ナタリー PowerPush - Aimer

それでも誰かのために祈る 13編の普遍的な物語

自意識を咀嚼整理したいという自意識

──なぜ普遍的な物語を歌いたいんでしょう?

毎日ではないんですけど、幼稚園の頃からけっこう頻繁に日記をつけていて。昔から日記を通じて、その日の自分と客観的に向き合ってみるっていう作業が好きだったんです。自分の気持ちをそのまま言葉にしてしまうのではなくて、一旦咀嚼して自分の中で折り合いを付けてから表現したいというか。個人的な日記の言葉ですらそういう表現になっていてほしいと思っているので、みんなに届ける歌詞はそれ以上に普遍的なものであってほしいんです。あと自分のことを明け透けに歌うのはちょっと苦手なので(笑)。

──それはそれでボーカリストさんの表現欲求のあり方としてすごく面白いと思います。「Aimer『Midnight Sun』」とご自身の名前が大きくクレジットされているアルバムの中ですら、“私”というエゴや、自意識を丸出しにはしない。

いや自意識は強いと思いますよ。そもそも自分の行動や感情にこだわりがなければ、それを日記や物語という形で記録しておこうとは思ってなかったはずですから(笑)。

──そう言われればそうですね(笑)。

ただその自分に対するこだわりをストレートにさらすのではなくて、一度整理しておきたい。そっちのほうが自分は好きっていう感じなんだと思います。一度整理して普遍的な物語に昇華させれば、みんなに共感してもらえるかもしれないし、歌詞の解釈をみんなに委ねられるかもしれないとも思っていて。例えば「Iris」の「もう眠ろう 朝が来るなら」という詞を聴いて「朝になれば誰かとつながれる」と思う人もいるだろうし、「朝は来ないかもしれない。だから誰かとつながれるように強く祈りたい」と思う人もいるでしょうし。以前お話したことの繰り返しになってしまうんですけど、そうやって自由に感じてもらいたいんです。

Aimerはなぜ「夜」を歌うのか

──そもそもの話なんですけど、1stシングルが「六等星の夜」で、1stアルバムが「Sleepless Nights」。そして今作は「Midnight Sun」。Aimerさんはなぜ夜をテーマに歌うんでしょう?

自分自身眠れない夜に散歩をしたりするんですけど、そういうときの夜のイメージって「寄り添ってくれるもの」なんです。昼の明るい光は気持ちを鼓舞してくれたりもするんですけど、その一方であまりの強い光に目がくらんでしまったり、傷付くこともあって。でも夜はすごく静かで暗いかもしれないけど、誰も傷付けない。全部を受け入れてくれる存在のような気がして、すごく好きなんです。私自身、人のやりきれなさや、悲しさに寄り添いたい、マイナスの感情も全部包み込めるような存在になりたいと思って歌を歌っているので、夜に憧れてるのかもしれませんね。

──だからこそ誰しも思い当たる節のある普遍性の高い物語を歌うし、その詞を聴いて何を思うかは聴き手に委ねる?

そうですね。私もそういう音楽を作るアーティストさんに救われてきたので。

──具体的に誰に?

スピッツさんですね。

──確かにスピッツってAimerさん言うところの“夜”的なバンドですね(笑)。太陽のように明るく何かを歌うだけでなく、そっと寄り添ってくれる印象がある。

抽象的な話になってしまうのが申し訳ない上に、私が語ってしまうのはおこがましい気もするんですけど、草野(マサムネ)さんは、いつか終わりが来る光のことを歌っているんだと思っていて。スピッツさんの曲はただただまぶしいだけじゃなくて、いつか終わることすらも肯定してくれる曲だから、聴いていて救われる気がするんです。そして私もそういう曲を歌いたいなと思ってるんです。

Aimerという“楽器”を使った冒険は続く

──最後にサウンドのお話も聞かせてください。「Midnight Sun」の構成は前作「Sleepless Nights」と同じ。誰もが知っているスタンダードナンバー、前作なら「キラキラ星」、今作なら「星に願いを」でアルバム全体を挟んで、前作の中盤戦には「AM2:00」が、今作には「AM03:00」とダンスチューンを置いている。

はい。その「AM2:00」「AM03:00」も夜の散歩のイメージ。「誰かに会いたいんだけど、会いたくないような気も……」というイメージの曲ですね。

──そして基本的な曲の肌合いはAimerさんならではのフォークトロニカテイスト。玉井健二さんに飛内将大さんというagehasprings勢がメインソングライターを務めているのも一緒なんだけど、どの曲も明らかに音がリッチになってますよね。

ふふふふふ(笑)。agehaspringsとはデビュー以来ずっと一緒にやってきているので、皆さんとの関係性がすごく濃くなっているし、コンビネーションもだんだんスムーズになっている実感があるんです。皆さん、私がどういう人間で、どういう声を出すのかをより深く知ってくださっているというか。そういう間柄が音に反映されているのかもしれませんね。

──agehaspringsがAimerという楽器の鳴らし方を熟知し始めたから、より野心的な音作りができるようになった感じ?

そういう感じなんだと思います(笑)。最初の話に戻ってしまうんですけど「Sleepless Nights」から2年弱の間に「RE:I AM」のような力強い楽曲を歌ったり、いろいろな場所でライブをしたり、カバーアルバムをリリースしたり、そういうたくさんの経験を通じて私だけじゃなくて、agehaspringsの皆さんも私の声を使って音楽的な冒険ができるようになった。そういう面はあるんだと思います。

Aimer 『2nd album 「Midnight Sun」 DIGEST』

Aimer 2ndアルバム「Midnight Sun」/ 2014年6月25日発売 / DefSTAR Recordst
「Midnight Sun」
初回限定盤 [CD+DVD] 3600円 / DFCL-2068~9
通常盤 [CD] 3200円 / DFCL-2070
CD収録曲
  1. WHEN YOU WISH UPON A STAR -prologue-
  2. 眠りの森
  3. 7月の翼
  4. words
  5. Cold Sun
  6. AM03:00
  7. 小さな星のメロディー
  8. VOICE
  9. RE:I AM
  10. StarRingChild
  11. 星の消えた夜に(Re-echoed by Genki Rockets × give me wallets)
  12. Iris
  13. WHEN YOU WISH UPON A STAR
初回限定盤DVD収録内容
  • 「眠りの森」MUSIC VIDEO
  • 「今日から思い出」MUSIC VIDEO
  • 「ポラリス」MUSIC VIDEO
  • 「RE:I AM(Live ver.)」
SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer アルバム「UnChild」/ 2014年6月25日発売 / DefSTAR Recordst
初回限定盤 [CD+DVD] 3600円 / DFCL-2068~9
通常盤 [CD] 3200円 / DFCL-2070
収録曲
  1. UnChild
  2. StarRingChild -English ver.-
  3. A LETTER
  4. Destiny
  5. But still...
  6. Just say good bye
  7. Next 2 U
  8. bL∞dy f8
  9. REMIND YOU
  10. EGO
  11. Because we are tiny in this world
  12. RE:I AM -English ver.-
Aimer(エメ)

女性シンガーソングライター。幼少期より両親の影響で音楽に親しみ、ピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始める。15歳のときに声が一切出なくなるアクシデントに見舞われるが、回復とともに独特の歌声を獲得。2011年から本格的に音楽活動を開始し、2011年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来、2012年8月発売のシングル「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、「ガンダムUC」シリーズの劇伴を手がけ、「RE:I AM」「StarRingChild」のプロデューサーでもある澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。