ナタリー PowerPush - 赤髪

☆Taku Takahashiとボカロ談義

満足するまで作り続ける

左から、赤髪、☆Taku Takahashi

☆Taku けどバンドを解散して、ボーカロイドをやってみたら「これ自分だけでバンドできるじゃん」みたいに思えたわけですか。ダブルデートののけ者にもされないし(笑)。

赤髪 音楽的にも、もともと「こうすればいいんじゃないか」みたいなアイデアがあったんですけど、それをすぐにやれるのがよかったんですよ。

☆Taku まあバンドだと、自分の中にアイデアがあっても、まずメンバーと共有しないといけないから大変ですよね。

赤髪 そうなんですよ。揉めることもあるじゃないですか。「音楽性の違い」ってよく言いますけど、それがストレスになって「だったら一緒にやんないほうがいいわ」みたいになる。でも自分にはアイデアがあるから、どっかでやりたいなとはずっと思ってたんです。

☆Taku そういうアイデアをはき出していったのがたまって、今回のアルバムになったわけですね。

赤髪 そうです。まだ完成されてない部分はいっぱいあると思うんですけど。

☆Taku 僕の経験では、自分が最初に思い描いたのと同じものができあがったことないんですけど、実際にアルバムが完成してみてそういう感じってあります?

赤髪 そうですねえ。1人でやるからコントロールはできると思うんですけど、なかなか自信を持てるものにならないというか。

☆Taku 自分の中で何が足りないというのは明確にあるんですか?

赤髪 いや、わかんないです。けど作ってるときに「次はがんばろう」っていう意識が出てしまうとダメかなと思いますね。

☆Taku あ、それはダメだね。

赤髪 でも一方で「これで完璧にできた」って思ってしまったら終わりかなっていう気持ちもあるんですよね。

☆Taku うーん、なるほど。しかし逆に解釈すれば、今回のアルバムには今やれることはすべて投入したわけですね。

赤髪 そうですね。まだまだ未熟な部分もあるけど、自分の持ってるものは全部出し切ろうと思って作りました。

☆Taku 完成した作品を聴いて「あ、ここが足りなかったな」とか感じたりするタイプなんですか?

赤髪 それは感じますけど、自分の作った曲はけっこう好きで、しょっちゅう聴いちゃうとこがあるんですよ。

☆Taku Takahashi

☆Taku うんうん。自信がないばっかりじゃなくて、そういう部分もあるんじゃないですか(笑)。

赤髪 けっこうナルシストな部分があるんですかね。

☆Taku いや、はっきり言って自分の作ったものが好きになれなきゃ作品なんか出せないと思いますよ。ナルシストって言っても、自分の作品を聴いて「もうこれ最高、俺最高」って思った直後に「うわあ俺最悪」って思うのをずっと繰り返すのがアーティストだと思うんですよね。その最高だって思う瞬間が多ければ幸せなんですけど。

赤髪 うん、だからいつか、自分がもっとも満足するものを作れたらなとは思います。

☆Taku と言いながら、満足しきっちゃったら作るものがなくなっちゃうんでしょ?

赤髪 そうなんですよねえ。でも徐々にいいものになってきてるんじゃないかっていう感覚がなんとなくあるから、いつも通過点ではありますけど、楽しいです。

ニコ動のアマチュアとプロの差

☆Taku ボーカルが大事という話でしたけど、メロディとアレンジだったら、どっちのほうが大事だと思います?

赤髪 それはすごく難しいですね。

☆Taku 確かに全部が揃ってうまくいく曲もありますからね。

赤髪 ただ世の中的にはメロディだと言われてますけど、僕個人としてはアレンジだと思っています。

☆Taku ほおー! どうして?

赤髪 僕はアレンジにこだわってるからこそ、アレンジのクオリティが高いとちゃんとみんなの耳を引くって思ってるんです。実際、みんなが聴く音ってほとんどがアレンジの音じゃないですか。アレンジがよかったらそのへんのおっちゃんが歌った鼻歌だとしてもけっこう聴ける音楽が作れるよ、って思うんです。だからアレンジは聴いてほしいというか、大事にしてます。

☆Taku なーるほどねえ。うんうん。ほかのボカロPの皆さんと自分が戦った場合、そこが武器なんですか?

赤髪

赤髪 あ、そこですね。実際、メロディとか楽曲のセンスがいい人は多くて、「これは勝てない」と思うこともけっこうあるんです。特に音楽を作り慣れていない人のほうがいいメロをパッと出せたりする。だけどアレンジに関しては、ある程度本当に努力しないと得られない能力だと思うんです。

☆Taku そうですよね。しかもアレンジって、作曲能力とかコードの知識だけじゃなくて、何と何の音が重なったら気持ちいいとか、そういった経験も積み重ねていかないとなかなか覚えられない。そういう意味でこのアルバムは、耳を引く音を入れるのがうまいですよね。単純なアレンジから、さっき言ったリバースとかデュレーションコントロールとかまで。そうやってアレンジで魅力を出しながら、いろんなボカロPの人たちと同じ土俵で戦っている赤髪くんは、プロとアマチュアの差ってなんだと思いますか? 差ってあるんですかね。

赤髪 まあ経験は圧倒的に違うものになると思います。プロは常に何か修羅場をくぐってると思いますし。アマチュアで1年かけていい曲を作る人もいると思うんですけど、プロの方は1日でそれを超えるものが作れるように毎日がんばってると思うんですよ。あるいは、アマチュアでもラッキーパンチである程度いいものが作れることがあると思うんですけど、プロの人は、常に70%くらいのクオリティのものを出し続けられるはずで。

☆Taku はいはい。まあでも、たまにアマチュアのラッキーパンチが120%出すときもありますけどね(笑)。

赤髪 いやもう、それがすごいんですよね(笑)。

☆Taku プロはプロで、必ず70%以上出せるようなすごさがあるんですけどね。しかしニコ動とかで、そうやってプロになっていく人が受け入れられないこともありますよね。あれはどう思いますか?

赤髪 まあ、僕も1人のリスナーとしてちょっとは気持ちはわかるんです。なんていうか、ニコ動だとなんとなく自分の友達みたいな人が作っている感覚なんですよね。友達にもなれるような人が作ってると思っていた人が、急に有名になったり芸能人みたいな扱いになれば、「あんなの普通のやつだぜ」みたいに思う人がいるのもわかります。

☆Taku なるほどね。しかし今や、あなたもCD出しちゃいますよ。

赤髪 叩かれるかもしれない。

☆Taku 叩く人たちになんかコメントありますか?

赤髪 そうですね、ビビッてるんでやめてください(笑)。

☆Taku ですよねー。誠実に音楽を作ってるだけなんだし。赤髪くん、こんないい人なんだから。しかしなんで、髪、赤くないんですか?

赤髪 ……赤くしたほうがいいんですかねえ(笑)。

1stアルバム「NEXUS UTILITY」 / [CD+DVD] / 2013年3月20日発売 / 2800円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCV-10013/B
1stアルバム「NEXUS UTILITY」
CD収録曲
  1. Future
  2. Dive Drop -album version-
  3. Oneself
  4. StarCrew -album version-
  5. Connect
  6. Loto -album version-
  7. GHOST
  8. 黒 猫
DVD収録内容
  1. Loto MV
  2. StarCrew MV
  3. Dive Drop MV
  4. Interview
赤髪(あかがみ)

楽曲クオリティと調声レベルの高さで支持を集めるボーカロイドプロデューサー。3歳からピアノ、中学時代からギターを始め、音大卒業後の2011年9月にオリジナル曲「Loto」をニコニコ動画で公開する。その後「StarCrew」「Dive Drop」の2曲を発表。3作品合計14万再生と寡作ながら、その楽曲クオリティの高さが認められYamaha公式ボカロ専門レーベル「VOCALOID RECORDS」と契約。2013年3月にアルバム「NEXUS UTILITY」でメジャーデビュー。

☆Taku Takahashi(たく たかはし)

DJ、プロデューサー。1998年にVERBALとm-floを結成。ソロとしても国内外アーティストのプロデュースやリミックス制作を行う。「Incoming... TAKU Remix」でbeatportの音楽賞「beatport MUSIC AWARDS 2011 TOP TRACKS」を日本人として初めて獲得し、その実力を証明。2010年にはアニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックも監修する。またソロ名義「THE SUITBOYS」としてミックスCD「AFTER 5 VOL.1」を発表。国内外のDJが最先端の音と情報を発信するインターネットラジオ「block.fm」を設立し、注目を集めている。2012年にはm-floとしての約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」を発表。さらに2013年3月13日にニューアルバム「NEVEN」をリリースする。