「かわいい」と思っていただけるだけでも応援だなって
──これまで長年アイドル側にいた松村さんですが、逆の立場であるアイドルファンを演じたことで初めて見えてきたものって何かありましたか?
松村 「推す側、めっちゃ楽しいな」って思いました。握手会とかでファンの皆さんが「この後みんなでごはん行くんだ」みたいに話してくれたりすることがよくあって、そういうファン同士の交流とかが楽しそうだなっていうのは思ってたんですけど、今までは話として聞くことしかできなかったんですよね。それが今回、演技を通じてではあるんですけど実際に朝早くから列に並んだりとか、ライブに参加したりとか、オタク同士で語り合う場面とかを演じたことで、今まで皆さんから聞いていた話をリアルに感じることができて。
──疑似体験ができたというか。
松村 それが全部楽しかったなって思います。推す側もいいなって。
平尾 よかった……うれしい。
松村 えへへへ。
──ちなみに、おふたりは“理想のアイドルファン像”って何かお持ちだったりしますか? 例えば、くまさというキャラクターは先生の考える理想のファン像なのかなと思ったりしたんですけども。
平尾 ああ、そうですね。そうです。
──具体的にどういうファンのあり方を理想だと考えているのか、言葉にできたりしますか?
平尾 うーん……「迷惑をかけない」とか?
松村 (笑)。
──僕が個人的に感じたことでいうと、くまさはオタクとしての欲望はきちんと持っていながらも、れおの幸せを第一に考えられるところがファンとして美しいなと思っていまして。
平尾 そうですね、そうなんですよ。「私はそうはなれないな」と思いながら描いてますね。
松村 あははは(笑)。
平尾 私自身は完全に基タイプなんですよ。「推し被りは許せない」みたいな(笑)。よくないなとは思ってるんですけど……。
松村 でも、私も自分に近いのは基さんかなと思います。ガチ恋系かなって。
平尾 えっ! そうなんだ……。
──実際、なかなかくまさのようにはなれないですよね。
松村 うんうん。
平尾 そうですね……。
──松村さんには理想のファン像ってあります?
松村 それが、私は本当にまったくないんですよ。応援していただく立場に長くいた分、「こんなふうに応援してほしい」というのが本当になくて。ファンの方から「会いに行けなくてごめん」って言われることもよくあったんですけど、別に会いに来てくれることだけが正義ってわけでもないですし、おうちで映像とかを観て「あーかわいいー」って思っていただけるだけでも応援だなって思うので。
平尾 なるほど……!
松村 唯一あるとしたら、「忘れないでほしいな」とは思いますね(笑)。たまに思い出してくれたら、それだけでも立派な応援だなと思います。
アイドルになってくれてありがとう
──アイドルを推すことでしか得られないものって、何かあると思いますか?
平尾 得られないもの……。
──それこそ最近は「推し活」という言葉もあるくらい、いろんな対象を推すことが一般的になっていますよね。その中で、アイドルならではの魅力と言いますか。
平尾 やっぱり、アイドルって生きてるじゃないですか。「その子の人生の一番いい時期を観られる」ということが一番の素晴らしさなのかなと思います。その貴重な時間を我々に与えていただいているという、それを得られる素晴らしさ、ありがたさ。
──なり手がその“一番いい”タイミングでアイドルになることを選んでくれないと、そもそも成立しないものですし。
平尾 そうですね。「アイドルになってくれてありがとう」という気持ちです。
──松村さんはいかがですか?
松村 うーん、うーん……(しばし考え込んで)はて?
──まあ、アイドルをやっていた方に聞く質問ではないですよね(笑)。では当事者として「アイドルっていいな」と感じた一番の要素はどういうところでしょう?
松村 自分がグループを卒業した後にすごく思ったのは、アイドル、特に女性アイドルってすごく儚い存在だなということで。最近は必ずしもそうではなくなってきているかもしれないですけど、基本的に女性アイドルには「卒業」というものが付いて回るので、花咲く瞬間みたいに時間に限りがあるものですよね。その限りある時間の中で一生懸命に輝く姿というのが、儚いからこそいいのかなと思います。それが魅力なのかなって。
平尾 (絞り出すように)その通りです……!
松村 うふふふ。
平尾 私もそれは常々言ってるんです。「儚いところが魅力なんです」って。
──作中にもそういう描写がけっこう出てきますしね。「いつが最後の生誕祭になるかわからない」みたいなセリフとか。
松村 うんうんうん。
平尾 そうですね。
──では最後にちょっと余談っぽくなるんですけど、「推し武道」を通じて「これまであまり興味なかったけど、自分もアイドルを推してみたいと思うようになった」という方もいるんじゃないかと思います。そういう方々に向けて、オススメのアイドルを挙げていただけるとありがたいんですが……。
松村 私、最近めっちゃハマってるアイドルちゃんがいて。
平尾 へえー!
松村 Juice=Juiceにすごくハマってるんです。とにかく楽曲が素晴らしいですし、ライブ映像を観るのがめっちゃ楽しいんですよ。「私もいつかJuice=Juiceのライブに行くんだ!」という思いを糧に日々を生きています。
──誰か推しはいるんですか?
松村 いえ、いわゆる箱推しですね。全員が全員、それぞれの歌声が全部よくて。しかも、ライブによって歌割りが変わったりもするんですけど、それがまた全部素晴らしいんですよ。
平尾 私はBerryz工房のライブによく行ってたんですけど……。
松村 おおー、ハロプロつながり。
──でも、Berryz工房は今オススメされてもライブには行けませんね(笑)。
平尾 そうなんですよね……最近で言うと、この前初めてAKB48劇場に行ったんです。
松村 おお!
平尾 特に誰目当てとかではなく、友達が誘ってくれて。それが武藤十夢ちゃんの劇場卒業公演だったんですけど、もう「すっごい!」と思って。とにかくショーとしての完成度がすごいんです。見せ方がとてもうまくて、出演メンバーの名前も全員覚えちゃいました。すごく楽しかった。
──では読者に対しては「AKB48劇場に通うのがオススメだよ」ということでよろしいでしょうか。
平尾 そうですね、私もこれから通いたいなと思ってます。
プロフィール
松村沙友理(マツムラサユリ)
1992年8月27日生まれ、大阪府出身。乃木坂46の元メンバーで、2021年にグループ卒業後は女優・モデルとして活動。主な出演作品に「あさひなぐ」(紺野さくら役)、「映画 賭ケグルイ」「映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット」(夢見弖ユメミ役)、「東京ワイン会ピープル」(桜木紫野役)などがある。
松村沙友理STAFF (@sayuringo_staff) | Twitter
平尾アウリ(ヒラオアウリ)
8月30日生まれ、岡山出身。2007年、「まんがの作り方」で月刊COMICリュウ(徳間書店)が主催する新人賞「銀龍賞」を受賞したのち、そのまま連載化され、全8巻に及ぶ連載作品となる。2015年より同誌にて「推しが武道館いってくれたら死ぬ」を連載開始。現在単行本は9巻まで刊行されており、2020年にはTVアニメ化も果たしている。
※記事初出時、本文内の映画公開日に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。