芦原妃名子「セクシー田中さん」 PR

芦原妃名子 画業25周年特集「セクシー田中さん」横澤夏子インタビュー|あの頃「砂時計」に夢中になったあなたへ捧ぐ 女性にかかった“私なんて”の呪いを解く最新作

2000年代に連載され、1人の少女の純愛と現在・過去・未来を緻密に描いて多くの女性に感動を届けた「砂時計」。その作者・芦原妃名子の最新作「セクシー田中さん」の2巻が発売された。同作は婚活に励む23歳の派遣OL・朱里と、ある秘密を持つ地味なアラフォー処女・田中さんを中心としたラブコメディ。現代女性の抱える葛藤や生きづらさを痛快に描き、2018年には早くも第9回ananマンガ大賞に輝いている。

コミックナタリーでは2巻発売に合わせ、芦原のヒット作「砂時計」のファンだというお笑い芸人の横澤夏子にインタビューを実施。少女時代に「砂時計」を自身の“恋愛の教科書”として愛読していた横澤は、20代後半となった今、「セクシー田中さん」をどう読んだのか? 心に響いたポイントをたっぷりと語ってもらった。また今年でデビュー25周年を迎えた芦原。これを記念して特集の最後には彼女からのコメントや、これまでに発表してきた作品をまとめたクロニクルも用意している。

取材・文 / 的場容子 撮影 / 佐藤類

初めてハマったマンガ「砂時計」は、恋愛の教科書になった

──横澤さんは、芦原妃名子先生の代表作の1つである「砂時計」を、学生時代に読んでいたそうですね。

横澤夏子

はい。最初に読んだのは中学生のときでした。マンガ好きの親友がいて、芦原先生の大ファンだったんです。「絶対読んだほうがいい」と言われて借りたのがきっかけで、大好きになりました。私はもともとマンガを読む習慣がまったくなく、「砂時計」はちゃんと読んだ初めてのマンガだったので、なおさら強烈でしたね。味わったことのない切なさにキュンキュンしていました。好きなシチュエーションがちりばめられていて、私の恋愛の教科書となった作品です(笑)。

──それだけ大切な作品だったのですね。

ヒロインの杏が、大悟と藤くんという2人の幼なじみの間で揺れ動きますよね。中学生くらいのときだと、自分が物語の主人公になったつもりで読むから、杏の立場になって「大悟はこのクラスでいうと誰なんだろう? 藤くんは?」と探したりしました(笑)。

「砂時計」より。土手で少年づてに思いを伝え合う杏と大悟。

──(笑)。その2人では、どちらに傾いていましたか?

もちろん大悟です。不器用なところや男臭いところが大好き。だけど、杏は途中で藤くんと付き合ったりもするから、「えっ、藤くんとも付き合ってくれるの?」と(笑)。2人との恋愛が楽しめちゃうから「杏ちゃんありがとう!」と感謝していました。特にこのシーンがすごく好きです。

──土手でサッカーをしてる少年がメッセンジャーになって、大悟に「好きなんだって」と杏の気持ちを伝えるところですね。

……もう最高! 大悟の、照れながらも「知っちょる」って答える感じがすごくよかったんですよね。ここがもうマックスで大好きです。憧れすぎて、いったい何度、ああいう子供が土手にいないか探したことか……。

──土手と子供だけではどうにもできなさそうですが(笑)。確かに胸キュンなシーンです。

一方で、今読み返すと、「大悟が私の前に現れることはもう絶対にないんだろうな」と思うと、ちょっとさみしくなりました。幼なじみでずっと好きでいてくれるって、すごく羨ましいですよね。

横澤夏子

──横澤さんは2017年に結婚されて素敵なパートナーをゲットされましたが、大悟だけは忘れられないと(笑)。それほど「砂時計」の世界に浸っていたということですね。

友達と恋バナをしていて、自分の過去の恋愛を語っているつもりが、「あっ! これ、『砂時計』の中の話だったわ」っていうときもあるくらいなんです(笑)。途中でハッと気付いて、「あれ? 大悟? あれ?」となります。のめり込みすぎちゃって、杏ちゃんの人生の中に入っているかのような感覚ですね。

「セクシー田中さん」の朱里たちは私と同じ世界を生きている

「セクシー田中さん」より。ヒラリー・クリントンの敗北宣言スピーチが印象的に盛り込まれている。

──そんな芦原先生の最新作「セクシー田中さん」は、「砂時計」とはまた違うアプローチですが、女性の生き方を根本から考えさせられる作品です。

突き刺さる部分がすごく多かったです。作品の序盤で、ヒロインの1人である朱里が、「私達はまだ あの最も高く硬いガラスの天井を打ち砕けてはいません でもいつの日か 誰かが成し遂げてくれるでしょう」という、米国初の女性大統領を目指したヒラリーさんの敗北宣言に言及していたところがグッと来ました。内容を改めて噛み締めたし、「その演説、私も見てた!」となり、登場人物は本当に私と同じ世界に住んでいる人たちなんだ、と実感しました。

──現実にリンクしていましたね。女性が社会の中でどんな困難に直面しているのか、改めて考えさせられるシーンです。

それから、一番好きだったシーンはここです。朱里が女子会をしているお店で、偶然地味で目立たない年上の同僚の田中さんがベリーダンサーとしてショーに出演していて、踊りまくっている最中に朱里が正体に気付く、という。終演後、田中さんが“真知子巻き”で変装するのも面白かったです(笑)。

──この衝撃の出会いをきっかけに、朱里は田中さんの職場とのギャップに惹かれ、彼女の生き方に自分を変えてくれるヒントがあるのではと思い接近していきます。普通に生きていて、23歳のゆるふわ女子と40歳の一見地味な女性が急接近することは、趣味が一緒などの接点がない限りなかなかないですよね。

「セクシー田中さん」より。同僚の田中さんの意外な素顔を知った朱里は……。

交わらない2人が出会うことで、お互いに得るものを見出していくというのは、羨ましいですよね。朱里は若くて一見キラキラしているけど、実は「自分の価値は若い女性であることにしかない」という呪縛に囚われている。その固定観念を覆すような存在の田中さんに出会って田中さんをストーカーすることで(笑)、新しい自分を見出していきますが、目標になる人がいれば一気に世界が新しくなる、というのは素敵だと思いました。