コミックナタリー PowerPush - 「紡木たく PICTURE BOOK」

紡木たく7年ぶりの新作は絵本 氣志團・綾小路翔と紐解く紡木作品の魅力

紡木たく作品は気持ちをリセットさせてくれる

──では紡木先生の作品の中で、お気に入りのキャラクターやシーンはあったりしますか。

文庫版「瞬きもせず」より。

そうですね……。「瞬きもせず」に、キヨシってアーティストが出てくるんです。そのライブにみんなで行くエピソードがあるんですけど、それが大好きですね。しんどいときに読むと救われる。高校生にとってライブに行くのって大変なことじゃないですか。

──お小遣いをやりくりしてチケットを取って。

滅多にない体験だから。ライブが終わった後に、みんなでニコニコして大騒ぎしてる場面なんかは心にくるものがある。自分が音楽で食っていくようになって、照らしあわせて見てしまう部分があるんですよ。初めて単独のホールツアーで全国を回った時、会館のステージから誰もいない客席を眺めながら「ついに俺もキヨシ側に来たんだ」と震えたあの瞬間を忘れません。あれからいろいろあって夢も現実も見てきました。もしかしたら僕らは、世界中の誰もに知られるバンドにはなれないかもしれないけど、それでもキヨシみたいに、「誰かに活力を与えられる仕事に携われてるんだ」って考えると、ちょっとしたことでへこんでる場合じゃないなって。あのシーンを読み直すと勇気が湧くんです。

──誰かのキヨシに。

そう。「誰かのキヨシになれるなら、こんなことぐらい」って。再起動できるというか、一旦フラットな状態にしてくれるから。

──気持ちをリセットさせてくれる。

地元の海に行ったみたいな感覚になる。まあなかなか田舎には帰れないけど、紡木たく作品を開けばいつでもそういう気持ちになれるんです。それは多分、今後も一生続くんじゃないかな。

紡木たく作品だけはリアルタイムで経験出来た

──では最後に「PICTURE BOOK」を読んでみての感想をうかがえますか。

ひとつだけ言えるのは、昭和50年代以前に生まれた俺たち世代の人間は、全員マストバイ!

──何も言わず買えと。

「瞬きもせず」4巻

まあそれは冗談ですけどね。「PICTURE BOOK」を読んでみて感じたんだけど、マーガレットコミックス版の「瞬きもせず」とか「ホットロード」の表紙ってホントにいいですよね。「PICTURE BOOK」の中でも、何枚か表紙のカットが使われてますけど、表紙イラストをクリアファイルのセットにして売っていただきたい。個人的に100セットは買いますから。「瞬きもせず」だったら全7巻だから、7枚セットで計700枚は僕だけで確実に捌けますので。

──(笑)。ちなみに「PICTURE BOOK」は「瞬きもせず」と「ホットロード」から紡木先生自らが絵とセリフを選り抜いているんですが、1カ所だけ新規のカットもあるんです。翔さんならおわかりになるかもしれないですけど……。

そうなんだ。ちょっと待って、探すから。えーっと……。

(5分経過)

──正解は後ほどお教えしますね(笑)。

ああ、悔しいな。でもじっくりと読んでみて改めて思ったけど、紡木先生がバリバリ新作を描いていらっしゃる時をリアルタイムで経験できたのはホントに幸せでしたね。僕はほとんどのことに乗り遅れた世代なんです。バブルの恩恵を受けたわけでもないし、CDが一番売れた時代にも間に合わなかったから。ただ紡木先生の作品には自分が多感な時期にギリギリリアルタイムで飛び乗れた。

──ちょうど「瞬きもせず」連載終了後くらいから、ヤンキー文化みたいなものに対する価値観も変化してきましたよね。

僕らの1つ下くらいの世代から、標準服に、スニーカーを履くのが一番格好いいっていう子が増えてきて。ボンタンなんか履いてたら「どうしたのお前、番張ってんの?」ってバカにされちゃってたからね。だからこの世界観が、今の若い子たちにどう伝わるかは正直わからないけど、逆にその世代からのリアクションも楽しみですよね。

──むしろどう思うのか知りたいと。

「紡木たく PICTURE BOOK」より。

そう。でも紡木たく先生の作品って、一見マニアックに見えて、実は普遍的なんです。誰もが通った十代の光と影、誰もがあの頃体感した刹那がキラキラと散りばめてある。だから今改めて、いろいろな世代の方々に読んでもらいたいです。そして「綾小路翔と紡木たくを語り合える仲にならないか」と言いたい。実際、各界の紡木たくマニアを集めてトークライブとかやりたいですもん。「俺の考える3大名シーン」とか、「各作品ごとの名セリフ」って。

──これをきっかけに。

やってみたいことたくさんありますよね。僕が「紡木たく」を感じるアーティストさんたちを集めてコンピレーションアルバムも作りたいし、個人的に「瞬きもせず」の聖地巡礼もしたい。ああ、なんか話していたら紡木たく愛がふつふつと沸き上がってきました。さっきはマストバイなんて言ったけど、この「PICTURE BOOK」も刷られた分僕が全部買って、独り占めして楽しみたくなってきた(笑)。

紡木たく(ツムギタク)

1964年生まれ、神奈川県横浜市出身。1982年、別冊マーガレット(集英社)に掲載された「待ち人」でマンガ家デビューを果たした。当時弱冠17歳。1986年から別冊マーガレットで連載した「ホットロード」が大ヒット。長らくマンガ家としての活動が見られなかったが、2007年に描き下ろしの新作単行本「マイ ガーデナー」を発表した。そのほかの代表作に「瞬きもせず」など。2014年8月16日には「ホットロード」を原作とした実写映画が公開される。

綾小路翔(アヤノコウジショウ)

孤高の“ヤンクロックバンド”・氣志團の團長。1997年、千葉・木更津にて氣志團を結成したのち、2001年に“メイジャーデビュー”を果たす。自ら企画の大型野外ロックフェス、全国アリーナツアー、ロックバンドとしては最速での東京ドームGIG成功などを経て、NHK紅白歌合戦に2年連続で出場。結成15周年を迎えた2012年に地元・千葉で大規模な野外イベント「氣志團万博2012」を行い大成功を収めた。2014年9月には「氣志團万博2014 ~房総大パニック!超激突!!~ Presented by シミズオクト」を開催する。