提案されたとき、私たちは「ボーカルがサポートってどうなの?」と抵抗感があったんです。でもボーカルは今回で3人目なので失敗はしたくない気持ちが強かったし、R!Nとしてもライブをやってみないとわからないことがたくさんあったと思うので、ゲストボーカルという形でツアーを体感してもらってから決めてもらうほうが確実なのかなって思い直しました。

晴れて両思い

──R!NさんはAldiousのボーカリストとしてステージに立ってみてどうでしたか?

R!N やっぱり慣れないジャンルだったので、どうするのが正解なのか、どうしたら間違いになるのかっていうのは全部手探りでした。

──そもそもメタルマナーがわからないわけですもんね。

R!N そうです。なので私はX JAPANが好きなんですけど、彼らの音楽を聴いたり過去のDVDを観たり、あとはAldiousのライブDVDを観ながら、そこで得たものをちょっとずつパフォーマンスに取り入れていって。でもやりすぎるとただの真似になってしまうので、ツアーを回りながら自分の形を見つけられるようにしてました。これまでやったことのないことにチャレンジするのはすごく楽しいし、自分でもイキイキしてるなと感じる瞬間がたくさんあって。それにプラスして、オフの日にも一緒に出かけたり、機材車でずっと一緒に移動したりしてるうちにメンバーとの絆がすごく深まって、どんどん愛着が湧いてきました。だから「もしボーカル断られたらどうしよう……」と不安になるくらい、メンバーのこともAldiousの音楽も好きになったツアーでした。

──ライブを重ねていく中で、サワさんはR!Nさんのことをどう見てましたか?

サワ(B)

サワ(B) R!Nさんは初対面のときから「入りたい」と言ってくださってたんですけど、「もしかしたら社交辞令じゃないかな」と思ってた部分もあって、お互いが探り探りでした(笑)。ツアーが始まったらR!NさんはAldiousの曲をしっかり聴き込んでくれていて、私たちから言わなくても今までのライブでやってきたようなパフォーマンスを自分からやってくれました。ライブを観に来てくれた私たちの知り合いも「あのボーカルさん、すごくよかったよ!」と大絶賛してくれたくらいで。今はAldiousはもともとこういうバンドだったんじゃないかと思うくらいこの5人でなじんでますね。

──そこまで来るとあとはR!Nさんかバンド側のどっちから「好き」と告白するだけですよね。

Yoshi そうですね(笑)。仕事のあとに「このあとちょっと打ち合わせしようか」とR!Nを誘ったんですよ。私はさり気なく言ったつもりだったんですけど、R!Nからすると「何を言われるんだろう、断られるんかな……」ってドキドキしてたみたいで。喫茶店で「今回ツアーやってみて、私たちさ……」と言ったところでR!Nちゃんがすごく緊張してるのがわかって、こっちも「断られたらどうしよう」みたいな空気になってて。それで「私たちはR!Nちゃんに加入してもらいたいと思うんです……!」と言ったら、晴れて「両思い!」ってなりました(笑)。

──あはは(笑)。

R!N 去年、一番ドキドキした思い出です。「やっぱりR!Nちゃんさ、シンガーソングライターのほうが向いてるよ」とか言われたらどうしようと思ってました(笑)。

──正式加入したはいいものの、歴史あるバンドに入るってなかなか大変ですよね。

R!N すごくプレッシャーは感じますね。でも比べられる対象にはどうしてもなるし、賛否両論が生まれると思うんですけど、全部込みで新しいチャレンジだし、有意義な活動になるんじゃないかなと思ってます。私は褒められて伸びるタイプなんですけど、叩かれても伸びるタイプなので(笑)。

出産の節目に、バンドと個人それぞれが幸せになる方法

──話は変わりますが、トキさん、ご出産おめでとうございます。産後、わりと早くバンドに復帰されましたね。

トキ(G)

トキ(G) ありがとうございます。生まれてきた子供がすごくお利口で、よく寝てくれるし、本当に手がかからないというのもあるんですけど、家族がすごく協力してくれて。産後2カ月くらいのライブで2曲だけ演奏できたし、去年産休を取らせてもらったぶん、今年はバンドをがんばりたいと思ってます。

──じゃあ、すぐにでも完全復活できる準備が整っているんですね。そんなにすぐステージに戻れるものなんですか?

トキ 私も「しばらくは戻れないかな」と思ってたんですけど、休んでる間もAldiousはツアーを回っていたし、ファンの方からも応援の言葉をたくさんいただいて。もちろん家族と過ごす時間も大事なんですけど、やっぱり私にとってバンドは本当にかけがえのないものだし、早くライブがしたい、ギターを弾きたいという気持ちがずっとあったので、できるだけがんばって両立していきたいです。

──結婚や出産を経ても活動を止めることなく走り続けていられるというのは、ほかの女性バンドにとっても希望になりますね。

トキ メンバーのみんなやスタッフさんが反対せずに応援してくれたことに本当に感謝してます。私だけじゃなくてバンドまで止まってしまったらどうしようと思ってたんですけど、Aldiousは走り続けてくれましたし。私がこうやってどちらの夢も両立できたのは、本当に仲間のお陰だと思います。

──バンドってミュージシャンとしての技術ももちろん大切だけど、Aldiousというバンドは人間性で成り立ってる部分が特に大きいんだなと強く感じます。

トキ 私は加入して10年以上経ちますが、居心地が悪かったらこんなに長く続けてないと思います。やっぱり嫌なものは嫌だし。Aldiousにいると自分のやりたいことができるし、メンバーがやりたいことを自分もやりたいと思えるのがすごくよくて。

──どうしてAldiousは変化があっても止まらずに突き進められるんでしょうか?

Yoshi 今回のトキの出産に関しては、自分たちも同じなんですよ。自分がトキと同じ立場になったら、やっぱりバンドには止まってほしくない。自分のせいでバンドが止まったら、ライブを楽しみにしてくれてたファン全員がショックを受けると思うので。「体のことを気遣ってライブは中止にしよう」というのも違うかなと思うんですよ。生まれてきた子供も、自分が生まれたことによって1つのバンドを消しちゃったんだっていうふうにあとで思うことになっちゃうし。だから、活動は止めない。

──なるほど。

Yoshi ボーカルはバンドの顔だと考えているので、また違う話になってくるとは思うんですけどね。楽器隊ならサポートメンバーを入れてやっていけると思うので、自分たちがいい前例を作っていきたいという思いはあります。男女混合バンドだと復帰される方も多いと思うんですけど、ガールズバンドだと妊娠が発覚すると脱退ってパターンがほとんどなので、そういうふうにはしたくないんです。「バンドをずっと続けるなら、結婚とか子供はあきらめてるものだと思ってた」とか、「音楽一筋だと思ってたのに結婚するんですか? 子供産むんですか?」って言う人もいますけど、「音楽が人生のすべて」とかよく言うけど、それはただのきれいごとで「じゃあ、子供作っちゃダメなの?」って。それは違うと思うんですよ。

──もはや音楽的な話は関係なくて、人間性やチームワークの話になってきますね。

Yoshi そうですね。だからトキから妊娠の話を聞いたときも「おめでとうー!」と拍手して、「ライブいつまでできる? そのあとのサポート誰に頼もうか?」みたいに、どうやったら活動を進めていけるかというリアルな話にすぐなりました。昔はボーカルの脱退にショックを受けて泣いたりしてましたけど、さすがに12年もやってると不安にはならない。長く活動を続けていくなかでメンバーチェンジはなかなか避けられないことだと思うので、建設的な話をするしかないと思ってます。でも、それはあきらめではなくて、一番いい道を選びたいと思ってみんなと話をします。

サワ やっぱりミュージシャンである前に人間なので、個々の幸せと折り合いを付けながらできるのがいいなと感じてます。

Marina バンドって家族みたいなものだし、各々の幸せを私も望んでいます。この5人で作る幸せもあるし、個人の幸せもあるから、どちらも大事にしてほしいと思ってます。バンドはメンバー同士で支え合うところによさがありますよね。Yoshiが言ったみたいに、自分がそういう状況に陥ったときにどう接してほしいかを考えて、それをメンバーにやってあげたら今の形になったって感じです。