AISHA「I BELIEVE」インタビュー|ミスサンシャインが歌うのは、強くなるための“hold on”と“let go”

11月2日、R&BシンガーのAISHAがニューシングル「I BELIEVE」を配信リリースした。

これまでラブソングに定評があった彼女にしては珍しく、この曲は「自分を信じること」の大切さを歌ったメッセージソング。夢や目標に向かっていく中でさまざまな困難やつらさを経験したり、孤独に苛まれたりしたときでも「必要なものはすべて自分の中にある」と信じ、「しがみつく(hold on)」のではなく「手放す(let go)」ことで強く生きていくことができる。そんな熱い思いを美しい歌声に乗せた意欲作だ。なお、楽曲はdot BravoプロダクトCMソングにも決定しており、順次放映が開始される予定だという。

本作のリリースに際して、音楽ナタリーではAISHAにインタビュー。「ミスサンシャイン」のニックネームを持つAISHAにとって、まさに新境地ともいえる「I BELIEVE」の制作エピソードをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 入江達也

ラブ以外にも人生いろいろある!

──新曲「I BELIEVE」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

今回、1つだけルールがありました。私は放っておくとすぐにラブソングを書いてしまうんですけど、初めてラブソングじゃない歌詞を書いてみようと思ったんです。「ラブ以外にも人生いろいろあるだろ!」と思ったので(笑)、そこは絶対にキープしたいテーマでした。ちょうどコロナ禍で自粛期間に入っていた時期に書き始めたのですが、当時は私だけじゃなくて周りの人たち全員のバイブスが落ちていたんですよ。やりたいこともできないし、行きたいところにも行けないって。「これはあかん!」と思い、みんなと自分のバイブスを上げるために書いたともいえますね。

──思えば、前作「Love Package」も、コロナ禍で寂しい思いをしている人たちへのエールのような楽曲でした。

「Love Package」は自粛が始まったばかりで、みんな家から出られなくて「どうしよう」みたいなときに書いたんです。それに比べると、こっちはもう少し自粛ムードが緩んできて、「マスクは人混み以外だったら外してもいいよね?」と少しずつ意識が変わってきた頃に書きました。同じコロナ禍でテーマも似ていますが、「Love Package」は会えない友人たちに贈り物を届けるような気持ちだったのに対して、「I BELIEVE」は「自分を信じる」と歌っているからベクトルはかなり違っていると思います。歌詞の中に「I BELIEVE」という言葉が何度も出てきますが、信じることって何よりも大事なことじゃないかなと私は思っていて。この曲を聴いて、「I BELIEVE」という言葉を体にどんどん吸収することによって、「私は(私を)信じる」と言える気持ちを思い出してほしいです。

──トラックよりも先に、まずは歌詞を考えたのですか?

トラックが先だったかな。前田佑さんと今井了介さんと3人でスタジオに集まり、曲のテーマを探っていきました。「世界は今こういう状況だから、ラブソングよりもみんなが自分に自信を持って、自分を好きになれるような、レベルアップを支えるような楽曲にしたいね」という話になったんです。そこから私が歌詞を考えている間に、佑さんがトラックを作ってくれました。それで、何度かスタジオを行き来しているうちに形になっていきました。佑さんとはこれまで何度も一緒に曲を作ってきたし、信頼関係もしっかりあるのでかなり任せていますね。具体的なリクエストを出すというよりは、「いいの作って!」「気持ちいいトラック作ってくれ!」みたいな感じで頼んでいます(笑)。

昔の自分の写真はすごく楽しそうだった

──歌詞に書かれているのは、AISHAさんが実際に経験したことや感じたことがもとになっているのですか?

すべて自分がそのときに感じたことですね。例えば、1Aで「いつからかなぁ? 空を見なくなった」と歌っているところがあって(と、実際にアカペラで歌う)。私、コロナ禍になる前は週末になるといつも新幹線や飛行機に乗って、日本全国を飛び回って歌っていたんですよ。特にデビューして最初の1年は、朝になるとまず窓を開けて外を見て、「ああ、今日はどこへ行くのかなあ」「どんな人たちに会えるんだろう」と思いを馳せていました。でも、それから何年か経って、仕事の流れも慣れてしまってすべてが当たり前になってしまい、いつも部屋の窓は閉めっぱなし。新幹線でもイヤフォンを着けて自分の世界に没入していたんです。それだと大事なことを失いかけているんじゃないか?とコロナ禍でようやく思い直しました。

AISHA

──「写真に笑ってた日々 何にもわかってないのに。」というフレーズは、コロナ禍で聴くとより心に染みますね。

昔の自分の写真を見るとすごく楽しそうなんですよね。かわいい格好をして楽しいパーティに繰り出して。そこでは常に面白い出来事があったなあって。特にコロナ禍になってからはイベントも軒並み中止になるし、かわいい服を買っても着ていく場所がないから毎日パジャマみたいな格好でうろついていて(笑)。「味気ない日常だな」と思っていました。でも、だからといって過去の自分に戻りたいとは思わないんですよ。もちろん嫌なこともたくさんある毎日だけど、それをもし否定してしまったら、それまでコツコツがんばっていく中で出会ったたくさんの奇跡や記憶も、ぜーんぶ消えちゃうじゃないですか。

──確かにそうですね。

だったらどうすればいいんだろう……?と考えたとき、「ゆっくり立ち上がって なりたい自分思い浮かんで どこに行こうかな?」というフレーズが浮かんだ。つまり頭の中であれこれ考えているだけじゃなくて、とにかく何か行動に移そうと。「私は何が好きだったっけ?」「どこへ行きたくて、何を食べたいんだっけ?」と、楽しいことを1つひとつ思い出していったんです。

──自分自身のことを、まずは理解しようと。

そうなんですよ。そうしたらどんどんいい気持ちになっていって(笑)。「こうあるべき」「こうでなければ」「なぜそうならないのだろう?」などとネガティブなことばかり考えていると、どんどん不安な気持ちになって動けなくなってしまう。けど、まずは「hold on」していたものを「let go」すれば、気持ちがふっと軽くなるんです。

AISHA
AISHA

──執着するのではなく、手放す勇気を持つということですね。

はい。「let go」というのは、「なるようになる」が意味としては近いかな。「I have everything that I need its all in me oh now I see」というのは、「私の中に必要なものは全部ある」という状態のこと。私、小さい頃から何かあるとお父さんに相談していたんですけど、そうすると具体的に「こうしたらどう?」みたいなアドバイスではなくて、「AISHAはちゃんとわかっているんだよ?」と言ってくれていたんです。「自分のしたいこと、欲しいものは、それを認めてあげるだけですべて叶うし手に入るんだよ?」って。そのときは「何を言っているんだろう?」と思ったんですけど(笑)、本当に言われた通りなんです。自分が欲しかったものを少し思い浮かべただけで、わりとすぐ手に入れることができた。今はこの言葉を一番大切にしていますね。それに、例えば「もっと頭よくならなきゃ」「もっとかわいくならなきゃ」と自分の外側にあることに執着するのではなくて、自分の中にあるものを大切すればいいのだと気付いたんですよね。

──そうすることで、自分のことを認めてあげられるというか。

そうなんです。自分のことが好きだったり、自分に自信がなかったりしたらほかの人が輝いてることを応援できなくなってしまいがちじゃないですか。「私はこんな境遇なのに、なぜあなたはそんなに輝いているの?」となってしまう。それよりも自分の好きなものを極めたりすることで、周りの人たちのことも喜んであげられたり応援してあげたりできるようになると思うんですよね。