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mekakushe「恋のレトロニム」ジャケ写

mekakushe 恋のレトロニム

私たちの未来を照らす、麗しのポップチューン

文 / 黒田隆太朗

「だいたい退屈ばっかりのこの世界で とっくのとうにわたしたちは特別なんだよ」

この音楽が照らすのは君の人生であり、私たちの未来であり、そしてもちろん彼女自身のそれだろう。恋をしたときに感じる、天にも昇る思いを表したようなユーフォリックな音色とメロディ。そこにオリエンタルなフレーズが華を添える、麗しのポップチューンである。「恋のレトロニム」はmekakusheの代表曲になっていくのではないか、そんな予感を抱かせる新曲だ。

テレビアニメ「九龍ジェネリックロマンス」のエンディング楽曲として描き下ろされた曲である。編曲はテレビアニメの劇伴音楽を手がけた佐高陵平。随所にちりばめられた香港テイストのフレーズはもちろんのこと、所狭しと詰め込まれたさまざまな打ち込みの音は、九龍のにぎやかな商店や猥雑なストリートをイメージしたものだろう。音が“鳴っている”というより、音と音が“衝突”し、そして“駆け巡っている”ようなサウンドである。また、生活感を排したようなニュアンス、と言えばいいのだろうか。どこか空想的でブライトな質感も、ミステリーやSFの要素を含んだ原作のストーリーを意識したものに違いない。mekakusheの涼やかな声も絶妙で、この曲のドラマを引き立てているように思う。

インディーズ時代の内省的な作風から一転、デビュー以降のmekakusheは歌も音色も軽やかで、絢爛になり、そしてラブソングが増えていった。そうした彼女の作風の変遷も、「ロマンス」(しかも風変わりでミステリアス!)という側面とマッチしたのではないだろうか。いわば「九龍ジェネリックロマンス」に触発されて、彼女自身の扉も開いたような印象を受けるのだ。

ちなみにミュージックビデオではイラストレーターのオカユウリがアニメーションを担当。実写映像にイラストを重ねた作品になっており、町を駆け抜けていく可憐な少女の姿が印象的だ。そうした現実とファンタジーが混在するスタイルは、無論mekakusheの音楽にも通ずるものである。というわけで、アニメとはまた違った角度からこの曲の魅力を補完したMVになったと言えるだろう。

mekakushe「恋のレトロニム」ミュージックビデオ

mekakushe「恋のレトロニム」
2025年4月6日(日)配信開始 / akogare records
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作詞・作曲:mekakushe
編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)

mekakushe(メカクシー)

mekakushe

作詞、作曲、歌唱、ピアノ演奏を自ら手がけるシンガーソングライター。3歳からクラシックピアノを始め、次第にポップスに傾倒。2013年12月、高校3年生のときにSoundCloudでオリジナル曲を発表した。2021年4月に1stアルバム「光みたいにすすみたい」をリリースしm2022年2月には君島大空、ハヤシコウスケ(シナリオアート)、管梓(For Tracy Hyde)らがアレンジャーとして参加した2ndアルバム「あこがれ」を発表。同年11月にバンダイナムコミュージックライブ内にプライベートレーベル・akogare recordsを設立し、5カ月連続で配信シングルリリースした。2024年9月より長瀬有花とのコラボ企画を始動させ、3部作の楽曲を発表。さらに2025年1月に楽曲「きみはシュノーケル」、4月にテレビアニメ「九龍ジェネリックロマンス」のエンディング楽曲「恋のレトロニム」を配信リリースした。