ナタリー PowerPush - 杉並区立和田小学校×アルケミスト

感動的式典に密着&楽曲制作の裏側明かす

「渡り廊下」イコール「我が校の誇り」

──子供たちから集まったアンケートの中に、これは印象的だな、この発想は面白いなっていうフレーズや言葉ってありました?

こんや 子供たちにとっては学校だけじゃなくて、この地域がとても自慢みたいで。近くの公園の話だったり商店街の話を一生懸命書いてくれてましたね。

井尻 ああ、あったね。

こんや 和田小のことも自慢なんだけど、その学校がある地域のことも話したいっていうのが、ひしひしと伝わってきました。

井尻 「公園の木々がきれいだ」とか「お祭りがあって楽しいんだ」とか、1枚のアンケートで1曲できちゃうくらいの情報量なんです。そういう思いをすべて受け止めつつ、言葉としては「杉の木」に託したり、「がんばれ」っていうフレーズに託したり。本当、全部歌にしたいくらい。しょうたろうがアンケートから言葉を選んでいった作業はとても大変だったと思いますよ。

──確かに子供たちが共有できるキーワードって必要ですよね。そういう意味ではこの曲の中に出てくる「杉の木」や「渡り廊下」という単語は、子供たちにとってはイメージしやすいものなんでしょうね。

井尻 そう、「渡り廊下」っていう声が意外と多かったんだよね。

こんや この学校、渡り廊下が長くて有名なんですって。

井尻 そうか。だから「渡り廊下」イコール「我が校の誇り」なんだね。

──なるほど。

こんやしょうたろう(Vo)

こんや 和田小出身ではない保護者の方からしても、「渡り廊下」ってとても特別な響きがあると思うし。あと「杉の木」も日本全国に生えてるから共感してもらえるかもしれない。すごくミニマムな作り方をしたんだけど、でももっと大きな広がりも持ちたいなっていう思いもあったんですよね。この曲がこれからどんどん広まっていって、いろんな人に歌われるようになればいいなと思っていて。そして子供たちが大人になったときに、「あの歌は和田小のための歌なんだよ」って自慢できたらいいなと思ってるんです。

──「最初に歌ったのは僕たちだよ」って。

こんや 将来、彼らにも子供ができて、「あれはお父さん、お母さんたちが最初に歌ったんだよ」ってなったとき、きっと思い出以上の何かが生まれるんじゃないかな。そうなったら素敵ですね。

子供が歌う前提でも曲作りにおいては手加減なし

──本番の前に一度、子供たちと一緒に学校で練習をしたんですよね?

こんや そうですね。いきなり「僕らアルケミストが歌を作ります」って言われても「誰、その人たち?」みたいなことになるので、自己紹介を兼ねたライブをまず7月に行って。

井尻慶太(Piano)

井尻 そうだそうだ。それで子供たちは夏休みいっぱいかけて歌詞のためのアンケートに答えてくれたんです。9月にまたみんなで集まって全部読んで、じゃあこうしよう、ああしようって話し合って、みんなに聴いてもらうためのデモテープを制作して和田小に送りました。子供たちはこの音源を聴いて練習して、10月くらいに僕らが和田小を訪れて一緒に練習したんです。だから結構長い時間をかけてこの曲に付き合ってきた感じですね。

こんや 子供が歌うんだからそれに合った曲を……とも考えたんですけど、そもそも僕たちに依頼が来たってことは僕たちなりの歌でいいんじゃないかって気付いて。だから曲作りにおいては手加減なしでしたね。それに最近の子供たちは本当にリズム感がよくて、ちゃんとデモテープで僕が歌ってるとおりに覚えてきてくれてたんです。

井尻 すごいよね。

こんや 実はそのデモテープを作ったときに、知り合いの小5になるお子さんに聴かせて歌ってもらったんですよ。その子は一生懸命歌ってくれて。それがあったから、僕らも子供の歌声っていうのをつかめたんですよね。

井尻 あと、しょうたろうのキーに合わせて歌うと子供にはかなり低いんですね。だから逆にしょうたろうが子供側に歩み寄って、彼らのキーに合わせて歌ってるんです。

こんや かなり高くて、自分的には限界ギリギリでしたね。出だしから普段のサビぐらいのキーの高さなので、ヒイヒイ言いながら歌ってます(笑)。

「校庭でグランドピアノを弾くんですか?」

──でもいいですね。こういう式典っていうのもなかなか経験できないものですし、ましてや校庭で子供たちに囲まれて一緒に歌うことなんて、アーティスト活動を続けていても一生のうちにあるかないかわかりませんから。

こんや そうですね。すごくいい経験をさせてもらったと思います。今朝あのピアノを校庭に出して、そこで調律をしてもらって。その様子を写真に撮ってTwitterに上げたら、すぐに「校庭でグランドピアノを弾くんですか?」って反響があったんです。それは和田小の子供たちも同様で、校庭にピアノが出てるなんてなかなか目にする風景じゃないですよね。

──それだけでテンション上がるでしょうし。

こんや それを記憶のどこかに留めてくれたらうれしいですね。

──いや、これは絶対に忘れられない記憶になりますよ。しかもお2人とも、子供たちからサインまでねだられて(笑)。

井尻 あれはうれしかったね!

こんや しかも僕と井尻のサインだけじゃなくて、PAのおじさんのサインも欲しいみたいなことになってたし(笑)。

井尻 珍しいビックリマンシールみたいなね。

こんや それだ(笑)。

──本当に普通のライブじゃ経験できないものを観ることができましたし、僕自身も今日は楽しませてもらいました。

こんや ありがとうございます!

井尻 僕ら自身も通常のライブでは味わうことのできない経験を、和田小を通じてたくさん味わわせてもらいました……それこそ曲作りの段階からね。

アルケミスト

杉並区立和田小学校
<教育目標>
人権尊重の精神を基盤に、心身ともに健康で、主体的に学ぶ児童の育成を目指して、次の目標を定めている。
  • ・深く考える子ども
  • ・思いやりのある子ども
  • ・体の丈夫な子ども
<校風・伝統>
地域の中を地域とともに歩む学校をモットーに、明るく伸び伸びとした校風を維持している。
<特色ある教育活動>
和田小学校では地域、企業などの他団体との交流により、先進的で特色のある教育活動を行っている。
■赤十字加盟校としての活動
平成21、22年度全国モデル校として活動に取り組む。海外(中国、モンゴル、タイ)からの教育視察を受ける。 現在もエコキャップ収集に取り組み、その数は200万個を突破した。
■授業におけるICTの活用
「インタラクティブホワイトボード」の導入など、電子教材やインターネットを利用したわかりやすい授業を実施し、 先進的で密度の濃い授業を展開している。
■各種企業・団体と協力した取り組み
JAXAの協力によるぺットボトルロケット、日食観測。B&Gの協力によるカヌー教室などの特別イベント。 日本マクドナルドの協力による課外授業。ジェイアイエヌ提供による生徒への「JINS PC」の無料配布など。
アルケミスト

こんやしょうたろう(Vo)、井尻慶太(Piano)からなるポップデュオ。1997年に玉川大学学園祭のために結成され、卒業後もライブハウスやストリートなどで定期的にライブ活動を行う。2003年には1stアルバム「リトルネロ」をリリース。現在までに積水ハウスのCMソングを担当したほか、テレビやラジオへの出演などマルチな音楽活動を続けている。2012年12月には結成15周年を記念したシングル「LOVE」をリリースした。