コミックナタリー - [Power Push] 鈴菌カリオ「Sillyなコダマ!!」 スペシャルコンテンツ
恋したあの人は「人間になりたい河童」。IKKI最注目の暴走恋愛シュールギャグ!
担当宣言までは不安まみれ
——(取材マンガよりつづく)まあまあふたりとも落ち着いて。お互い見込んだパートナーじゃないですか!ほら、出会った頃を思い出してみましょうよ。えーと、ふたりが出会ったなれそめは……。
鈴菌カリオ(以下、鈴菌) 最初は持ち込みです。IKKIがまだ月刊化して間もない頃で、私でも入り込めるスキがあるかなーって。
豊田夢太郎(以下、豊田) ま、実際にスキがあったわけですけど(苦笑)。
——豊田さんから見た鈴菌さんの第一印象は?
豊田 身なりの汚い、不思議ちゃん。
鈴菌 たしかに小汚かったよ。古着着てて、髪も伸ばしっぱなしだったし。
豊田 で、持ち込んできた作品(「つきよ」/「乙女ウイルス」1巻収録)が、昆虫とか動物とか風景ばっか描いてある「いかにも美大生」なもので……。
鈴菌 ポエムですよポエム!(笑)とにかく最初の持ち込みのときの反応は、すこぶる悪かった。
豊田 アートな人って、何かちょっと怖いじゃないですか。だから腰が引けてたかも。
——なのに、豊田さんが担当になったんですよね。
鈴菌 それがなかなかはっきり「僕が担当します」って言ってくれないんで、すごい不安になりました。あげく「就職したほうがいい」とか「他誌に持っていったら」とか……。
——それでも原稿を渡してしまったんですか?
鈴菌 「新人賞に応募するなら原稿を預かりますが、どうします?」と聞かれて、断る勇気すらなかったので。しかも、それが最終候補に残ったのに全然連絡なくて、さらに不安な気持ちに。
豊田 単に連絡忘れてたんだよね(笑)。で、次の作品「知恵熱」も、はっきり担当宣言はしないまま読ませてもらって。それが新人賞を受賞したので、今度こそ正式に担当になりました。
——「知恵熱」を読んだときは、受賞すると思っていました?
豊田 (賞を)獲るとは確信してました。1本目とは真逆のギャグ作品だったんだけど、とにかくネタが面白かった。ただフキダシの位置がおかしいとか、大ゴマで見せるべきとか、ごく基本的な間違いだけは指摘しました。
鈴菌 それで言われた通りに直して持ってったら、褒められたんですよ。完成原稿をさらに直して持ってくる奴はあまりいない、って。でも、私はこの作品で受賞できるとは1ミリも思ってなかった。
豊田 や、あれは面白かったよ。だけど、受賞の次に持ってきたネームは……。
鈴菌 一瞬でボツ(笑)。
豊田 あのネーム見てすっごい不安になったんですよ。まったく理解できないもので、「あ、こいつヤバいかも」と。
——でも、そこで見放しはしなかった。
豊田 そうですね。その後、IKKIで新人さんを中心にエロをテーマにした別冊付録を作ることになったので、また打ち合わせして。ただその時、鈴菌さん、マンガの話そっちのけでずっとオナニーの話してた。
鈴菌 そうでしたっけ。そっか……それ聞かされるんだから大変ですね編集者って仕事も。まったく。
豊田 それで「やっぱり大丈夫かなこの人」と不安に(笑)。
僕のアイデアなんてつまんない
——初連載となった「乙女ウイルス」なんてジャンルがバラバラの読み切り連載で、それこそ打ち合わせが大変そうですが。
豊田 一応シリアスとコメディとギャグの3つにジャンル分けして、切り替えてましたね。その意味ではやりやすかった。ただシリアス回の打ち合わせでは、鈴菌さん黙りがちです。
鈴菌 シリアスはすっごい苦手。豊田さんに「次はシリアスで」って言われない限り、絶対描かなかった。
——そもそも打ち合わせってどういう風に進めるものなんですか?
豊田 他の編集者さんはわからないけど、僕は「とにかくいろいろアイデアを言う」スタイルです。「ああいう描き方もある、こういう描き方もある、こういうのもこういうのも」ってとにかくいっぱい言ったあとで、「じゃあいま言ったのじゃないアイデアを出して」と。僕が思いつくようなアイデアなんて、つまらないですから。ていうか「お前のアイデアはつまらない」って鈴菌さんが言うし。
鈴菌 言ってないよ!
豊田 実は、提案する捨て駒の中にも本気なアイデアは混ぜてあるんです。そのアイデアに対しても鈴菌さんは「つまんねえ」と。
鈴菌 つまらないとは言わないじゃん!ただ「う~ん……」って。
豊田 別に「俺の言う通りに描け」と言ってるわけでもなく、単に「こういうやり方もありますよ」っていう提案をしているだけなんですけど、それに対する返事が「う~ん……」て。やりづらい!
鈴菌 あれは自分のマンガがつまんないように思えてきて、悲しくなってるんですよ!「もっと面白くなるはず」とはいつも思ってるんですけど、そこに到達できる気が全然しなくて、怖くて何も言えなくなってしまう……。
——そういう行き詰まった雰囲気のとき、豊田さんはどうするんですか。
豊田 褒めますね。
鈴菌 褒めませんよ!
豊田 褒めてるよ!「大丈夫大丈夫」って励まして、どう「大丈夫」なのか説明する。
鈴菌 あー、理論的に立ち直らせようとはしますよね。でもテンション上げて「大丈夫大丈夫~!もー全然大丈夫だから(パンパン手を叩きながら)」とかは言ってくれない。
豊田 それ編集者の役割じゃないもん!めんどくさいそんなの!
鈴菌 テンションは大切ですよ!もっと「よっしゃよっしゃー」て、ポジティブにさー!元気にさせてほしいんです。
豊田 仮に僕がポジティブに煽って、鈴菌さんが元気になったとしましょう。でも、それと目の前の作品が面白くなるかどうかは、まったく別問題なわけですよ。
鈴菌 まあ、そうですよね……。
——そういったアドバイスとか聞いて、「豊田さんすごいな」と思ったりしますか。
鈴菌 思いついたこと全部言ってくれるのはありがたい……です。あと、とりあえず嘘はつかない。嘘言わないっていうのは、すごく安心です。私も嘘言わないですよね?
豊田 知らない。そこまであなたのこと知らないもん。
——普段のおふたりは、お互いどのくらい腹割って喋ってるんですか。
豊田 僕は思ったことは全部口に出して伝えてます。
鈴菌 私は……ほとんど言わない(笑)。
鈴菌カリオ(すずきんかりお)
1981年4月7日生まれ。2004年、月刊IKKI(小学館)にて「知恵熱」でデビュー。翌年に同誌にて、短編オムニバス形式の「乙女ウイルス」を連載開始。乙女心をテーマに、ギャグからシリアス、不条理まで幅広いストーリーを描き分け読者の注目を浴びた。2008年からは「Sillyなコダマ!!」を連載中。
豊田夢太郎(とよだゆめたろう)
IKKI編集部専属契約編集者(フリーランス)。2003年のIKKI月刊化と同時にIKKI編集部へ参加。現在、松本次郎「フリージア」、原一雄「のらみみ」、きづきあきら+サトウナンキ「セックスなんか興味ない」、ウィスット・ポンニミット「ブランコ」、スエカネクミコ「放課後のカリスマ」などを担当。