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天々高々 ロマンス
ロマンスと生活は続く。“聞き覚えのある声”で描かれる、愛おしく稀有なラブソング
文 / 張江浩司
忙しなく繰り返されるフレーズと、揺蕩うような旋律。2つのピアノの音が耳に馴染もうというところで、2人の人間が出会い、恋に落ち、結ばれる様子が、どうにも聞き覚えのある声の記名性が高すぎるフロウによって描かれ始める。「日差しなしでも熱中症 『ねぇチューしよ? んで もっかいしよ?』」なんていう熱に浮かされているとしか思えない言葉が飛び出し、衝動的な2人の心情が「道徳の向こう ただの動物 二個の心臓 正面衝突」と表現されたあたりで、心配になる。「花束みたいな恋をした」や「ブルーバレンタイン」などの映画を挙げずとも、あまりにも輝かしい出会いの瞬間からスタートする恋愛は、すれ違いや倦怠を経てたいてい苦い結末を迎えるからだ。
しかし、この曲は「好きだ」のリフレインのあと、いわゆる2番から夢見心地にボヤけていたピントが「生活」に向かってグッと絞られていく。「料理は趣味 じゃなく家事になる」とはまさにそうで、誰かと一緒に暮らすために作られる料理は休みの日に自分の好きなタイミングで作るスパイスカレーとはまったく意味が違う。今までいくらでも買えたものだって「あのさ、欲しいレコードがあるんだけども」と了解を得ないといけない。
ここでまた「好きだ」がリフレインする。
たまに食べるカップラーメン、お風呂場に整列するアイテムたち、2人の間にだけある笑い声。愛おしいディティールに続いて歌われるのは、「月イチで来る不機嫌も 二人で越えるべき試練と 思えたら良い 思うから良い」、そして「ラブソング ラブソング 文脈なし 音程無視で歌う 歌いたい」。大事なのは「思えたら」ではなく「思うから」、「歌う」ではなく「歌いたい」。つまり、ロマンスは生活の中にちりばめられていて、それは意志によって維持されるということ。
最後の「好きだ」のリフレインが終わると、宣言というには根拠のない、自分に言い聞かせるような「それでも結末だけはわかってる 約束する ハッピーエンドだ」でこの曲は幕を閉じる。この曲のあとにも、2人の毎日は続いていく。そう思えるラブソングは、あまり多くない。
天々高々「ロマンス」Music Video
天々高々(テンテンタカタカ)
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2025年に本格始動した、あふちゃん(MC)とあいちゃん(Piano, Vo)の2人組。メンバーは「何よりも言葉の力を信じて活動してきたMOROHAのあの人」と「何よりも言葉にこだわり活動してきたシンガーソングライターのあの人」と紹介されている。2025年のバレンタインデー、2月14日に1stシングル「ロマンス」を配信リリースした。