コミックナタリー Power Push - 四位晴果 「よしとおさま!」

メガネ君の家にイケメンお庭番が押し掛け女房! BL脳の女性マンガ家が少年誌の壁に挑む新境地

ゲッサンで連載中の「よしとおさま!」は、メガネ男子高校生、善透の家にお庭番サビ丸が押し掛けてきて居候するという設定の学園コメディだ。コミックナタリーでは、少年マンガであるにもかかわらず、男子ばかりが登場し、ヒロインが登場しないというこの作品の特殊性に注目。作者の四位晴果に「よしとおさま!」誕生の経緯や、彼女のキャラクター論について語ってもらった。

取材・文/坂本恵 編集・撮影/唐木元

たわいもない会話を描きたいと思って

──「よしとおさま!」は日常生活のドタバタを描いていて、前回週刊少年サンデーで連載されていたファンタジー作品の「メテオド」とは全く雰囲気が違いますね。

「メテオド」は設定重視で不思議な世界観を描こうと思っていたんです。でもやってみて、私はなんて底が浅い人間だったんだ、と……。大風呂敷を広げておいて、打ち切りになってしまうなんて、読者にもキャラクターにも申し訳なかったし。自分はここまで描けなかったんだ、というのがすごくショックで、「メテオド」の連載終了以降、全く絵が描けなくってしまって……。落書きすらも。

──かなりツラい思いをされたんですね。

出来たばかりの単行本を手にし、愛しそうにページをめくる四位。

連載中も(アンケートが)ドンケツの新人が連載を休載するなんて、絶対ダメだと思ってて。ストーリー的には行き詰まっていたんですが、せめて原稿落とさないようにと寝ないで必死に描いていたら、全身にバーッとじんましんが出てきたり。

──週刊連載というのはやっぱりヘビーなものなんですね。

でも連載をしている方は、みんなそういう思いをしてるんだろうし。苦しんだ分だけ強くなれるとも思うので、あのツラさも大事だなと思いますね。

──そのドン底から、2作目となる「よしとおさま!」を連載することになった経緯を聞かせてください。

ゲッサンが創刊するという話を編集部の市原さんからお聞きして。まず最初に市原さんとお話したときに、「君がマンガを描くリビドーはなんだ」って聞かれて、うまく答えられなくて。いきなり「リビドー」なんて聞かれても、答えられないじゃないですか。

──「お前がマンガを描く理由は?」ってことだと思うんですが、ずいぶん核心に切り込む質問ですよね。

それで言葉に詰まってしまって、その場しのぎで「私BLが好きなんですよ」って言ったんですが、驚かれて。「しまった、間違えた! 市原さんが聞きたい答えじゃなかったな」と思ったんですけど、そしたら「あ、いいよ、BLでいいんだよ」って(笑)。もちろん私も少年誌でBLやろうとは思ってません。それでも市原さんが「いいよ」って肯定してくれたので、どんどん自分の好き勝手に、面白いと思った企画を思い付くまま出すことができたんです。突拍子もないような企画を出しても尊重してくれたので、私ももうちょっとがんばろうと思えた。だから「よしとおさま!」は私の中で、一種のリハビリというか。この先マンガを描き続けていけるのか、というのをこのマンガに賭けてる、というのはあります。

背景に描かれているのは、善透の生活するアパートとその大家さんだ。

──今改めて考えると、四位さんのマンガを描くリビドーは何ですか?

正直に話しますと……。教室で同級生が、友人同士が、男女関係なくたわいもない会話をしてるところ。その風景が楽しそうで。例えば、「昨日ビデオ録り忘れちゃったよ」「録ってるよ」「マジで、貸して」「100円」とか。「お前、それ俺の下敷きじゃん」「(パタパタと下敷きであおいで)あと15秒」とか(笑)。そういう会話の流れがパッと浮かんで、それをマンガにしたい。私、それが一番描きたいことというか。

──なるほど。会話が大事なんですね。

ええ。プロットも、私の場合は会話文で書いていくんです。サビ丸がボケる、善透がツッコむ、みたいな会話文がどんどん出てきて、そこから話を繋げていく。

──会話劇、というか。

そうですね。会話してると動作も繋がるから、自然と絵も浮かんできますし。何よりファンタジーのときみたいに無理してひねり出すのではなく、自然に自分の中からどんどん湧き上がってくるので、「ああ描きたいことを描くのが大事なんだな」って。

四位晴果『よしとおさま!』 / 2009年12月12日発売 / 460円(税込) / 小学館 / ゲッサン少年サンデーコミックス / ISBN: 978-4-09-122107-0

よしとおさま!

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あらすじ

天涯孤独な高校生・藤善透。父さんはいない。母さんは死んでしまった。でも強く元気に前向きに、めちゃめちゃハングリーに生きている!! なのに突然、何者かに命を狙われるハメに……!? そこに現れたのが、善透を守るべく遣わされた平成のお庭番、渋谷サビ丸!! 「善透さまは一人にあらず!」おしかけ迷惑お庭番コメディ!!

四位晴果(しいはるか)

12月7日生まれ。福岡県出身。2003年、「河児」で少年サンデー特別増刊Rでデビュー。ルーキーキングに輝く。その後、週刊少年サンデー2007年19号より「メテオド」を連載。同作は全4巻で発売中。2009年、ゲッサン創刊号より「よしとおさま!」連載開始。