「ラブソングは登場人物のクセも考えるんだよ」
──こんなふうに俯瞰して考えると、曲の冒頭で女の子が彼氏のバンドTシャツを着て写真を送る描写がありますけど、あれは彼氏を喜ばせようと送ったと思いきや、実は自分の気持ちを満たしたくて送ったようにも考えられるのかなと。
相手を思った行動なのか、自己満足だったのか、ということですよね。今回は1対1のやり取りを歌ってますけど、サビの「朝になったら削除します」という状況はいろんなSNSにも置き換えられると思うんです。あえてみんなに見える状況でInstagramのストーリーに動画をアップして、24時間経つ前に消しちゃうみたいな。実は、今回はそうやっていろんな角度から共感してもらうために、わざと限定した書き方をしているんですよ。サビで「いつも見て笑った変顔ばっかフォルダ」や「いつものSOS代わりの絵文字」とか、いろんな“あるある”を入れているんです。
──これまで以上にシチュエーションや登場人物の設定が細かくなっていますよね。
これは自粛期間中、井上苑子ちゃんと電話で曲作りの話をしたのが大きいです。私が曲を作らなきゃと思っていたとき、そんちゃん(井上)から「ラブソングは設定を細かく書いてみたらいいよ」と言われたんです。私の中では「この人の髪型はこうで、身長は何センチくらい」というイメージは浮かんでいたんですけど、そんちゃんは「いや、もっと細かく考えてみたら楽しくなるよ」って話してくれて。それで「例えばどういうことですか?」と聞いたら「人って絶対にクセがある」と言うんです。「佳奈ちゃんは髪の毛を耳にかけるクセがあるじゃん。その曲の登場人物は鼻を触る人なのか、前髪を気にしちゃう人なのか。あとは足のサイズはどのぐらいか、その人の親はどういう性格でどんな家庭で育ったのかも考えるんだよ」って。そんちゃんが作詞をするとき、そこまで緻密に設定を考えていることを知ってビックリしたんです。「そうすることで具体的なワードが浮かぶし、あとで楽曲解説をしたら聞いている人もより面白みを感じてくれるよ」とアドバイスをもらいました。
──かなりテクニカルな話ですね。
シンガーソングライターで、主にギターで曲作りをしているということもあり、お互いに共通点が多いんです。日頃から何気ない話も曲作りについてもお話ししてますね。
朝になっても消さないでよ! 佳奈ちゃん何かあったの!?
──今まで以上にこだわった作詞をされているとのことですが、ジャケット写真にも意味が込められているんですか?
はい。楽曲は「隣にいてよ」と好きな人に甘えたい気持ちを描いていたり、「朝になったら消しちゃうからね? いいの?」と突っついちゃうような、女の子のかわいらしくて弱い心も表現していたりする。だからこそ、ジャケット写真は力強くキメている感じにしてギャップを演出しました。普段は化粧をしたりかわいいお洋服を着たり、きれいにしているところはたくさんあるけど、中身は違うんだよという女の子の本質を表しているんです。
──タイトルについてもお聞きします。先日「#朝になったら削除します」の文言とともにティザー映像をツイートされてましたよね(参照:足立佳奈 (@kana1014lm) | Twitter)。コメント欄に「あ、新曲だったんだ! 何事かと思って、急いでリンク先に飛びました」という書き込みをしている人が多くて。
はははは(笑)。確かに投稿を見た方から「朝になっても消さないでよ!」というコメントをたくさんいただきました。
──リスナーを煽ることも加味して、このタイトルにしたのかなと思いました。
ふふ、そんなこともないんですよ! 私は純粋に「いいタイトルが浮かんだな」と思っただけなんですけど、みんなから「佳奈ちゃん何かあったの!?」「大丈夫!?」というコメントが殺到していたので、お騒がせして申し訳ない気持ちになりました(笑)。タイトルを発表する前にインスタのストーリーにアップしたら、「佳奈ちゃんが音楽業界からいなくなってしまうんじゃないか!?」とすごいところまで心配をしてもらっていたので、ご迷惑をおかけしちゃったなと……(笑)。
──ははは(笑)。しかも配信限定リリースなので、サブスクで知った人も「もしかしたら24時間しかアップされないのかも」と思って購入するでしょうね。
確かに今回はCDじゃないので、そういうことも起こるかもしれないですね(笑)。とにかく、改めて皆さんに音楽を届けられることができてうれしいです。ツアーは中止になってしまいましたけど、デビュー3周年を迎えた8月30日には、個人的に思い入れのある場所でライブができたし(参照:足立佳奈、デビュー記念日に生配信ライブ「みんなのこれからがもっといい日になるように」)、ようやくいいご報告ができて本当によかったです。
身近な人を大切にできなかったら、多くの人の幸せは願えない
──改めて、今回の自粛期間で気付かされたことはなんでしょう?
「当たり前が当たり前じゃなくなった」と思いました。ライブができない、人に会えない、マスクを付けるのが当たり前とか、こうも世の中が変わっちゃうんだなって。少し前のドラマを観ていても「え! 街中でマスクしてないけど大丈夫!?」と思っちゃう自分がいて。
──「これまでの当たり前じゃない」というのは、すべての業界に共通しますよね。
そう思います。私の好きだった飲食店がデリバリーを始めたんですけど、経営が難しくなり結局8月に閉店してしまって。
──大人だけじゃなくて学生も大変ですよね。
最近では夏の高校野球がいつものトーナメント形式ではなく、交流試合に変わりましたよね。私の地元の後輩も甲子園に出場することになって、結果は負けちゃったんですけど、試合を観終わったときに「本当によくがんばったね」と熱い思いが込み上げてきて。気付いたらバーッと歌詞を書いてました。福山雅治さんのテーマソング「甲子園」は温かみがあって、どの世代にも届くような歌詞なので勉強させてもらいつつ、いつか私も甲子園のテーマ曲を歌えたらいいなと思っているんです。自分が野球好きなのもあるし、思い入れもあるから、選手の皆さんにエールを届けたい気持ちはすごいありますね。
──こういうタイミングだからこそ、苦しんでいる人を応援するような曲を歌いたいと。だけど今回、足立さんは応援ソングではなくてラブソングを作りました。どうしてでしょうか?
もちろん応援ソングにしようか悩みました。だけど私の周りには恋愛で真剣に悩んでいる子がたくさんいて、まずはその子たちの味方になりたいと考えたんです。そしたらラブソングがいいのかなって。「もっと大きい視野で物事を捉えたほうがいいよ」という方もいると思うんですけど、そうじゃなくて。自分の近くの人を大切にできなかったら、多くの人の幸せは願えないかなと思うんです。