「魔術士オーフェンはぐれ旅」特集 森久保祥太郎×大久保瑠美×小林裕介 座談会|「オーフェン」でオタクの道を歩み始めた2人が、先輩・森久保を前に魅力を語りつくす

秋田禎信のライトノベル「魔術士オーフェン」を原作としたTVアニメが、2020年1月に放送開始する。原作小説第1巻が刊行されたのは1994年。25周年という節目に発表された今回のTVアニメでは、オーフェンの過去を描く「プレ編」を交えながら、原作準拠のストーリーが展開される。

TVアニメ化を記念し、コミックナタリーと音楽ナタリーでは、ジャンルをまたいだ連載特集を展開。第1回では、1998年よりオンエアされたTVアニメと同じくオーフェンを演じる森久保祥太郎、今回のTVアニメから「オーフェン」に参加する大久保瑠美、小林裕介による座談会をセッティングし、子供時代に「オーフェン」に触れ、「中二心をくすぐられた」「オタクとして覚醒した」という小林、大久保のエピソードや、20年をともにした「オーフェン」という作品への森久保の思いもお届けする。

取材・文 / 前田久 撮影 / 星野耕作

「オーフェン」が初めてのオタ活作品(大久保)

──コミックナタリーでは2018年の年末にも、「魔術士オーフェンはぐれ旅」のAudibleについて、森久保さんのインタビュー記事を掲載しています(参照:「魔術士オーフェン」特集 森久保祥太郎インタビュー)。あれは新アニメの発表直後ということもあり、とても反響がありました。

左から小林裕介、森久保祥太郎、大久保瑠美。

森久保祥太郎 そうなんですか? うれしいですね。

──特に昔からの原作読者で、以前のアニメも楽しまれていた方たちの声は大きかったです。小林さんと大久保さんは、まさにその世代ですよね。やはり作品にまつわる思い出はありますか?

大久保瑠美 その話を始めると、私たち2人はすごく長くなりますよ。

森久保 特に瑠美ちゃんはすごいことになるね(笑)。

小林裕介 だから先に僕から話します(笑)。僕は中学生のときにラジオを聴いていて、CMを耳にしたのが最初の出会いですね。森久保さんの「我は放つ光の白刃!」の一言だけで、すっごい興味を持ったんです。で、ちょうどそのとき、ケーブルテレビで以前のTVアニメの再放送をやっていたので、観てみたら、もう……とにかくカッコいい魔術の嵐で、たまらないわけですよ。

小林裕介

森久保 あっはっは(笑)。

小林 昔から、必殺技の大好きな子だったので(笑)。「中二心をくすぐられる」とはまさにあのことで、ストーリーももちろん魅力的ではあったんですけど、魔術を使う瞬間を見たいがためにアニメを観ていた。僕の中では、そういうジャンルのアニメでしたね。ちなみに原作小説までは手を出さなかったんですけど、考えてみればライトノベル原作のTVアニメを観たのは、「オーフェン」が初めてだったかもしれないですね。

森久保 当時はまだ作品数も少なかったしね。大きなものだと、「スレイヤーズ」があって、次が「オーフェン」……みたいな感じじゃないかな。どちらもライトノベル原作のTVアニメのはしりで、ラジオをやったり、今みたいなメディアミックス展開をいろいろと打ち出していく作品としてもかなり初期の例だった。僕としてもとにかく無我夢中で、いろいろなことをやりました。

大久保 では私の話に……なるべくコンパクトにしますね。

──掲載はWebですし、文字数はお気になさらず。

森久保 僕も聞きたいよ。

大久保 そうですか? じゃあ……私はリアルタイムで作品に触れていたんです。9歳ぐらいのとき、夕方帯に「オーフェン」のアニメが放映されているのを、最初はたまたま観たんですよね。そこで「すごい! 魔術がカッコいい!」みたいな感じでハマったんですけど、そのときはまだ、オタクとして覚醒していなかったんです。私、「オーフェン」が初めてのオタ活作品なんですよ。

TVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」より。

森久保 そこで目覚めたんだ(笑)。

大久保 そうなんです。初めて自分の意志で、アニメの主題歌が入ったCDを買って、付録のシールが欲しくてアニメディアとか(月刊)ニュータイプとかのアニメ雑誌を初めて買って、原作小説も買いました。ただ、一生懸命読んだんですけど、9歳にはちょっと内容が難しくて、わからなかったんですよね……。

森久保 だよね。9歳だと、あの内容はちょっと早いかも。

大久保 でも、やっぱり欲しいので、集めるだけ集めておいて、中学生ぐらいになってから読んで、高校生になっても、また読み返して……と、成長するにつれて繰り返し読みながら理解していく感じだったんです。そうやっている間にも、お年玉を使ったり、親に誕生日プレゼントでお願いしたりして、DVDを全巻揃えたりもしていました。今でも家に、昔のDVDが全部あるんですよ。

森久保 へえー!

大久保瑠美

大久保 自分の意思でそういうグッズを集め始めたのは、本当に「オーフェン」がきっかけだったんです。だからもう、今回のTVシリーズのオーディションを受けるときは緊張しすぎて……「こんなのクリーオウじゃない!」って、自分で思っちゃってました。自分の中にキャラクターのイメージが強くありすぎて、「これは違う!」と迷ってしまったんです。

──小林さんは魔術の必殺技的なカッコよさに惹かれていたわけですけど、大久保さんのオタク心を覚醒させたのはどんな点だったんですか?

大久保 何より、オーフェンというキャラクターの魅力ですかね。9歳の子が見るような、当時の少年もの・少女もののアニメにはあまりいないタイプの主人公だったんです。設定年齢も20歳で、当時の私からするとけっこうな大人ですし。いわゆる「未熟な少年がまわりに支えられてがんばる」という作品じゃなくて、オーフェンが主軸にいて、物語を引っ張っていくところが魅力だと感じていました。観ているとなんだか「私もオーフェンについていけば大丈夫なんだ」みたいな気持ちになれたんです。もちろん、魔術のカッコよさもありましたけどね。「この魔術のときはこの呪文!」みたいな、魔術の分析をするのも大好きでした(笑)。

森久保 そんなふうに観ていた作品に出ちゃうんだもんなあ。

──すごいことですよね。森久保さんとしては、そうした以前から作品のファンだったというおふたりとこうして共演されるのは、どんなお気持ちですか?

森久保祥太郎

森久保 そもそも僕自身が、20年以上経ってからまた同じオーフェンという役を、TVアニメという形で演じられるとは思っていなかったんです。そこがまず不思議な気持ちなんですが、さらにあの時期、アフレコ現場で僕は一番キャリアが浅かったんです。年齢的には僕よりも若い方や、同世代の方もいたけど、(椎名)へきるちゃんや飯塚雅弓ちゃんだから、どちらもすでに活躍されていたわけですよ。そんなわけで「オーフェン」の現場では新人扱いだったのが、今度は逆にひっくり返って、キャリアがかなり上のほうになっちゃって(笑)。

──20年以上というのは、そういう逆転が起こる時間ですよね。

森久保 でも、長く仕事を続けていると、作品がこういう形で生き続けることもあるというのを知ることができたのはうれしいですし、それ以上に、それを見ていた世代の役者さんたちと演じることで、また作品に新しい命が吹き込まれることにも喜びを感じています。それもこれも「オーフェン」という作品が持つ、作品力の高さですよね。感激します。何十年も原作ファンの方たちを惹きつけ続ける力があってこその、今回のアニメ化です。以前からのファンの皆さんの気持ちをつなぎとめながら、また新しい世代の人が見ても面白いものを送り出せることって、なかなかないですから。

誰もいないよね、常識人……(森久保)

──ではそんな流れで、今回初めて「オーフェン」の世界に触れる方々に向けて、小林さん、大久保さんに、ご自分の演じる役について語っていただけたらと思うのですが。

マジク・リン(CV:小林裕介)。魔術士に憧れており、弟子入りを志願してオーフェンの旅に同行する。

小林 マジクは正直かなり平凡な男の子です。普通に宿屋で働いていて、そこにたまたまオーフェンが来て、ちょっとした魔術の才能を見出されたことから、旅の一行に混ざる。本当に年齢相応の少年らしい、かわいらしいところのあるキャラクターだと僕は思っています。……ま、かといって、常識人なのかというと実はそうでもないところが、この作品の持ち味なんですが……。

森久保 (小声で)誰もいないよね、常識人……。

小林 い、いや、オーフェンはかなり常識人……でもないですかね(笑)。ま、ぶっちぎりでクリーオウがヤバいとは思いますけど。

大久保 確かにね。ぶっとんでるね。

小林 マジクとクリーオウはどっちもトラブルメーカーだけど、でもマジクは巻き込まれる。クリーオウは自分からトラブルを持ってくる。

大久保 クリーオウはめちゃくちゃじゃじゃ馬だからね。わが道を行くタイプで、思い込んだら「こう!」というところが強くて、その結果困ったことになっても、「オーフェン、なんとかして!」っていう……。人によっては、「こいつ、大丈夫か?」と思われるようなところもあるのかなって(笑)。

小林 ホントだよ(笑)。

クリーオウ・エバーラスティン(CV:大久保瑠美)。貴族・エバーラスティン家のお嬢様。外の世界へ憧れ、マジクとともにオーフェンの旅へ強引に同行する。

大久保 でもでも、優しいところもあるし。常にオーフェンのことは心配していたりするし。恋愛感情とはまだ少し違うかもですけど、オーフェンの相棒になりたい、認めてほしいっていう、年相応の女の子らしいところもあったりするし。なかなか見え難い部分ではあるけど(笑)。でも、私としてはクリーオウのちょっとしたところをかわいいと思うというか、オーフェンのことを追いかけているクリーオウを見るのが好きなんですよ。だから今回のアニメでも、自分で演じながら、たまらないときがありますね。「オーフェーン!」と名前を呼ぶだけのセリフに、「助けてよー!」という気持ちが入っているところがもう……もう! かわいい!(笑)

──のび太くんの「ドラえもーん!」みたいな感じですね。

大久保 まとめると、クリーオウはとにかく、オーフェンについていきたい、オーフェンに一緒にいてほしいという一心で動いている子です。で、たまに旅に疲れたら、マジクにあたって発散する……みたいな。

小林 最低だ!(笑)

大久保 そんな、けっこう傍若無人なキャラクターですね。

──アニメを3話まで先行して拝見したんですが……思った以上にクリーオウのキャラが強烈でした。

大久保 実は、原作の秋田(禎信)先生とお食事に行ったとき、先生も「僕はどうしてこんなにクリーオウを乱暴に書いたんだろう?」とおっしゃっていて……。

森久保 言ってたね(笑)。

左から小林裕介、大久保瑠美、森久保祥太郎。

大久保 物語を動かすために、トラブルメーカーが必要だったからというのはあったみたいですけど、それにしても……と。

──マジクは対照的に、序盤はかなりモブっぽい。

小林 演じる僕もびっくりしましたよ。そして意外と中盤になっても、モブ感は消えてないかも。

森久保大久保 いやいやいや(笑)。

──魔術の才能はすごい子ですよね?

小林 でも気が付くと何かが起こっていて、大体、囚われの身になって、助けてもらうじゃないですか(笑)。まあ、だからこそシリーズの後半に行くにつれて、成長の度合いが感じられると思いますので、そこはひとつ楽しみにしてもらいたいところではあります。


2020年1月7日更新