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原田波人 火の鳥
令和の歌謡歌手が贈る“ザ・歌謡曲”
文 / ナカニシキュウ
「演歌・歌謡曲」というカテゴライズが一般化していることからもわかるように、演歌と歌謡曲は切っても切れない関係性にあり、その境界線はあまり明確なものではない。とはいえ両者の違いは厳然としてあり、楽曲やアーティストごとに「演歌というよりは歌謡曲寄り(もしくはその逆)」と言えるものがしっかりと存在する。ハードロックとヘヴィメタル、あるいはミステリーとサスペンスの関係性みたいなものだ。ハッキリとどちらかに寄っているほうがむしろ珍しいという点でも、そのジャンルに関心のない層から「別にどっちでもいいよ」と言われがちな点でも共通している。
その意味において、原田波人というアーティストは限りなく歌謡曲サイドに振り切った存在と言える。「万燈籠」のような演歌ナンバーもレパートリーに含まれてはいるが、基本的には演歌よりも歌謡曲に軸足を置いたシンガー──つまり近年では比較的希少となってしまった“歌謡歌手”──と定義して差し支えないだろう。
そんな彼の真骨頂たる新曲「火の鳥」は、歌謡曲ジャンルが隆盛を極めた1980年代のムードをダイレクトに受け継ぐ王道ド真ん中のザ・歌謡ナンバーだ。マイナースケールで紡がれる“泣き”のメロディはいかにも80年代歌謡的であり、のちのJ-POPが意識的に排除してきた泥臭さや大仰なリリシズムが多分に含まれている。
特筆すべきはハーモニー構造で、特にサビ前の「生命さえも 惜しくない」およびサビの「この身ゆだねて」で繰り出されるマイナーツーファイブ進行(短調の2度→5度)の“泣き”っぷりは必聴だ。これは80年代歌謡シーンにおいて多用されていたジャズ由来の和声であり、現代では「ベタすぎる」として避けられがちではあるものの、これを真正面から叩きつけられたときの破壊力はやはりすさまじいというほかない。王道が王道として定着したのにはそれだけの理由があるのだ、ということを改めて思い出させてくれる一節である。
原田波人「火の鳥」MUSIC VIDEO
原田波人(ハラダナミト)

2002年9月22日生まれ、和歌山県出身の歌手。祖父の影響で4歳から歌を歌い始め、数々のカラオケ大会に出場。2016年に出場したカラオケ番組「NHKのど自慢」和歌山大会において出場週のチャンピオンとなり、翌2017年の「NHKのど自慢」グランドチャンピオン大会に出場した。2019年3月に「日本クラウン 新人歌手オーディション」で準グランプリを獲得。2022年1月に「永遠の一秒~Stretched love~」でメジャーデビューを果たす。2024年には「日本作曲家協会音楽祭・2024」で奨励賞を受賞。2025年3月にシングル「火の鳥」をリリースした。
原田波人【OFFICIAL】 (@__sodboy) | X