音楽ナタリー Power Push - 96猫×伊東歌詞太郎 96猫×ろん

「ニコ動」とメジャー “戦友”たちが抱く思い

ニコ動の中でブームがぐるぐる回っている

──では、デビューの前後でニコニコ動画との関わり方には変化がありましたか?

96猫 私はまったくないですね。「ちょっと生放送の回数が減ったかな?」っていうくらい。

歌詞太郎 それあるよね! スケジュールが詰まっているとなかなかできなかったりするんだけど、でも僕もスタンスは変わっていなくて。ただ、ニコニコ動画自体が変わったかな?っていう感覚があるんですよ。僕は4年前からしか知らないけど、その4年間の中でもずいぶん変わったんじゃないかなって。ボカロ楽曲を投稿する人が減ったよね?

96猫 ああ、そうかもしれない。

歌詞太郎 僕らそれぞれ、好きな作家さんがいるんですよ。みきとPさん、れるりりさん……そういう方たちの新曲をめっちゃ楽しみにしていて、曲がアップされたら「これめっちゃいいな、歌いたい!」って思って。その欲求で僕は歌ってみた動画を作っていたんですけど、みんな以前のようにニコ動に投稿しなくなっちゃったんですよ。

96猫 そう。でも、それは私たちの「生放送の回数減ってるね」っていう話に通じると思うんだけど、うまい人はやっぱりメジャーデビューしていっちゃうんですよね。

歌詞太郎 そういう意味では、1つの成熟した文化になったとも言えるのかな。僕ら2人に共通している、投稿のペースが落ちているという部分は反省すべきだとは思っています(笑)。

96猫 あと、ずっと投稿を続けている人はどんな歌でも歌うけど、もっと気軽に「ランキングに上がっているような人気曲を歌ってみよう」っていう感覚で投稿している人が増えているのかなとは思いますね。聴き手側も、自分の知っている曲しか聴かなくなったんじゃないかな? 以前は「知らない曲を聴いてみたらすごくよかった」というような体験をする人がもっと多かったから、ボカロ曲の人気が伸びていったと思うんですよ。

歌詞太郎 それわかるなあ。

96猫 人気曲のジャンルの流れとしては、今はアニソンやJ-POPの波が戻りつつありますね。ボカロ曲がなかった時期って、みんなアニソンやJ-POPを歌ってたんですよ。

歌詞太郎 確かにそうだね。

96猫 ニコ動ができた当初から何の気なしに使っていたユーザーの身からすると、ニコ動の中でブームがぐるぐる回っている感じがします。聴く人も若い方が多いから、流行廃りが激しいんですよね。

──そうなんですね。やはりお二人にとって、ニコ動はホームといった感覚ですか?

歌詞太郎 僕はホームというよりも、プラットフォームへの感謝の思いがあるというか。もしニコ動がなかったら、鳴かず飛ばずのバンドマンでしたからね。ニコ動に投稿することで、多くの人に自分の歌を聴いてもらえるようになったわけだから……でも96ちゃんにとってはホームなのかな?

96猫 うん、そうですね。14歳くらいで飛び込んで、自分の歌を多くの人に聴いてもらえるきっかけになった場所だし、「歌手を目指そう」と思えた場所だし……ニコ動って本当にいろんな意見が飛び交っているんですよ。それはやっぱり本音で好き嫌いが言える、ネットならではのいいところというか。その中で私のことを「好き」と言ってくれる人がありがたいことにいて、私はその人たちに対して友達に近い感情を持っているし。そういった意味で、ニコ動があるうちは投稿を続けていきたいなって思うんです。やっぱりホームですね。

これは「フタリボシ」チャンスだ!

──では、ここからは作品のことを伺えれば。「7S」制作の経緯から教えてもらえますか?

96猫 6月に1stミニアルバムを出させてもらって、「次の作品を」となったときに、スタッフさんが「96ちゃんのやりたいことをやったらいいよ」と言ってくれたんです。なので、3年前くらいからずっとやりたかった、いろんな人とのコラボアルバムを作りたいとリクエストしました。2013年に「アイリス」で奥華子さんとコラボさせていただいたんですが、相手が自分の想像していない角度で曲を表現してくださるのがすごく楽しくて。そのときに、お互いがもたれかかるようにして完成した音源を聴いて「いいね」って2倍喜び合える楽しさを感じたんです。で、歌詞太郎くんとはずっと前からやりたいと思っていたんですけど、それが今回やっと実現した感じで。

歌詞太郎 いやあ、本当に申し訳ない……!

96猫 あの、以前一度コラボしようとしたんですけど、それがうまく実現できなかったんです。なので今回、めげずにまたオファーをさせていただいて。

伊東歌詞太郎

歌詞太郎 僕には断る選択肢はなかったです。本当にありがとうね。

96猫 今回参加してくださった皆さんは、私がずっと一緒にやりたかった人たちです。ろんさんは投稿を始めて3年くらい経ったときに「ジュブナイル」っていう曲を知って、そこから追っかけファンになって。下田麻美さんは4年前に「FINALΦFICTION」という作品で私の歌を知ってくださって、当時音楽の話で盛り上がって「いつか一緒に歌いたいね」と話していたものが実現した形だし。すこっぷさんにはずっとお世話になっているし、湯汲哲也さんの提供曲には野村義男さんも参加してくれて……。

歌詞太郎 これは気になっちゃうよ。

96猫 私、浜崎あゆみさんどストライクの世代なんですよ。なので、湯汲さんが曲を提供してくださって、本当に感激でした。湯汲さん、私の曲を聴いてくださって「96猫さんにはこういう曲が合うんじゃないか」と曲を書いてくれて……ああ、言っててヨダレ出ちゃった(笑)。で、歌詞太郎くんとのコラボはお互いがお世話になっていて、お互いが大好きな40mPさんの曲。

歌詞太郎 大好きだね、40mPさん。虹色オーケストラでもお世話になってる。

96猫 「40mPさんという共通項は外したくないな」と思っていたところに歌詞太郎くんが「『フタリボシ』はどう?」って提案してくれたんです。「それはいいね!」って、即答でした。

歌詞太郎 「いつかこの曲を必ずやりたい」と思っていたんです。そんなところに96ちゃんからお誘いがあったから、「これは『フタリボシ』チャンスだ!」と思って提案させていただきました。

どれだけ気遣いの男なんだ!

──レコーディングはいかがでしたか?

96猫 もう、キーを決める段階から「どれだけ気遣いの男なんだ!」という感じですよ。私は「歌詞太郎くんに任せるね」と言ったんですけど、歌詞太郎くんが「お互いに気持ちよく歌えるキーがいいよね」と言ってくれて、-3っていうキーが候補に挙がったんです。私はすごく歌いやすかったんですけど、「歌詞太郎くんこのキー出るの?」って聞いたら「やっちゃうよー!」って。

歌詞太郎 男女の混声だから、自分たちの音域のちょうどいいところを絶対に探したいなという思いがあったんです。でも96ちゃんは「歌詞太郎くんに合わせるよ」と言ってくれたんです。それで気が楽になりましたね。そのひと言がなかったら、-2にしてもっと苦しんでいたかもしれない(笑)。

──2人の声の相性についてはどう感じましたか?

96猫 歌詞太郎くんはまっすぐで芯のある歌声だけど私はふわふわした歌い方をしがちなので、キレイに合わさるかどうか、不安はありました。けれどいざ歌ってみたらお互いが寄り合っている感じで、できたものを聴いたときは「合ってるな」と思いました。

歌詞太郎 そうだね。僕は録る前に96ちゃんの歌を聴いたら彼女のバイブスがわかって「こういうイメージの歌になるな」っていうのが見えたので、あとはそれに沿って歌うだけだったというか。

96猫 それぞれのハモりパートを聴いてほしいよね。

歌詞太郎 そうだね。なんか、「ハモってる」っていう感覚じゃなかったんだよなあ。例えば、自分でハモりを入れるときってビシっと合わせるじゃない。けど、2人で歌ったときの微妙なズレみたいなものが、独特の厚みになって気持ちいいんです。いつもの2人の曲とは違う、厚みを感じてもらえたらいいなと思います。

──では最後にお互いの今後に期待することなどがあれば。

歌詞太郎 僕、96ちゃんはマルチに活躍できる人だと思ってて。いろんな歌声を出せるし声優だってできるし、いろんな可能性を感じるんですよ。これ、学生時代に勉強したことなんだけど、神様からもらった才能って、ちゃんと使わないと神様は怒るんだって。1つの才能を2にして返すのが人間の人生だっていう考え方なんだけど、96ちゃんは与えられた才能を存分に生かせるんじゃないかなって。ニコ動という場をハブとして、外の世界に活躍の場を広げていってほしいなと思います。

96猫 私は、歌詞太郎くんには変わらずに音楽活動を続けてほしいです。それに歌詞太郎くんの歌声って印象に残りやすい、インパクトのある声だから、日本で収まっている意味がわからないというか(笑)。海外にも目を向けて、グローバルに活動していってほしいなって思います。

歌詞太郎 それはがんばりたいね。歌を通して、心で世界の人と通じ合いたいという思いはあります。僕、最近本当に毎日歌を歌っているんですけど、やればやるほど好きになっていくんですよ。そう、僕「世界で一番歌が好きな人になる」っていうのが最終的な目標なんです。一番うまくなるのは難しいと思うんです。でも、「歌を好きな気持ちは誰にも負けてないんじゃないかな」と思う瞬間はけっこうあって。音楽って、極論を言うと心を感じるものだと思うので、「音楽が好きだ、楽しい」という気持ちを大きくしていくことが、よりたくさんの人に僕の歌を聴いてもらえることにつながるのかなって……。とにかく、たくさんの人とつながるために、どんなチャンスにも飛び込んでいきたいですね。

96猫 2ndミニアルバム「7S」 / 2016年11月23日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 2462円 / SRCL-9228~9
通常盤 [CD] / 1922円 / SRCL-9230
CD収録曲
  1. ブラックペッパー with ろん
  2. 鬼KYOKAN with 下田麻美
  3. 晩秋ロストイン
  4. Alive
  5. フタリボシ with 伊東歌詞太郎
  6. MOTHER ~7S Ver.~ with 奥華子
  7. どう考えても私は悪くない [bonus track]
  8. ブラックペッパー -Instrumental-
  9. 晩秋ロストイン -Instrumental-
  10. Alive -Instrumental-
  11. MOTHER ~7S Ver.~ -Instrumental-
初回限定盤DVD収録内容
  1. 「ブラックペッパー with ろん」 Music Video
  2. 「高尾山を登ってみた。」
96猫(クロネコ)

2006年からニコニコ動画の「歌ってみた。」カテゴリなどで活動している女性歌い手。セクシーな女性の声から少年のような声までさまざまな声色を使う表現力の幅広さで視聴者から支持を得ており、ニコニコ動画とYouTubeの動画累計再生数は1億回を超える。2012年に初のソロアルバム「memoReal」をリリースし、その後も定期的にアルバムを発表。2015年元日発売のアルバム「Brand New...」では、リードトラック「Shooting Star」にHISASHI(GLAY)がギターで参加した。2016年6月にリリースされるミニアルバム「Crimson Stain」でSony Music Recordsよりメジャーデビュー。11月に2ndミニアルバム「7S」を発表した。

伊東歌詞太郎(イトウカシタロウ)

2012年1月に動画共有サイトに“歌ってみた”動画を初投稿。ボカロ楽曲などのカバーで大きな注目を集める。現在のニコニコ動画総再生数は4000万を超え、ロックからバラードまで幅広く歌いこなす歌唱力から「歌唱力おばけ」とも称される。2014年1月、TOY'S FACTORYより「一意専心」でメジャーデビューし、2015年4月に2ndアルバム「二律背反」をリリース。2作連続オリコン週間ランキングTOP10入りをする。また、ユニット・イトヲカシのボーカルとしても活動中。