2008年からニコニコ動画をはじめとする動画共有サイトで作品を発表し始めたボカロP・40mPと、イラストレーター・たま。2011年1月に発表された「妄想スケッチ」を共作してから現在まで、彼らは数多くの動画作品を世に送り出している。音楽ナタリーでは長年コンビを組んでいる40mPとたまの両氏にインタビューを実施。Vocaloidにまつわる音楽的な話題だけでなく、キャラクターとしての初音ミクの魅力について語ってもらった。さらに作曲家のみならず“絵師”や“動画師”といったクリエイターたちが作品を発表し続けている、ニコニコ動画をはじめとした動画共有サイトの隆盛についても話してくれた。
取材 / 倉嶌孝彦、橋本尚平 文 / 倉嶌孝彦
撮影 / moco. (kilioffice) icon illustration / BUZZ
- V.A.「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」
- 2017年8月30日発売 / U&R records
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初回限定盤
[CD2枚組+10周年記念イラストブック]
4212円 / DUED-1228 -
通常盤
[CD2枚組]
3240円 / DUED-1229
- DISC 1
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- アンノウン・マザーグース / wowaka feat. 初音ミク
- ヒバナ / DECO*27 feat. 初音ミク
- ボロボロだ / n-buna feat. 初音ミク
- Initial song / 40mP feat. 初音ミク
- 大江戸ジュリアナイト / Mitchie M feat. 初音ミク with KAITO
- リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
- 快晴 / Orangestar feat. 初音ミク
- それでも僕は歌わなくちゃ / Neru feat. 初音ミク
- ひとごろしのバケモノ / 和田たけあき(くらげP) feat. 初音ミク
- 君が生きてなくてよかった / ピノキオピー feat. 初音ミク
- 神様からのアンケート / れるりり feat. 初音ミク
- Steppër / halyosy feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKO
- DISC 2
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- みんなみくみくにしてあげる♪ / MOSAIC.WAV×鶴田加茂 feat. 初音ミク
- Tell Your World / livetune feat. 初音ミク
- 千本桜 / 黒うさP feat. 初音ミク
- 初音ミクの消失 / cosMo@暴走P feat. 初音ミク
- ロミオとシンデレラ / doriko feat. 初音ミク
- 独りんぼエンヴィー / koyori(電ポルP) feat. 初音ミク
- カゲロウデイズ / じん
- from Y to Y / ジミーサムP feat. 初音ミク
- *ハロー、プラネット。 / sasakure.UK feat. 初音ミク
- BadBye / koma'n feat. 初音ミク
- オレンジ / トーマ feat. 初音ミク
- ハジメテノオト / malo feat. 初音ミク
- 著:40mP イラスト:たま
「小説『からくりピエロ』」 - 2017年9月1日発売 / 角川ビーンズ文庫
初音ミクの不思議な力
──お二人がニコニコ動画に初めて作品を投稿したのは2008年です。最初に初音ミクを知ったのはいつ頃でしたか?
40mP もともと初音ミクっていう名前はどこかで聞いていたかもしれないんですけど、ちゃんと認識したのは2008年だと思います。初めてボカロ曲を聴いたのは確かkzさんの「ファインダー」という曲で、それでVocaloidというものがどういうものなのか、ちゃんと理解した感じですね。
──その後すぐに曲作りを始めたんですか?
40mP そうです。僕、Vocaloidの曲をちゃんと聴くまでは「機械が歌っているわけだし、作品としてもそんなにクオリティが高いものは作れないんじゃないか」という先入観を持っていて。でも実際に聴いてみたらクオリティの高い作品はたくさんあるし、活動しているクリエイターさんもみんなすごかった。それで「自分もやってみよう」って思ったんです。
たま 私は2007年の発売当初から初音ミクのことは知っていたんです。それこそ「恋スルVOC@LOID」とか、「みくみくにしてあげる♪」とか、初期の作品にも触れていました。最初はただの動画の視聴者だったんですけど、鏡音リン・レンが発表されたときに、この2人のビジュアルがものすごく好きで、そこからVocaloidのキャラクターを描き始めました。リンとレンとミクを一緒に描き始めて、それが現在まで続いています。
──40mPさんは数あるVocaloidの中でも初音ミクを使った曲が多いですよね。ミクの魅力はどんなところにあると考えていますか?
40mP いろんなVocaloidを使ってみた中で感じたことなんですけど、初音ミクってすごく扱いやすい音源だと思うんです。もちろんあどけなさとか、たどたどしさは多少あるんですけど、普通に打ち込んだだけでもそれなりに歌詞が聴き取れる感じでちゃんと歌ってくれる。おそらくVocaloidというソフトを誰でも気軽に手が出せるようなものにしたのは初音ミクなんじゃないかなって思っています。
──イラストレーターであるたまさんは、初音ミクの魅力はどんなところにあると感じていますか?
たま ツインテールが特徴的って言うのはもちろんなんですけど、そもそもミクの髪の色の感じって、どこか珍しいんですよね。例えば「恋愛裁判」って曲ではミクをおさげにして描いているんですけど、この髪の色を保っていればツインテールではなくても一目見ただけで「ミクだ!」ってわかるんですよ。
40mP ただの緑じゃないと言うか……エメラルドグリーンって感じ。完全に緑じゃないから、青っぽくしてもミクになる。
たま そうそう。自分の好きな髪形や服装をさせても髪の色とか、ちょっとしたピンクの差し色とかでミクっぽさって出せるんですよ。不思議な力を持っているキャラクターだと思うし、ミクの個性の強さがあるからこそ描いていて楽しいと感じることも多いですね。
動画制作のやり取りは1往復
──40mPさんとたまさんは「恋愛裁判」「少年と魔法のロボット」「シリョクケンサ」など数々のコラボ作品を生み出し続けていますが、お二人が最初に知り合ったのはいつですか?
たま 知り合ったのは私が40mPさんの「トリノコシティ」って曲が好きで、勝手にPVを作ったのがきっかけだったんですよ。
40mP 当時はあまり動画を誰かに作ってもらったりしてなくて、せいぜいイラストレーターさんに1枚絵を描いてもらうくらいだったんです。ずっと動画を作りたいと思ってはいたんですけど、お願いするなら自分の曲のことを好きだと言ってくれる人のほうがいいなと思っていたら、たまさんが「トリノコシティ」のPVを自主的に作ってくれて。それで一緒に曲を作りたいと思って初めて動画を付けて公開した曲が「妄想スケッチ」って曲なんです。
──「妄想スケッチ」以降、40mPさんの曲にはたまさんが動画を付けるという流れが続いていくわけですよね。
40mP 性格的な話になっちゃうかもしれないんですけど、僕は手広くいろんな人と仕事をするのが少し苦手なところがあって。動画を作ってもらうのであれば安心して任せられるたまさんに、という流れができたんだと思います。結果的に僕の曲と言えばたまさんのイラスト、みたいにセットでイメージを持たれていることが多くて、それはけっこう僕としてもありがたいことだと思っています。
──動画を制作する際はどういう打ち合わせをするんですか?
たま それが、40mPさんとは全然打ち合わせをしないんですよ(笑)。
40mP やり取りはあっても1往復くらい。基本的にお任せですね。
たま 動画を作るときはもうひたすら曲を聴いて、自然とシーンが思い浮かんでくるのを待ちます。最初にキャラクターをミクにするか、それとは違う登場人物にするかだけ考えるんですけど、その後はキャラクターが勝手に動いてくれるので、直観的に浮かんだ絵をコンテに起こす感じです。
40mP たまさんのすごいところは、絵コンテが上がってきたら、そこからブレないんですよ。本番で変わるところがそんなになくて。だから絵コンテをもらった段階で「これはもういいものができるな」って確信することが多いです。
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たまさんの絵には隙がない