コミックナタリー Power Push - 「日曜日の沈黙」
「ジャイキリ」の綱本将也が手がける競馬×SFのスペースオペラ
マンガ原作を書くことは、馬券を買っている感覚に似ている
──マンガ原作者としての綱本先生は、普段どんなペースでお仕事をされているのでしょうか?
僕は基本的に、締め切りの日にしか書かないですね。(同席した担当編集者をチラ見しながら)あ、でもそういう言い方をすると、ちょっと仕事をしていないふうに見られるんで困るんですけど……。というか、あれです。3日前ぐらいから、頭の中では準備しているんです。じゃないと締め切りの日になったとき、何も書けないですから。数日前から準備している間、頭の中にヒントのようなものを集めているんだと思います、たぶん。頭の中を耕しておくというか。そういうのも原作を書き続けながら、ようやくリズムがわかってきたという感じですね。
──事前の打ち合わせで、ある程度のストーリーは決まっているのですか?
事前の打ち合わせは、ほぼしないですね。というのも、僕はたとえ打ち合わせで「そうしまーす」と決めても、いざ書くときになって「こっちのほうが面白いな」と勝手に変えちゃうタイプなので。あんまり必要がないっていうか。
──自分の感覚を優先させると?
そうですね。打ち合わせしたことをそのまま文字にするのって、何となく作業になっちゃうんですよ。ハネる気がしない。一発勝負の空気感じゃないですけど、打ち合わせなしで書いて、ダメだったらその日のうちに書き直すぐらいの覚悟でやったほうが、いい結果に繋がると思うんです。
──緊張感が違いますからね。
おそらく馬券を買っている感覚に近いんですよ。僕は毎回、原稿を送ってから担当編集者の連絡が来るまで、すごくドキドキしていますから。競馬を予想して結果を待つときのような、高揚感を毎回楽しんでいるところはあります。もし打ち合わせしたままの内容を送っていたら、担当編集者のほうも「うん、知ってた」で終わっちゃいますから。
──根っからの勝負師ですね(笑)。原稿を書き上げた後は、どのように作業が進むのでしょうか?
僕が書いた原稿を編集部へ送ると、だいたい1時間ぐらいで返事の電話があって、担当編集者に感想を教えてもらいます。で、ストーリーの長い短いがあれば微調整。あとは、「読者には明かしてないけど、後々こうなりますよ」という情報を伝えて、僕らの打ち合わせは終了。その原稿を山根くんに送ると、ほぼ翌日にはネームを描いてくれるので、「いいですね」となったら原稿に取りかかってもらうと。最近は、ほとんど直すことないですね。全体にかなり進行の速いコンビだと思います。
──お互いの意図が伝わらないとか、意見が衝突するといったことは?
始めの頃はもちろん、山根くんに僕の言っていることを理解してもらえなかったり、僕のほうが彼の描いてきたネームに「いや、こうじゃないんだけど」と言うことはありましたけど、今はもうほとんどないですね。それと最近ようやくわかってきたんですけど、原作者っていうのは、自分の書いた通りに絵を描かれても面白くないんですよ。今は山根くんが「お、想像していなかった」というプラスアルファの絵を入れてきてくれるので、作品がよりいいものになっていると感じます。
──ではこれまで競馬という文化に触れてこなかった読者にメッセージをお願いします。
僕は地元が浅草で、場外馬券売り場のウインズが近くにあったので、割と昔から競馬に触れる機会が多かったんです。血統辞典の内容をすべて頭に入れていたぐらいで。競馬は血統という繋がりのあるスポーツで、あるときに目撃した馬の血筋がそのまま続いていくのが魅力だと思います。昔、僕が見ていた思い出深い馬たちも、現在はその孫や曾孫が走っていたりします。もし「日曜日の沈黙」や「スピーディワンダー」を面白いと思ってもらえたら、本物の競馬も見てみてください。すぐに好きな馬ができるはずです。
原作:綱本将也 漫画:山根章裕「日曜日の沈黙」
場末のbarで昼間っから飲んだくれて競馬に勤しむ3人組。実は彼らの当たり馬券は、時空を超えて、馬のような謎の生物に襲われているもうひとつの地球を救っていた。当の3人はそんなこととはつゆ知らず、今日も無茶な馬券の買い方を……?
Umabi
JRAが運営する競馬ビギナーでも楽しめるエンタテインメントサイト。競馬初心者に向けたハウツーや、競馬場の紹介に加え、綱本将也原作による山根章裕「日曜日の沈黙」など競馬を題材にしたWeb限定のオリジナルマンガやドラマなども配信。サイトのテーマソング「#RUN」は小室哲哉、tofubeats、神田沙也加によるユニット・ TK feat. TKが手がける。
怪我から復活したスーパーキングオー。その復帰レースはそうそうたるライバルが出走する有馬記念!! 果たしてレースの結果は……!?
綱本将也(ツナモトマサヤ)
1973年生まれ。東京都出身。2002年に吉原基貴作画の「U-31」で、モーニング(講談社)にて原作者としてデビュー。原作・原案を担当するツジトモ「GIANT KILLING」は2010年にTVアニメ化も果たした。このほかヤングチャンピオン(秋田書店)にて、山根章裕とタッグを組み「スピーディワンダー」を連載中。