アニメ「SSSS.GRIDMAN」特集 監督・雨宮哲(TRIGGER)、脚本・長谷川圭一インタビュー|特撮×アニメの新たな挑戦! 作品に込めた「グリッドマン」へのアンサーと、90年代ロボアニメへのラブレター

長谷川さんの脚本に、絵コンテでアンサーを返す面白さ

──長谷川さんは特撮作品をたくさん手がけられてきましたが、「SSSS.GRIDMAN」の脚本を書くうえで、アニメファンへのアプローチとして気を使った部分はありますか?

長谷川 そもそも深夜アニメってそれほどやったことがなかったんです。これまでやってきたのも「墓場鬼太郎」とか「神撃のバハムート GENESIS」とか、あんまり深夜アニメ的じゃないというか。なので今回関わることになって、例えば“子供の問題は子供だけで解決する”、“大人がいっぱい出てきてしまうと視聴者が離れてしまう”とか、今の深夜アニメの特徴をいろいろ学びました。今のアニメは視聴者と作り手の間の共犯関係が強いんだなって感じましたね。

左から長谷川圭一、雨宮哲。

──これまでのお仕事とは勝手が違う部分もあったんですね。

長谷川 でも、あまり苦労したという感じはなくて。ある程度監督のほうで最終回までの筋道ができていたので、割と書きやすかったですね。

雨宮 ありがとうございます。僕も長谷川さんがスケジュールを守ってくれるので、苦労したところがない(笑)。

──ネタバレにならない程度に、ストーリー上の見どころを挙げるとすれば?

主人公は高校1年生の響裕太。彼が記憶喪失で目覚めるところから物語は始まる。

長谷川 主人公の裕太が記憶喪失なので、話が進むにつれてだんだん世界の真実が見えてくる、そこが視聴者とシンクロする部分になるんじゃないかな。最後の最後にすべての構造がわかるまでが、裕太と同じ目線で追いかけられるようになっている。

雨宮 ネタバレを知らずに裕太と一緒にいろいろ考えながらリアルタイムで観るのが、一番楽しめると思います。

──それは視聴者の共感を狙って、あえて主人公を記憶喪失にしたんですか?

長谷川 いえ、全然そんなことはないです(笑)。

雨宮 僕は普通の少年を主人公にするつもりだったんですけど、長谷川さんから「それじゃ主人公として何か足りない」って話をされて。僕は特撮の「電脳警察サイバーコップ」という作品がすごく好きなんですけど、「サイバーコップ」の主人公が記憶喪失だから、「じゃあ記憶喪失だ!」って(笑)。

──それが採用されたんですね(笑)。ほかにもおふたりがやり取りした中で、印象に残っていることはありますか?

裕太のクラスメイト、宝多六花。

雨宮 作中に「グリッドマン同盟」って言葉が出てくるんですけど、それはいきなり長谷川さんが脚本に入れてきた言葉で「なんだこれ!」ってなりました(笑)。「インパクトありすぎるぞ、一旦考えよう」って。

──裕太たちのチーム名的なものですよね。あれは長谷川さんが考えた言葉だったと。

長谷川 そうですね。バラバラだった人間たちがひとつのところに集まるときの、象徴的な言葉があったほうがいいなと思って。

雨宮 「同盟」っていう響きが、それこそインターネットが普及しだした時代にファン同士でつながるときに使われていた言葉で、ちょっと懐かしいですよね。そうやって長谷川さんが脚本の中にポンと置いた言葉とかシーンに対して、「これは一体なんだろう」と考えて、絵コンテでアンサーを返す、というのが面白くて。例えばある話数で、主人公が川を見ているシーンがあるんですね。一見ストーリーに関係なさそうなシーンで、普通はカットしがちなんですけど、「いや待て」と。「これはなんかあるはずだ」って。

──直接「これはどういう意味なんですか」とは聞かないんですか?

雨宮 ストーリーに関わるところだったら聞きますけど……答えがあってもなくても正直どっちでもよくて。川も最初は全然ピンとこなかったんですけど(笑)、僕は橋のモチーフがすごく好きなんですよ。川のシーンの意味について考えているうちに、川が何かを分断しているんだったら、橋は分断してるものを理解するっていう相互の歩み寄りを表してるんじゃないか……とか、そうやって自分がなんとなく好きだったものに自分で理屈がついたり、納得したりできるのが面白かったです。

メカ作画はアニメーター・大張正己さんへのラブレター

──怪獣との戦闘シーンは「SSSS.GRIDMAN」の大きな見どころだと思いますが、特撮に長く携わってきた長谷川さんから見て、戦闘シーンや怪獣の描写はいかがですか?

グリッドマンと怪獣の戦闘シーン。

長谷川 アニメって、怪獣ものとホラーものはあまり相性がよくないのかなって僕は思い込んでいて。リアルにしようとするほど、生々しさから離れていくというか。だから今回も怪獣がどうなるか心配だったんですが、素晴らしい出来で。板野一郎さんが、想像を遥かに超えるものを作ってくださったんです。

雨宮 怪獣との戦闘シーンはグラフィニカさんの3DCGのチームに作ってもらってるんですけど、そのヘッドが板野さんですね。

──板野一郎さんは「機動戦士ガンダム」や「マクロス」シリーズでおなじみのアニメーターですが、「ウルトラマンネクサス」ではCGIモーションディレクターをやっていらっしゃいますね。

「SSSS.GRIDMAN」PV第3弾より。

長谷川 アニメなので怪獣の中に人間が入る必要はないんですが、板野さんは怪獣の重量感や動きを、あくまで「人間が入ってますよ」っていう表現にしているんです。グリッドマンが怪獣を投げるときの動きについても、板野さんが「これは投げるとき(中に)人が入ってますから」って熱っぽく話していて(笑)。

雨宮 グリッドマンが怪獣を担いで投げたときに、怪獣の尻尾なんかがちょっと遅れてついてくるのとかも、重量のあるものがひっくり返ってる感じがすごく出てますよね。

長谷川 そこも「SSSS.GRIDMAN」のチャレンジングなところのひとつですね。音に関しても、鳴き声や効果音も含めてすごく“特撮してる”なと。「シン・ゴジラ」くらい街が勢いよく破壊されて、車が吹っ飛んでいきますから。そのくらいすごいことが起きてると思います。

──メカの作画についてはいかがですか? 監督自身も多くの作品でメカ作画を担当されていますが。

雨宮 今回は僕がメカを描かないほうがいいなと思っていて。「日本アニメ(ーター)見本市」で描いた「電光超人グリッドマン boys invent great hero」のメカは、自分ではちょっと違和感があったんです。自分が描きたくて描いてはいるんですけど、できあがってみたら自分の範疇でしかないものになってしまっていて。

──「電光超人グリッドマン boys invent great hero」も、作中に登場するメカ・合体雷神ゴッドゼノンとグリッドマンの合体シーンなど、特撮では難しかった躍動感のある動きがアニメーションで表現されていて、満足いかないような作画には見えませんでした。具体的にどんな部分に違和感があったんですか?

雨宮哲

雨宮 パッと見わからないと思うんですけど、僕がやるとパロディっぽくなっちゃうんですよ。それは僕のアニメーターとしての癖で、気を付けていてもそうなってしまうんですよね。だからオマージュとかパロディじゃない、ちゃんとしたものにしたくて、今回は作画チーフを牟田口裕基さんにお願いしています。「電光超人グリッドマン」の時代のロボットアクションへのラブレターじゃないですけど、今あえてそういう表現をやりたいというのがあって。デザイン面もそうなんですけど、もうちょっと歌舞伎っぽいほうがいいなって。

──“歌舞伎っぽいロボットアクション”というのは?

雨宮 動くところと動かないところがはっきりしているというか、メリハリがついてるって言ったほうがいいかもしれないですね。アニメーターの大張正己さんという方が、ロボット作画とかメカアクション作画において、エポック的な存在だったんですよ。

──大張さんは勇者シリーズや、「機甲戦記ドラグナー」などを手がけていて、いわゆる“勇者パース”など遠近法を効かせた大胆な構図で有名な方ですね。今は「ガンダムビルドダイバーズ」などに関わっていらっしゃる。

雨宮 はい。大張さんがやっていたような作画スタイルに憧れていて、それを今、堂々とお届けしたいんです。加えて、かつて大張さんのファンだった人たちが今は制作現場に入っているという事実や、それ以降の世代にも大張さんのような絵を描いてもらいたいという思い、そういうものが全部まとめて大張さんに届くといいなとも思っています。

──大張さんへのラブレター的な面もあると。

雨宮 そうですね。大きく書いといてください(笑)。

アニメ「SSSS.GRIDMAN」
放送情報

TOKYO MX:2018年10月6日(土)より、毎週土曜25:00~

MBS:2018年10月6日(土)より、毎週土曜26:08~

BS11:2018年10月6日(土)より、毎週土曜25:00~

WOWOW:2018年10月6日(土)より、毎週土曜24:00~

ストーリー

舞台は2018年の日本。ある日、目覚めると記憶喪失になっていた高校1年生の響裕太は、古いパソコンの画面に映る“ハイパーエージェント・グリッドマン”と出会う。グリッドマンに「使命を果たせ」と語りかけられた裕太は、その言葉の意味と失った記憶を探し始める。戸惑いつつもクラスメイトの内海将や宝多六花、新城アカネらに助けられながら日々を送る裕太。しかし平穏に見えた日々は、突如現れた謎の怪獣によって踏みつぶされる。

スタッフ

原作:グリッドマン

監督:雨宮哲

脚本:長谷川圭一

グリッドマンデザイン:後藤正行(円谷プロ)

キャラクターデザイン:坂本勝

アレクシスデザイン:コヤマシゲト

怪獣デザイン:西川伸司、丸山浩、板野一郎、山口修、前田真宏

アシストウェポンデザイン:野中剛

ジャンクデザイン:三宮昌太

ヒロイック作画チーフ:牟田口裕基

3DCG監督:宮風慎一

3DCG制作:グラフィニカ

美術監督:渡辺幸浩(アトリエPlatz)

色彩設計:武田仁基

撮影監督:山本弥芳(グラフィニカ)

編集:吉武将人(グラフィニカ)

音楽:鷺巣詩郎

音楽制作:ポニーキャニオン

音響監督:亀山俊樹

音響効果:森川永子

ラインプロデューサー:竹内雅人

アニメーションプロデューサー:舛本和也

アニメーション制作:TRIGGER

キャスト

響裕太:広瀬裕也

グリッドマン:緑川光

内海将:斉藤壮馬

宝多六花:宮本侑芽

新条アカネ:上田麗奈

サムライ・キャリバー:高橋良輔

マックス:小西克幸

ボラ―:悠木碧

ヴィット:松風雅也

謎の少年:鈴村健一

アレクシス・ケリヴ:稲田徹

六花ママ:新谷真弓

なみこ:三森すずこ

はっす:鬼頭明里

雨宮哲(アメミヤアキラ)
アニメーター、アニメーション監督。アニメーターとして「天元突破グレンラガン」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」に参加後、「宇宙パトロールルル子」で第2監督を務める。監督作として「インフェルノコップ」「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」「電光超人グリッドマン boys invent great hero」がある。
長谷川圭一(ハセガワケイイチ)
脚本家。1997年「ウルトラマンティガ」第22話で脚本家デビューし、その後「ウルトラマンダイナ」「ウルトラマンネクサス」「ウルトラマンギンガ」など、多くの円谷プロダクション作品の脚本を担当する。TVアニメ作品では「デビルマンレディー」「ロックマンエグゼ」「墓場鬼太郎」「神撃のバハムート GENESIS」などに参加している。

2020年2月14日更新