映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」は、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」をはじめ、数々のアニメ作品の脚本で知られる岡田麿里の初監督作。 “別れの一族”と呼ばれる長命な種族“イオルフ”の少女・マキアと、幼くして両親を亡くした人間の男の子・エリアルの、数十年にわたる絆が描かれたオリジナルアニメーションだ。
そうそうたるスタッフによる美しい映像も評判を呼んだ本作が、10月26日にBlu-ray / DVDとして発売。これを記念して、コミックナタリーでは美麗な作画で知られる種村有菜にインタビューを行った。劇場で鑑賞した際に「途中からずっと涙が止まらなかった」という種村は、「さよ朝」のどんなところに惹かれたのだろうか。インタビューの最後には種村による描き下ろしイラストも掲載。なお2ページ目からは、本作の結末にかかわるネタバレを含んでいるのでご注意を。
取材・文 / 柳川春香
これでもかっていうくらいイメージが具現化された映像美
──種村さんは3月に映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」(以下「さよ朝」)のご感想をツイートされていましたよね。そもそも本作をご覧になったきっかけはなんだったのでしょうか。
映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』も観ました。とにかく全てが美しく儚い…。どこが琴線にふれたかは自分でもわからないのですが、途中からずっと涙が止まらなかったです。思い残すことなく描ききられているので最後にはいくつもの人生を終えたような、そんな気持ちになりました。オススメです
— 種村有菜 (@arinacchi) 2018年3月14日
「さよ朝」は公開から少し経った頃に観たんですが、「面白い」って評判になっているのをTwitterなどで見かけていたんですよ。ちょうどその頃友人たちと遊ぶ機会があって、みんなアニメが好きなので、「そういえばこれ観たかったんだよね」って言ってグループで観に行ったんです。でもキービジュアルと、岡田麿里さんの初監督作ってことくらいしか知らずに観たので、「こういう話なんだ!」ってちょっと驚きましたね。
──観る前はどんなイメージを持たれていたんでしょう?
ファンタジックな話なんだろうなとは思っていたんですが、キービジュアルからなんとなく、戦場の恋愛ものだと思っていたかも。あとは「泣ける」とも聞いていたので、「さあ、どうやって泣かせてくれるのかな!?」って、ちょっとワクワクしながら観に行きました。
──ツイートでも「途中からずっと涙が止まらなかった」と書かれていましたよね。
それが、本当に何もきっかけがなくて、いつの間にかぼたぼた泣いていたんですよ。友人たちとも観終わったあとに感想を言い合ったんですが、みんな「どこってわけじゃないけど、いつの間にか泣いてた」って言ってて。作品の持つ空気感や雰囲気というか、徐々に積もっていった何かがあったんだと思います。
──では一番印象に残った部分というと、どこになるでしょうか。
とにかく冒頭からすっごく絵がきれいで。「きれいだなあ……!」って何回も心の中で言っていましたね。キャラクターももちろんですが、画面の隅々のほうをよく見ていたと思います。シーンで言えば冒頭の、イオルフたちが里で幸せに暮らしている場面が、一番好きかもしれません。背景もとても美しいですし、岡田監督がこの作品を作られるときに最初に思い浮かんだシーンなんじゃないかな?ってちょっと思いました。やりたいことが詰まってる気がするんですよね。
──イオルフの里は水に囲まれた神秘的な風景が印象的でした。ほかにも「さよ朝」はヘルム農場、都市・ドレイルと、それぞれ違うタイプの風景が描かれますが、どれも細部まで見応えがありますよね。
なんというか、「こんなにきれいにしてもいいんだ!」って思いましたね。思ったからって描けるものではないんですけど、映像に最後まで手を抜かず、これでもかっていうくらいイメージが具現化されていて。「こういうふうに見せたいんだ」という制作側の熱い意志を感じて、すごく刺激を受けました。
第一印象から決めてました
──キャラクターについてはいかがでしょう。主人公のマキアは大人しくて控えめなキャラクターで、先生の作品ではあまり主人公になるタイプの子ではないですよね。
そうですね。マキアちゃんは「かわいい!」って何回も思ってました。映像の美しさに加えて、マキアちゃんがずっとかわいかったので、悲しい展開になっても観続けられたところがあるかもしれないです。でもレイリアもお気に入りですね。気が強い女の子が好きなので。
──では、男性キャラクターでは?
クリムです! 第一印象から決めてました。イオルフの金髪とゆるっとした白い服が美しくて好きなんですよ。イオルフは長老のラシーヌも含めて、全員好きですね。
──イオルフは非常に長命な種族で、人間から“生ける伝説”とも呼ばれていますが、異種族の存在や人間と異種族との交流は、種村さんの作品にもよく出てきますよね。
そうですね。やっぱりもともとゲームが好きだったり、ファンタジックなものは好きなので。
──「さよ朝」もそうですが、ファンタジー作品は独自の世界観をイチから作り上げていく必要がありますよね。創作する側としては大変じゃないですか?
むしろファンタジーの方が、のびのびと作品が作れるんですよ。私は調べたり勉強したりするのが苦手なので、ファンタジーだと調べものをしなくていいし、自分が「こうしたい」って思っても、「それは歴史にない」とかって言われると、やっぱり落ち込んじゃいますよね。だったら自分の頭の中で世界観を作って「こういうものだよ」って言ったほうが自由に作れるから、私はファンタジーが好きなんですよね。
──そうなんですね。イチから作るほうが大変だろうと思っていました。
私は「こうだったらいいのに」の塊で生きているので、世界観を自分で作るのは全然苦ではないですね。大変さがあるとすると……長期連載が多いので、自分の作った設定を覚えておかなきゃいけないこと。自分の作った設定を忘れちゃって、自分の作った設定を調べて……結局調べものになっちゃう。
スタッフの結束力は画面に絶対表れる
──Blu-ray / DVDの特装限定版に収録されているメイキング映像では、「さよ朝」の制作の裏側を垣間見ることができますが、先生も「神風怪盗ジャンヌ」や「満月をさがして」でご自身の作品のアニメ化を経験されて、アニメとマンガの制作の違いを感じたことはありますか?
やっぱりマンガ家って、アシスタントさんはいますが、監督も俳優も全部1人でやっているんですよね。そこがアニメの現場と決定的に違うんですが、アニメは大人数で作っている分、意思疎通がすごく大事なんだなあと思いました。ものすごく細かいところまでディスカッションするんですよ。自分の作品がアニメ化されたときに、「この朝食のシーンで、このキャラクターがソーセージを選んだのはなぜですか」って聞かれたことがあって。
──へえ、そんなところまで!
「描かれているすべてのことに意味があるんだ」って私はそこで学びましたし、アニメの現場ではそれが普通なんだなって、すごく衝撃を受けましたね。なのでスタッフの結束力だとか、意思疎通やコミュニケーションがしっかりできているかって、作品にも絶対表れてくるんですよ。「さよ朝」はそれがきちんとできている作品だな、というのは観ていて伝わってきました。
──それは、例えばどんなところに?
「さよ朝」はキャラクターにブレがないんですよ。脚本を1人で書いたとしても、スタッフ同士の意思疎通ができていないと、仕草や演出の面でキャラクターの解釈にちぐはぐな部分が出てくると思うんです。そういうことが全然ないところからも、スタッフの皆さんの作品にかける情熱がすごく伝わってきましたね。
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※次ページよりネタバレあり
キャラクターの名前は子音から決める
- 「さよならの朝に約束の花をかざろう」
- 2018年10月26日発売 / バンダイナムコアーツ
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特装限定版 [Blu-ray]
9504円 / BCXA-1371 -
特装限定版 [DVD]
8424円 / BCBA-4910 -
通常版 [Blu-ray]
5184円 / BCXA-1370 -
通常版 [DVD]
4104円 / BCBA-4909
- 特装限定版Blu-ray / DVD特典
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- 映画では描かれていないストーリーを岡田麿里が書き下ろした短編シナリオ
- 制作現場の裏側、舞台挨拶の模様などを収録した制作メイキング映像(45分)
- 映画の設計図・絵コンテを映像で見られるビデオコンテ(115分)
- 紙上コメンタリーやスタッフ対談・キャストインタビューなどを収録した特製ブックレット(82P)
- 縮刷版劇場パンフレット(36P)
- キャラクターデザイン原案:吉田明彦描き下ろし三方背BOX
- キャラクターデザイン・総作画監督:石井百合子描き下ろしインナージャケット
- ストーリー
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ヒビオルと呼ばれる布に日々の出来事を織り込みながら、人里離れた土地で静かに暮らすイオルフの民。10代半ばで外見の成長が止まり、数百年の寿命を持つ彼らは“別れの一族”と呼ばれ、生ける伝説とされていた。
仲間と共に穏やかな日々を送りながらも、両親がおらず、どこかで“ひとりぼっち”を感じていたイオルフの少女・マキア。しかしある夜、長寿の血を求めて大国・メザーテの軍がイオルフの里に攻め込んでくる。絶望と混乱の中、なんとか逃げ出したマキアが森で出会ったのは、親を亡くしたばかりの“ひとりぼっち”の赤ん坊だった。
少年へ成長していくエリアルと、時が経っても少女のままのマキア。変化する時代の中で、2人の絆は色合いを変えていく。 - スタッフ
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監督・脚本:岡田麿里
副監督:篠原俊哉
キャラクター原案:吉田明彦
キャラクターデザイン・総作画監督:石井百合子
メインアニメーター:井上俊之
コア・ディレクター:平松禎史
美術監督:東地和生
美術設定・コンセプトデザイン:岡田有章
音楽:川井憲次
音響監督:若林和弘
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:バンダイビジュアル、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、ランティス、P.A.WORKS、Cygames
- キャスト
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マキア:石見舞菜香
エリアル:入野自由
レイリア:茅野愛衣
クリム:梶裕貴
ラシーヌ:沢城みゆき
ラング:細谷佳正
ミド:佐藤利奈
ディタ:日笠陽子
メドメル:久野美咲
イゾル:杉田智和
バロウ:平田広明
©PROJECT MAQUIA
- 種村有菜(タネムラアリナ)
- 1996年、りぼんオリジナル6月号(集英社)に掲載された「2番目の恋のかたち」でデビュー。1997年にはりぼんにて「イ・オ・ン」を初連載し、その後「神風怪盗ジャンヌ」が大ヒットを記録する。同作や「満月をさがして」はTVアニメ化もされた。詩的かつ印象的なセリフまわしや、こだわりのある美しい絵は、日本のみならず海外でも人気が高い。2011年にりぼんとの専属契約を終了し、フリーに。近年ではアニメ化もされたスマートフォン向けアプリゲーム「アイドリッシュセブン」をはじめ、ゲームのキャラクター原案も手がける。現在はメロディ(白泉社)で「31☆アイドリーム」を連載中。