ナタリー PowerPush - 赤髪
☆Taku Takahashiとボカロ談義
ニコ動での発表曲は少ないながら、そのハイクオリティな楽曲が高く評価されているボカロP・赤髪。3月20日にアルバム「NEXUS UTILITY」でメジャーデビューすることを記念して、ナタリーでは赤髪がかねてからファンだったという☆Taku Takahashi(m-flo)との対談を企画した。入念な打ち込みとポピュラリティを両立させたデビューアルバムについてはもちろん、ニコ動というコミュニティについての考えや赤髪の音楽的なルーツにも話は発展。ついには☆Takuから赤髪へ、まさかのダメ出しまで行われることに!?
取材・文 / さやわか インタビュー撮影 / 佐藤類
赤髪の強みはオールジャンル作れること
☆Taku Takahashi ボカロ作品を作って発表するようになったきっかけはなんだったんですか?
赤髪 もともとバンドをやってたから「初めてボカロの曲を作りました」っていう人よりは人気が出るんじゃないかなと思って始めたんですよね。
☆Taku あ、なるほど。音楽の知識があるし、自分が作れば余裕で人気が出ると思ったんだ。
赤髪 でも恥ずかしながら、ぜんぜんでした(笑)。「クオリティは高い」みたいに言われるんですけど、何十万回も再生されるわけでもなく……やっぱり悔しかったですね。まだ3曲しか出してないんですけど。
☆Taku なるほど。でも、今回アルバムを出されるってことは、それなりに評価されたんですよね。今はおいくつなんですか? まだまだ若いですよね。
赤髪 20代半ばです。ギリギリな感じなんですけど(笑)。
☆Taku 僕もデビューしたのが26歳くらいでしたから、あんまり変わんないかな。
赤髪 あ、そうなんですか。98年ですよね。僕はもう昔からm-floさんをずっと聴いて育ったんです。今回のアルバムに収録した「Connect」っていう曲なんかは、m-floさんに影響を受けたところがあると思います。自分の音楽は基本的にポップロックなんですけど、でもR&Bとか打ち込みの4つ打ちとかオールジャンル作れるんですよ。
☆Taku ニコ動は、本当にいろんなものを作れる人たちが集まって、次々に面白いものを作ってる場所なんですよね。そこで閉鎖的になってしまうのはまずいと思うけど、その中で何かカルチャーが生まれているのはすごい。
赤髪 僕はもともとバンドをやっていたからこそ、1人だけですべて完結できるものもやりたくなったんです。でも同時にやっぱり歌モノが作りたくて、そこでボーカロイドを1つの手段として選んだんですよ。
☆Taku ボーカリストとケンカする心配はないですからね(笑)。Windowsマシンがちょっと機嫌損ねることはありますけど、まあプロデューサーにとってはすごく楽ですよね。そこまでして歌モノを作るのは、結局バンドをやってた影響なんですか?
赤髪 そうですね。やっぱり歌モノが至高の音楽とされてると思いますし、僕もそう思ってるんです。
☆Taku 自分を「ボカロP」というふうにカテゴライズされるのはどう思います?
赤髪 「ボカロPの赤髪さんです」って紹介されるのは、自分的にはちょっと抵抗あるんです。なんででしょうね? やっぱり無駄なプライドとかがあるのかもしれないですね。
☆Taku 「この人はボカロしか作んないんだよ」って限定されちゃうのが嫌とか?
赤髪 あ、そうかもしれないですね。自分はなんでもやってやろうと思っているので、それだけに限定されて受け取られたくないのかも。
☆Taku とはいえ、歌モノが好きで、だけど1人で完結できるのがいいって考えているんだったら、やっぱりボーカロイドって赤髪さんにはぴったりなんじゃないですか?
赤髪 まあ、そうですね(笑)。誰かボーカリストの方と一緒にやるのもいいとは思ってるんですけど、まあ今まではちょっと機会もなかったんですよ。
赤髪のこだわるボカロプログラミングとは
☆Taku 今回のアルバムは、ボカロのプログラミング技術と楽曲制作の部分と、自分の中でプッシュしたい部分ってどっちなんですか? ちょっと意地悪な質問ですかね?
赤髪 両方すごくがんばってるという思いです。やっぱりボーカルがメインだから、できることはもう全部やろうと思って、ボーカルにはかなり時間をかけてます。でもボーカル以外のアレンジについても、僕が一番得意なところだから、そこで負けてはいけないなとも思ってますし。でもまあ、ボカロを聴かない人からしたら「なんだボーカロイドか」っていう見られ方をするっていうのも、なんとなく理解はしてます。
☆Taku もうちょっと自分に自信を持ってもいいんじゃないですか?(笑) ネガティブに取りやすいタイプ? まあ僕もそうなんですけど。もう基本的に全員俺のこと嫌いなんじゃないかって思ってる(笑)。でもこのアルバムだって打ち込みの質がめちゃくちゃ高いですよ。ボーカロイドは何を使うんですか?
赤髪 初音ミクも使ってますけど、ほとんどはGUMIを使ってます。扱いやすいというか。僕に一番合ってるんですよね。
☆Taku あ、やっぱり特性があるんですね。それ聞きたいな。
赤髪 GUMIは後発のソフトだから、やっぱりクオリティが高いんですよね。適当に入力してもけっこういい感じで鳴ってくれる。
☆Taku ついさっき、ボカロ調教をがんばったみたいなこと言ってたのに「簡単に使えるからいい」って(笑)。
赤髪 いや! そこからがんばればもっとよくなるんです(笑)。GUMIだけじゃなくてほかの(ボーカロイド)にもあるんですけど、Appendっていうので声の感じを変えられるんですよね。「Power」「Sweet」とか4種類ぐらいあって、どれか1個を使ったり、サビだけニュアンスを変えたりできる。だけど僕は1音1音を精査して使っているところが、ちょっとこだわっている部分ですね。4トラック録って、OKテイクを選んで切り貼りしていく感じで。
☆Taku 1音ずつPowerなのかSweetか選んでいくんですね。その手法って今のトレンド的にはどうなんですか?
赤髪 わからないですけど、そこまでがんばろうって思う人はあんまりいないと思います。
☆Taku そういうところもやっぱり評価してもらえた部分なんでしょうね。ネット上ではみんなそういう部分に気づくんですか?
赤髪 自分でも何を使ったかなんて覚えてないんですけど、すごく細かく「ここは何を使ってる」とか「ここは混ぜてる」みたいなコメントをする人がいて、よく聴いてるなと思いますね。
☆Taku すごいですよね。そういうところ。作業時間としては、曲のアレンジとボーカロイドの調教、どっちのほうが長いんですか? 打ち込みもデュレーションコントロールしたり、リバースしたり、聴いても一発じゃわからないような細かいことをいっぱいやられてるじゃないですか。
赤髪 打ち込みにも時間はめちゃかけてます。でもボーカルも同じくらい時間をかけて作ってますね。ボーカルはすごく大事なんですけど、でもやっぱり機械で作っているわけだから、できるだけよくしてあげようと思って。
☆Taku 赤髪さんの曲は歌詞が聞こえやすいのがいいですね。ボカロ曲は調教の仕方によっては、もう何言ってるんだかさっぱりわかんないっていうのもあったりしますから。
赤髪 ありがとうございます。歌をめちゃめちゃ速くして、ボーカロイドにしか歌えないような曲を作る方もいらっしゃるんですけど、僕は逆に、できるだけ人が歌っても問題ないような作り方をしようと思ってるんですよ。
- 1stアルバム「NEXUS UTILITY」 / [CD+DVD] / 2013年3月20日発売 / 2800円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCV-10013/B
- 1stアルバム「NEXUS UTILITY」
CD収録曲
- Future
- Dive Drop -album version-
- Oneself
- StarCrew -album version-
- Connect
- Loto -album version-
- GHOST
- 黒 猫
DVD収録内容
- Loto MV
- StarCrew MV
- Dive Drop MV
- Interview
赤髪(あかがみ)
楽曲クオリティと調声レベルの高さで支持を集めるボーカロイドプロデューサー。3歳からピアノ、中学時代からギターを始め、音大卒業後の2011年9月にオリジナル曲「Loto」をニコニコ動画で公開する。その後「StarCrew」「Dive Drop」の2曲を発表。3作品合計14万再生と寡作ながら、その楽曲クオリティの高さが認められYamaha公式ボカロ専門レーベル「VOCALOID RECORDS」と契約。2013年3月にアルバム「NEXUS UTILITY」でメジャーデビュー。
☆Taku Takahashi(たく たかはし)
DJ、プロデューサー。1998年にVERBALとm-floを結成。ソロとしても国内外アーティストのプロデュースやリミックス制作を行う。「Incoming... TAKU Remix」でbeatportの音楽賞「beatport MUSIC AWARDS 2011 TOP TRACKS」を日本人として初めて獲得し、その実力を証明。2010年にはアニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックも監修する。またソロ名義「THE SUITBOYS」としてミックスCD「AFTER 5 VOL.1」を発表。国内外のDJが最先端の音と情報を発信するインターネットラジオ「block.fm」を設立し、注目を集めている。2012年にはm-floとしての約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」を発表。さらに2013年3月13日にニューアルバム「NEVEN」をリリースする。