たまさんの絵には隙がない
──40mPさんはご自身でイラストを描くこともありますが、たまさんのイラストの魅力はどんなところにあると考えていますか?
40mP すごいところはいっぱいあるんですけど、特に思うのは、どのカットを取ってもいい絵しかないところですね。自分で絵を描くというのもあって、いろんな動画やマンガ、アニメを観ながら「このシーンはもうちょっとよくできたんじゃないかな」って思い付くことがあるんですけど、たまさんの絵にはそういう隙がまったくないんですよ。それがすごい。
たま なんだか照れますね(笑)。動画を作る側としては、どのシーンがサムネイルになるかわからないからどこのカットも気が抜けない、というのがあるかもしれないです。それと動画っていつでも一時停止ができるものだから、どこで止めてもらっても1枚絵としてちゃんと成立している形にしたいなっていうのは考えていますね。
40mP それをちゃんと実践しているところがすごいんですよ。
──逆にたまさんが40mPさんの曲に惹かれる理由はなんでしょうか?
たま やっぱりミクの声がすごく自然なところだと思います。聴き取りやすいメロディに自然な歌声が乗っていて、ちょっと聴いただけでも「あ、この曲は40mPさんだな」ってすぐわかる。言葉では言い表せないんですけど“40mPさんらしさ”っていうのがあって、それを聴くとすごく安心するんです。あと40mPさんの曲ってシーンがすっと浮かびやすくて「不思議だなあ」っていつも作りながら思います。
──2人が作ってきた動画の中で特に印象に残っている作品はありますか?
40mP そうですね……やっぱり「恋愛裁判」かな。
たま 私も「恋愛裁判」です。
40mP 動画を投稿したあとも、例えば小説化されたこととかも含めていろんなところで使っていただいた作品だったので。あとはたまさんに描いていただいたビジュアルがすごく注目されましたし。
たま 制作中はけっこう大変でしたけど(笑)。
40mP 描いてる枚数が「恋愛裁判」はケタ違いなんです。
たま ほかの動画よりもすごく工数がかかった作品なので、特に思い入れが強いというのもあります。普段はあんまり現場に出たりはしないんですけど、「恋愛裁判」のときはレコーディング風景を見させていただいたんですよ。それが動画の参考にもなったのですごく刺激的な制作だったのを覚えています。
──なぜ「恋愛裁判」は工数をかけて制作したんですか?
たま 特別な理由があるわけではないんです(笑)。強いて言えば曲を聴いたときに描きたいシーンがたくさん浮かんだからだと思います。「ミクに裁判官の格好をさせたい」とか「相手の男性役を用意して対話させよう」とかいろいろアイデアが浮かんできたもので。この曲の「有罪(ギルティ)」って歌詞だったり、40mPさんの曲にはちゃんと印象に残る強いキーワードが入ってるので、絵描きとしてはやりがいがある曲が多いです。
原点回帰を意識した「Initial Song」
──初音ミクの発売10周年を記念してリリースされたコンピレーションアルバム「Re:Start」には40mPさんの新曲「Initial Song」が収録されていて、ニコニコ動画やYouTubeにはたまさんが制作した「Initial Song」のミュージックビデオが公開されています。
40mP 発売から10年が経ちましたけど、初音ミク自体は何も変わっていないと思うんです。もちろんバージョンアップはしていますけど、初音ミクはキャラクターなので歳を取らないし、ソフトだから歌声も変わらないんです。そういうことを考えながら「ずっと変わらずにここにいるよ」ってことを優しく語りかけるような曲にしたいと思って、「Initial Song」を作りました。
たま 初期の頃のミクを思い起こさせる楽曲だったので、動画もそれに合わせてちょっとシンプルなものにしたいなって思ったんです。40mPさんからも「そんなに枚数は多くなくていい」って言われてまして。
40mP 最初は「1枚でお願いします」って言ったんですよ(笑)。
たま ボカロ曲の初期の頃はみんな1枚絵でしたからね。ただ今回は最後に曲が盛り上がるところでどうしてもミクをアップにしたいと思って、何枚か描かせていただきました。
40mP 初期の頃はVocaloidを主人公にした曲って多かったんですけど、最近はわりとそういう曲が減っていて。僕自身、かなりひさしぶりに「Initial Song」で初音ミクが自分のことを歌う曲を書きました。原点回帰を意識して、作り方も昔に寄せていて、ギターとか楽器の音はすべて打ち込みです。
──生演奏で録るより手間がかかるんじゃないですか?
40mP 普通に弾くよりもかなり労力がかかっています(笑)。それでも当時の作り方をもう一度やってみたかったんです。
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初音ミクは今のままでいい
- V.A.「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」
- 2017年8月30日発売 / U&R records
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初回限定盤
[CD2枚組+10周年記念イラストブック]
4212円 / DUED-1228 -
通常盤
[CD2枚組]
3240円 / DUED-1229
- DISC 1
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- アンノウン・マザーグース / wowaka feat. 初音ミク
- ヒバナ / DECO*27 feat. 初音ミク
- ボロボロだ / n-buna feat. 初音ミク
- Initial song / 40mP feat. 初音ミク
- 大江戸ジュリアナイト / Mitchie M feat. 初音ミク with KAITO
- リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
- 快晴 / Orangestar feat. 初音ミク
- それでも僕は歌わなくちゃ / Neru feat. 初音ミク
- ひとごろしのバケモノ / 和田たけあき(くらげP) feat. 初音ミク
- 君が生きてなくてよかった / ピノキオピー feat. 初音ミク
- 神様からのアンケート / れるりり feat. 初音ミク
- Steppër / halyosy feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKO
- DISC 2
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- みんなみくみくにしてあげる♪ / MOSAIC.WAV×鶴田加茂 feat. 初音ミク
- Tell Your World / livetune feat. 初音ミク
- 千本桜 / 黒うさP feat. 初音ミク
- 初音ミクの消失 / cosMo@暴走P feat. 初音ミク
- ロミオとシンデレラ / doriko feat. 初音ミク
- 独りんぼエンヴィー / koyori(電ポルP) feat. 初音ミク
- カゲロウデイズ / じん
- from Y to Y / ジミーサムP feat. 初音ミク
- *ハロー、プラネット。 / sasakure.UK feat. 初音ミク
- BadBye / koma'n feat. 初音ミク
- オレンジ / トーマ feat. 初音ミク
- ハジメテノオト / malo feat. 初音ミク
- 著:40mP イラスト:たま
「小説『からくりピエロ』」 - 2017年9月1日発売 / 角川ビーンズ文庫