映画ナタリー PowerPush - 「セッション」

金子ノブアキが熱弁するその狂気と魅力

第87回アカデミー賞助演男優賞を受賞したJ・K・シモンズの鬼気迫る演技や、一筋縄ではいかないストーリー展開が各国で話題を集めている「セッション」。ドラマーをフィーチャーした異色の音楽映画が、いよいよ日本で公開される。

映画ナタリーでは公開にあわせて、同作に心底惚れ込んだという金子ノブアキにインタビューを行った。ドラマー兼俳優として活躍する彼が語る「セッション」の魅力とは?

取材・文 / 中野明子 撮影 / 上飯坂一

フレッチャーが追いかけてくる

金子ノブアキ

──金子さんの場合、この映画をドラマーとして、俳優としての両方の視点から楽しめたのではないかと思います。まずはドラマーとして観た感想を教えていただけますか?

もう、あっと言う間に終わった感じでしたね。ただただ圧巻のひと言です。とにかくJ・K・シモンズが演じるフレッチャーを観ながら、自分がドラマーとして追い立てられてるような気がして焦りました。作品というかフレッチャーが自分を追いかけてくるんですよ。映画を観ている途中から「ドラム叩かなきゃ!」っていう気持ちになって、観終わったあとにスタジオに直行しましたから(笑)。疑似体験ですけど、音楽学校に入学した気になりましたね。

──スタジオに直行ってすごい影響力ですね(笑)。それほど強烈なインパクトがあったと。俳優として観た場合はどうでしたか?

「セッション」のワンシーン。

まず、シモンズさんは、とんでもないものを残したと思いましたね。途中ですりガラスの向こうから、主人公の演奏を聴くシーンがあるんだけど、それだけですごい圧倒されるんですよ。もちろん俳優の演技だけじゃなくて、話も面白かったです。映画に登場するしごきとか、高校時代にドラムをやっていた監督の実体験をもとにしてるらしくて。一体どんな体験したんだ!って思いました。極めて個人的な復讐を、映画で果たしているわけですよね。そういうエピソードも含めて面白いなと。

──ご自身はフレッチャーとニーマン、性格的にどちらに近いと思いますか?

うーん。神経質な性格を考えると、フレッチャーでしょうね。自分の中でイメージしてる音と、実際の音が違うと徹底的にあわせるし、自分のドラムセットがちょっとでも動かされると一発でわかるんです。

──フレッチャーに追い込まれて、狂気に走っていくニーマンの演技はどうでしたか?

ドラマーではない俳優さんが、数週間も訓練して臨んだっていうだけでもすごいですよね。冒頭の演奏シーンは、本物のドラマーかと思いましたもん。血を流しながらドラムを叩くシーンが出てきますけど、本当に血のにじむような練習をしたんでしょうね。

「セッション」のワンシーン。

──俳優として演じるとしたらフレッチャー、ニーマンのどちらを選びますか?

個人的にはフレッチャーを演じてみたいですけど、まだ僕の技量ではできないでしょうね。年齢を重ねないと出ないオーラがあるんですよ。挫折と再生を繰り返さないと出せないようなね。そういう迫力が認められて、アカデミー賞助演男優賞も獲れたんでしょうね。演技もそうですけど、ドラムも人生経験が必要なんですよ。体が早く動くから、若いから、いいドラムが叩けるとかそういう問題じゃないから。

──なるほど。ドラマーとしての金子さん、俳優としての金子さんを切り替えるスイッチのようなものはあるんでしょうか?

最近はないですね。2つが地続きになっている気がします。ドラムの場合はほかのプレイヤーの演奏を聴きながら、ライブの空気を作り出していく。俳優として仕事をしているときも、相手にあわせて演技を変えるし。音楽も演技もセッションなんですよね。あと性格なのか自分を押し出すというよりは、バランスを取ることが得意で。それが自分のスタイルになっている気がします。

「セッション」2015年4月17日全国公開
「セッション」

1985年生まれの若手監督デイミアン・チャゼルの長編2作目。名門音楽大学を舞台に、ドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)と、鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)の壮絶なセッションを描き出す。デイミアン・チャゼルは同作で第30回サンダンス映画祭と第40回ドーヴィル映画祭という2つの映画祭で観客賞と審査員大賞を受賞。またJ・K・シモンズは第87回アカデミー賞助演男優賞、第72回ゴールデングローブ賞助演男優賞などを受賞している。

ストーリー

名門音楽大学に入学したドラマーのニーマンは、鬼教師として名高いフレッチャーのスタジオバンドにスカウトされる。フレッチャーのバンドに入れば偉大な音楽家になるという夢は叶ったも同然と喜ぶニーマンだが、彼を待ち受けていたのは0.1秒のテンポのズレも許さない完璧な演奏を求めるフレッチャーの狂気じみたレッスンだった。フレッチャーの指導に不満を覚えながらも、次第にその才能を開花させていくニーマン。恋人のニコルを捨て、家族にも蔑まれながらもドラムに打ち込んでいくが、果たして彼はフレッチャーのしごきに耐えられるのか。ラストで繰り広げられる約10分にもおよぶ2人の“セッション”は圧巻。

スタッフ

監督・脚本:デイミアン・チャゼル
製作総指揮:ジェイソン・ライトマン
製作:ジェイソン・ブラム
音楽:ジャスティン・ハーウィッツ

キャスト

アンドリュー・ニーマン:マイルズ・テラー
フレッチャー:J・K・シモンズ
ニコル:メリッサ・ブノワ
ジム・ニーマン:ポール・ライザー
ライアン:オースティン・ストウェル
カール:ネイト・ラング

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金子ノブアキ(カネコノブアキ)

1981年生まれのドラマー、俳優。父はドラマーのジョニー吉長、母は歌手の金子マリ。弟のKenKenこと金子賢輔もベーシストという音楽一家に育つ。1994年にドラマ「天国に一番近いママ」で俳優としてデビューし、2000年に幼なじみのJESSEと組んだロックバンドRIZEのメンバーとしてシングル「カミナリ」でメジャーデビューを果たす。AA=のバンド活動も行い、2009年にはソロ活動も開始し、これまでに「オルカ」「Historia」という2枚のアルバムをリリースしている。2015年4月に配信シングル「The Sun」を発表。同月に初のソロライブ「nobuaki kaneko showcase 2015」を東京・WWWにて開催する。

ライブ情報

nobuaki kaneko showcase 2015
2015年4月23日(木)東京都 WWW
※チケット完売