「ワンパンマン」「モブサイコ100」とヒット作を生み出してきた稀代のマンガ家・ONE。そんなONEが、商業デビュー後初めて、紙媒体での連載を開始した。その名も「バーサス」。月刊少年シリウス(講談社)にて、あずま京太郎(作画)、bose(構成)とともに王道少年マンガを描き始めたのだ。
「バーサス」の舞台は、強大な敵によって蹂躙されている世界。魔王に対し勇者たちは果敢に挑むも敗戦していた。そんな中、主人公で右手を失った勇者・ハロゥの前に異世界の兵士たちが出現する。彼らの近代的装備であれば魔王軍を倒せる!と思ったのも束の間、彼らもまた異形の敵に襲われているのだった。その後も、さまざまな世界が入り乱れながらハロゥたちは強大な敵を倒すための策を練るのだが……。
コミックナタリーでは単行本第1巻の発売を記念して、ONE・あずま・boseの3氏にインタビューを実施。ONE原作の王道少年マンガはどのようにして生まれたのか、そして複数の世界が出現する物語を、どのようにネームと作画で描き分けていったのか。3人の創作術にも迫る鼎談をお楽しみあれ。
取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)
「普通に戦わない」という選択肢があることに気付いた
──「バーサス」を読ませていただきましたが、冒頭から引き込まれるシーンの連続でとても熱中しました。この作品はそもそも、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
ONE 「バーサス」の原型になるネタは、もともと温めていたものだったんです。それはシリウスの編集さんからお声がけいただく前から考えていたもので。近年で一大ジャンルを築いた、いわゆる異世界もの、それを僕が作るとしたら……と考えた時期があって、その答えの出し方はやはり正面から描くものじゃないほうがいいだろうと思い、違う角度から異世界というアイデアを丁寧に扱ってみようと考えました。その結果、いくつかの異世界そのものが融合して複数の頂点捕食者たちがなだれ込んできたらどうなるか、という発想に辿り着きました。
──それが「バーサス」の原型になったんですね。第1巻では「天敵同士を戦わせる」という方向に物語が進んでいきますが、これもその時点で決まっていたんですか?
ONE そうですね。まず、世界に混乱が生じたとき、人間がどう動くのか考えたんです。そこで主人公がチート能力を持っているとか、強大な力で戦うとかではない新しい方法を考えたとき、「普通には戦わない」という選択肢があることに気付いたんですよね。そこから物語を膨らませていきました。
──その時点ではONEさんが作画まで担当される可能性もあったんでしょうか。
ONE いや、広い世界観を描くことになるので、僕一人の力では成立させることができませんでした。原作という立場で、誰かに作画をお願いすることも考えてはいたんですが、無茶ぶりともいえるボリュームを投げて、膨大なデザインを用意してもらう必要が生じます。なので実現するのは難しいアイデアだと考えていたんですが、シリウスの編集さんからお声をかけていただいた際に、「こういうネタもありますよ」と雑談レベルで話したら気に入ってもらえたんです。
すべて、ONEさんの頭の中にある(あずま)
──シリウスでの連載について動き出したのはいつ頃だったんですか?
ONE たぶん2、3年くらい前ですね。ただ、その時点ではストーリーも何もなかったので、作画候補の方はまだ見つけないようにお願いしていました。まずは連載を具体的なものにするために、内容の掘り下げや設定の見直しを行っていきました。ただ、話が進んでいくにつれて、もしかしたら僕がネームを切ることも厳しいかもしれない、と思い始めたんです。
──そこでboseさんの参加が決まった?
ONE その頃ちょうどあずま先生の名前が編集部から提案されていたんです。作画候補の先生には声を掛けないでと言ったのに……。あずま先生がネームまで担当するということも可能だとは思ったんですが、それだとシナリオをもとに作画までというとてつもない作業量を強いることになります。それはあずま先生の作業量を考えると厳しい。そこで、僕の知り合いで、ネームがうまいことも知っていたboseさんにお声がけしました。
bose ONEさんとは以前から交流があったんですが、一緒に作品作りをしたことは一度もなかったんですよね。前々から一緒にマンガを作りたい気持ちがあったので、お誘いいただいたときはとてもうれしかったですし、「僕でよければ描きますよ」と即決しました。
──ONEさんからboseさんに渡る原作というのは、文字で書かれたいわゆるシナリオのようなものですよね。
bose そうですね。僕は以前にも文章原作をネームにする仕事をやったことがあったので、その点に関しては自然にお請けすることができました。それに、ONEさんの作品は昔から読んでいますし、自分が描きたいものと似ているところも感じていたんですよ。なので、大変さもなく、とてもやりやすいですね。
ONE 最初はプロットだけとか数行だけ書いて、boseさんに話を膨らませてもらおうと考えていたんです。でも、(物語の)最初はセリフまで書かないと伝わらないと思い、今のところは細かい台詞や演出部分まで、伝わりやすい形を目指して慎重に書いています。
──その後、あずまさんに正式に作画の依頼が行ったわけですね。あずまさんは最初にお話を伺った際、どのように感じられましたか?
あずま京太郎 編集さんと別件の打ち合わせをしていたときに、「こういう原作があるんですけど……」とお話を伺っていたんです。ざっとした内容だけ聞いたんですが、とても面白そうだなと感じました。そのときに興味を持って、すぐに「やります」と答えたことを覚えています。
ONE あずまさんの名前を編集さんから伺ったとき、とても上手な方ですから引く手あまたでしょうし、まだ設定が固まっていないときにお声がけするのは失礼ではないかと思っていたんですよ。でも、あずまさんはそこから1年間待ってくださって。
あずま 「バーサス」が動き出すまで、月刊少年シリウスでは「THE KING OF FIGHTERS 外伝 ―炎の起源― 真吾、タイムスリップ! 行っきまーす!」を連載していました。
──3人が最初に顔合わせをされた際には、「バーサス」の構想について話されたりしたのでしょうか。
ONE どういったゴールにするのかはお伝えしました。ただ、どこに分岐点があるのかは適時お教えしているので、おふたりは物語の結末まで知らないかもしれないです。
あずま そうですね。世界観設定について話し合った際の議事録はいただいているんですけど、設定はまとまっていないんです。すべて、ONEさんの頭の中にある。なので、毎回ネームをいただいてから驚くばかりです。
bose 僕も細かいところは逐一、ONEさんに質問していますね。
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キャラクターを好きになってもらうことの大切さ(ONE)