ナタリー PowerPush - AKLO
ヒップホップ好き全員をロックしたい
ネット発のラッパーだからこそ、パッケージには特別な思いがある
──本作のタイトル「THE PACKAGE」という言葉にはどんな意味を込めたんですか?
これまではミックステープアルバムしか出してなかった俺の作品が、ついにパッケージ化されるっていうのがまずありますね。あとインターネット時代のラッパーとして活動してきた俺は、パッケージというものに対して特別な思いがあるんですよ。
──どういうことでしょう?
「いや、そんな簡単にパッケージ出せないでしょ」っていうさ。せめてパッケージを作るんだったら、ミックステープアルバムではできないようなことをやってほしいんですよ。
──たしかにフランク・オーシャンのミックステープアルバム「nostalgia, ULTRA」のようなクオリティの作品が、無料で手に入る時代ですからね。
そうなんですよ、みんなでレベルアップしていかないと。俺はミックステープアルバムを出してた頃、自分の作品を聴いてくれる人がどんなことをするとフレッシュと感じてくれるのかを意識してました。例えば、最初の「DJ.UWAY presents AKLO "A DAY ON THE WAY"」を発表した後、自分の作品についての意見を集めまくったんです。それで自分の作品を聴いてる人が、どういうヒップホップが好きなのかを徹底的にリサーチして。それを反映させた作品が3カ月後に出した次のミックステープアルバム「2.0」なんですね。
──CD不況などと言われてますけど、無料であるミックステープアルバムのクオリティが上がっている状況の中、有料であるパッケージアルバムはさらに高いクオリティを求められる。
ドレイクのようにミックステープアルバムから始まって、グラミー賞を獲る勢いのようなやつもいるけど、だからってミックステープアルバムの価値が高いわけではないんですよ。今はそれを使って、どうパッケージにつなげていくかっていうところが面白いところなわけで。そもそもミックステープアルバムだったら、既存の作品よりもすごいものを作るべきだと思います。全く違う価値観を提示するとか。それを無料で提示してこそ、初めてミックステープアルバムに意味が生まれてくると思うんです。
カニエ・ウェストはダウンタウン
──AKLOさんは最近だとBlock.fmの洋楽ヒップホップ番組「INSIDE OUT」のメインMCとしても有名ですね。
そうですね。最近はクラブとかでも「『INSIDE OUT』聞いてるよ」って、よく声かけてもらえます、ラッパーなのに(笑)。
──なぜ「INSIDE OUT」のメインMCという大役を引き受けることにしたんですか?
やるしかないというか、現状では、USのヒップホップと日本のヒップホップには差がありすぎるし、USヒップホップの面白さが日本に伝わりきれてないと感じていたから、やることにしたんです。
──その差というのは?
アメリカにおけるラッパーのステータスって、日本におけるお笑い芸人に近いと思うんですよ。つまりエンタテインメントの中心なんです。
──なるほど。
カニエ・ウェストはダウンタウンみたいな感じ(笑)。そう考えると日本とアメリカのヒップホップの差がわかると思うんです。俺だって本当はいちラッパーでいたいですよ、クリエイティブ作業だけに集中するような。でもそれをちゃんと伝えられるのは、人材的に俺しかいないとも思ったんです。なので、毎日出てくるUSヒップホップの情報を細かくチェックしつつ、ミーティングにも遅刻せず出席して(笑)。そういうUSヒップホップの専門家としてのスタイルもあるかな、と。
──実際、「INSIDE OUT」でUSヒップホップのリリックの深さを知ったり、楽しみ方に気付いた人も多いと思います。もっと言えば、これまでAKLOさんみたいな専門家も兼ねたラッパーはいなかったわけで、「INSIDE OUT」でMCをやることで新たなラッパー像を作ったのではないかと思います。
日米のヒップホップの差は想像以上に広がっていますからね。俺という存在がいることで、そのギャップを少しでも埋められたらと思っています。
ニューアルバム「THE PACKAGE」2012年9月5日発売 2835円 Lexington Co., Ltd / One Year War Music / OYWM12004
収録曲
- Beast Mode
- Red Pill
- Best Man
- Foot Print
- S.H.O.T.
- Chaser
- Day Off
- Heat Over Here
- サッカー feat.JAY'ED
- The Lady
- PM to AM
- Lights And Shadows feat.NORIKIYO
- Your Lane feat.鋼田テフロン
AKLO(あくろ)
日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガルラッパー。2008年に空哲平とのユニット“AKLOと空”名義で初のアルバム「AKLOと空」を発表する。その後、ソロとして2009年にミックステープアルバム「DJ.UWAY Presents A DAY ON THE WAY」を自身のブログに公開。その3カ月後にはミックステープアルバム「2.0」を世に送り出し、フリーダウンロードによるミックステープアルバムという手法や、その高いクオリティに注目が集まった。2012年にBACHLOGICが立ち上げたレーベルOne Year War Musicに所属し、7月にシングル「RED PILL」をリリースした。9月に待望の1stアルバム「THE PACKAGE」を発表。今後の動向に注目が集まっている。