コミックナタリー PowerPush - 村生ミオ「終のすみか」
「いつもキャッチャーのつもりで描いてる」孤高の恋愛マンガ職人がWEB初登場
マンガの感性というのは、つまるところ省略の仕方にある
──伺っていて、「見開きを必ず使う」とか「ギャグ封印」とか、作品ごとにルールを設定されているのが興味深いと思ったのですが。
マンガって、ルールというか法律みたいなものがその作品らしさを作っていくと思うんです。そういう法律の中で面白く描くみたいなことを考えるのが面白いんで。ルールがないと同じになっちゃうし。法律が変われば別の作品になる。
──その辺りに何か長いキャリアをサバイブしてこられた秘訣があるようにも聞こえます。ほかにマンガの描き方として、意識されていることはありますか?
省略の仕方を変えることでしょうか。僕はマンガの感性というのは、つまるところ省略だと思ってるんです。
──もう少し詳しく教えて下さい。
あるシーンが1から10まであったとき……、例えば寝坊したOLが慌てて家を出ていくシーンを描くとして、1コマ目で目覚まし時計を見せて、2コマ目に慌てて着替えてるカットがきて、3コマ目で家を飛び出す、とするのか、どこを描くかは無数のチョイスがありますよね。パンをくわえて上着を着ながら走る1コマのみで表現してもいい。
──どこを切り取りどこを捨てるかというのが個性を作るのだと。
ええ。慣れっこになると、手癖になっちゃうんで敢えて変えるというか。それは同じようなシーンを描くとわかるんですよね。「またこれやっちゃったな」「またこのコマの次にこのコマ描いちゃったな」って。だからそれを敢えて外すというか。そうすると受けるイメージが違いますよね。どこを省略するかはその都度、作品ごとに変えて工夫していくんです。
──そこは研究というか、別の省略を開発していこうと。
それをやらないと、持たない気がしますね。もちろんそれを無意識でやれる人と意識的にちゃんとやる人と、いろいろいるとは思うんですけど。僕はちゃんと意識してやらないと、できないと思うんで。
どっちを選んでも地獄、という展開がいちばん好き
──省略の仕方を変える一方で、村生さんの中には変化しないものもあると思うのですが、それはなんでしょう。
やっぱりいちばん心がけてるのは緊張感なんですよ。見開きも新しい手法もそのためのものなんで。常に張りつめてる感じっていうのは意識してやってます。それは(ページを)めくる力を強くするというか。めくりたいと思わせるにはサスペンスです。サスペンスを作りたい。サスペンスものって話じゃないですよ。
──コメディものでも、何かしらの緊張感が。
ええ。もっと理想を言うと、奇数ページにサスペンスがあって、偶数ページに答えがあるといい(笑)。そしてサスペンスをもたらすのは選択なんですよね。
──選択を迫られて、決断するという流れにサスペンスがある。
それも、天国と地獄と選ぶっていうんじゃ面白くないんですよ。誰だって天国を選ぶから。どっちを選んでも辛いっていうのがいちばん面白い。どっちを選んでも地獄、という展開がいちばん好きです。もちろん最終的には救われるところまで、持っていきたいんだけど。
──では「終のすみか」の主人公も、いまは地獄のような日々ですけど(笑)。
そうですね、傷を抱えた主人公ですが、同じように傷を抱えた女性と巡り会って互いに救われていくうち、自分にとっての幸せと言える何かに辿り着くお話を描くつもりです。
──そうすると、マドンナは変わっていくわけですね。
ええ、そのつもりです。ひとつ種明かしをすると、いつか登場する「すみか」という女性を、彼にとってのゴールにしようと思っています。
──なるほど、まさに文字通り「終のすみか」になるんですね。同じ男としては、主人公がいつの日か女性を信用できるようになったらいいなと思っています。
たぶん、それが彼の幸せ探しの旅のゴールになるんでしょうね。まあでも、自分より不幸な男がいて安心できるなー、くらいでいいので(笑)、楽しんで読んでいただければと。
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作品紹介
田島修一は大手商社に勤める42歳。仕事もプライベートも充実、全てが順風満帆な人生を送っていた。が、ある日突然、妻から離婚を切り出されて彼の生活は一変する。
そして、失意の田島になぜか好意を示す社のマドンナ・神崎由佳。バツイチ中年と若い女の奇妙な関係は、やがて波乱を呼び…!?
大ヒット作「SとM」の村生ミオが描く、ショッキング・ラブ・ストーリー!!
村生ミオ(むらおみお)
1952年4月28日生まれ、徳島県徳島市出身。1972年、別冊少年ジャンプ(集英社)より「かっぱラブラブ大作戦」でデビュー。代表作に「胸騒ぎの放課後」「微熱 MY LOVE」「サークルゲーム」「バージン・ママ」「WOMEN」「SとM」など多数。現在はプレイコミック(秋田書店)にて「1夫5妻 ~僕がモテる理由~」、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「終のすみか」 、週刊実話(日本ジャーナル出版)にて「すえぜん」を連載中。