足立佳奈|もどかしい思いをそのままに リアルな感情を「まちぼうけ」に込めて

作品を重ねるごとに成長を見せる足立佳奈が、2021年第1弾作品となるシングル「まちぼうけ」を配信リリースした。

今作の表題曲は、「好きな人の一番にはなれないけれど側にいたい」というもどかしく切ない心情を歌ったラブバラード。片思いをする人の等身大の気持ちをつづった歌詞と、胸を締め付けるような足立の歌声が聴き手に響く1曲だ。またシングルのカップリングには「まちぼうけ」とは真逆のアップテンポな応援ソング「DRIVE」が収録されている。

この2曲はどのような形で生まれたのか。今回のインタビューでは、「まちぼうけ」に込めた思いや「DRIVE」の制作エピソード、2021年の目標などを彼女にたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡 撮影 / 笹原清明

炊き込みご飯を美味しく作れるように

──音楽ナタリーにご登場いただくのは去年9月以来となりますね。前作「朝になったら削除します」の反響はどうでしたか?

あの曲はリリースを発表する前に、SNSで新曲だと伝えずに「朝になったら削除します」の文言と数秒の映像だけを上げさせていただいて。皆さんから「佳奈ちゃん、どうしたの!? 大丈夫!?」という心配の声が多かったので、ご迷惑をおかけしたなと思いつつ(笑)、うまい具合に皆さんの関心を集められたんじゃないかなという手応えがあります。

足立佳奈

──「誤送信じゃないか?」みたいな声もありましたからね(笑)。

ふふっ(笑)。リリース後にSNSで「朝になったら削除します」を使った動画を上げてくださった人がいたのはうれしかったです。あとはミュージックビデオを観てくださった方からは「楽曲の雰囲気とは違って、クスッと笑顔になれました」とか「テンポ感が心地よくて、朝に聴きたくなります」とかいろんな声をいただきました。

──10月には誕生日も迎えられましたが、心境の変化はありました?

二十歳を迎えた一昨年は「いよいよ成人になるんだ」とすごく感慨深い気持ちになっていたんですね。二十歳になったのを機に「20」という曲を書かせてもらったりとか、去年はアルバム「I」を提げてツアーに臨もうと、すごく意気込んでいたところがあって。それと比べて去年は……普通に歳を重ねたなって(笑)。二十歳になるときはあれだけ心の準備が必要だったのに、21歳になるときは意外と落ち着いていた自分に驚きましたね。変わったことといえば、おうちにいる時間が増えたことで、料理に少しずつ磨きがかかってきているのかなって。レシピを見ていろいろと作れるようになったし、冷蔵庫にある残り物で適当にチャチャっと料理できるようになってきました。

──腕に磨きのかかった料理はあります? これは自信あるぞ!的な。

誰でも作れるかもしれないですけど、炊き込みご飯を美味しく作れるようになったと思います(笑)。帆立を入れるのがポイントなのと、自分の一番好きなお米の炊き加減で作れるようになりました!

──ちなみに好みの固さはどんな感じですか?

私はちょい固めのお米が好きなんですよね。お米1粒1粒の立っている感じが好みです。作品のインタビューなのに、プライベートな話題ですいません(笑)。

足立佳奈

恋愛になると「こんなはずじゃなかったのに」ばかり

──ここからは音楽活動についてフォーカスしますね。今回リリースされる「まちぼうけ」の制作はいつ頃から始まったんですか?

本格的に始まったのは去年12月です。そこから1カ月でギュッと作り込んでいきました。

──表題曲「まちぼうけ」は足立さんの作詞・作曲ですね。

これまでいろんなラブソングを書かせてもらってきた中で、まだ曲にしていないテーマはなんだろう? かつ、みんなが経験していることはなんだろう?と考えました。そこで「好きな人の一番になれなくても、それでもあなたの側にいたい」という切ないシチュエーションが思い浮かんで。それを元にストーリーを繰り広げるラブソングを書きたいと思ったんです。同世代の方が「そういうことってあるよね」と共感してもらえるような歌詞に仕上がったと思います。

──この曲って、最終的に恋が実るとか、主人公が希望を見出すようなハッピーエンドな展開ではないですよね。

足立佳奈

そうですね。私がこれまで歌ってきた「今まであなたのことを思い続けてきたけど、スッパリと忘れます」という決意の曲だったり、逆に「ずっと大好きだよ」という感じよりも、どこか心の中でふわふわ思い続けている。歌詞で「手放してくれよ いっそ」という強い言葉を言ってるけど、その裏にある本心を読み取ってほしいという。この主人公は「僕」という一人称ですけど、女の子もそういう気持ちになるでしょうし、片思いをしている人の真意じゃないかなと思って。

──やっぱり人って、こと恋愛になると効率よく生きていけないと「まちぼうけ」を聴いて再確認しました。

そうなんですよね。勉強とかお仕事とかほかのことは器用にできても、恋愛になると「こんなはずじゃなかったのに」ということがあるよなって。

──前作「朝になったら削除します」しかり「まちぼうけ」しかり、最近の足立さんは誰もが身近に感じるリアリティを追求した曲作りをされている印象があるんですけど、実際はどうですか?

私自身の実体験を元にしている部分もありつつ、友人の「相手が思わせぶりなことをしてくるんだよね」という悩みを聞いたりとか、そういう様子を見る機会が多くて。忘れたいのに忘れることはできなくて、その人に思いを伝えられたらいいのに、うまく立ち回れないとか。そういういろんな方の実体験をギュッとまとめて書いてて。本当に起きた話を曲にしているからこそ、リアリティを感じてもらえているのかなと思います。

──サウンドについて触れると、今作はギターとピアノとドラムのシンプルな構成です。音数も少ないので歌うときに「どこに音を入れるのか」「どこで間を空けるのか」をすごく意識されたのかなと思いました。

そうなんですよ。冒頭から最後までのテンポ感だったり、ピアノの音像をどうするかだったり、すごくこだわりました。歌に関しては出だしの息を吸う音から始まって、AメロとBメロは心で思っていることを呟くような歌い方を心がけて、サビは心の叫びを表現するために感情的な歌い方をしました。どうしたらこの曲の歌詞が聴く人の心に入って、かつピアノの音色がより切なく感じられるんだろう、というところはギリギリまでこだわって作り上げることができました。

イラストレーター・ゆのさんの魅力は?

──今作のMVとジャケットではイラストレーター・ゆのさんとコラボされているんですよね。

はい。ゆのさんとは「話がある」という曲でイラストバージョンの動画を作ったのが最初のお仕事でした。今回はこれまでにない新しい世界観にしたいと思って、改めてお声がけしました。ジャケットのイラストはアーティスト写真とリンクさせたような雰囲気で、MVは私が撮影した動画の中にゆのさんの描いたキャラクターが登場する、2次元と3次元を掛け合わせた新世界のMVになってます。

──足立さんが感じる、ゆのさんのイラストの魅力はどういったところでしょう?

色使いが素敵だなと思ってて。今回のジャケット写真を見てもらうとわかるんですけど、髪の色を青、赤、黄色などカラフルに描いてもらったんですね。普通だったら「この色の組み合わせはケンカしちゃうんじゃないかな」と思いそうなものですけど、ゆのさんの手にかかると素敵に仕上がる。想像できないような色使いの巧みさが魅力だなと思います。

──MVのイラストは足立さんが細かくイメージを伝えたのか、ゆのさんのセンスにお任せしたのか、どういう流れで完成させたんですか?

打ち合わせをしながら「私がこういう動画を撮影してくるので、ゆのさんはこんなイラストを描いていただけませんか?」と1カットずつイメージをお伝えさせていただきました。そしたら、その場でイラストをバーッと描いてくださって、お互いに完成形を共有し合いながら作りました。

──他業種の方と共作するのは新鮮ですね。

面白いですね! ほかの作家さんやアーティストの方と歌詞や曲を一緒に作らせていただく機会は増えているんですけど、音楽以外のジャンルの方とコラボをさせていただくと、お互いに見えている世界がまったく違うんですよ。私がアイデアを提案すると「なるほど。じゃあ、こういう感じはどうですか?」ってゆのさんならではの表現を見せてくださる。今回のMVは私の感性だけでは表現できなかった要素が存分に詰まっているので、ぜひ公開を楽しみに待っていただけたらうれしいです。