アニメ「大雪海のカイナ」安藤裕章監督インタビュー|「BLAME!」「シドニアの騎士」の弐瓶勉が、次に挑むは王道ファンタジー! アニメーション監督から見る弐瓶ワールドの魅力 (2/2)

その世界のルールの中で、キャラクターたちがどう生きていくか

──「大雪海のカイナ」はこれまでのポリゴン・ピクチュアズと弐瓶先生のお仕事とは違う、原作マンガが先行する形ではない、アニメオリジナルの企画としてスタートされました。しかもジャンルとしてはファンタジー。先生とのやり取りも、これまでと違うところがありましたか?

確かにファンタジーのスタイルではあるんですが、根底は同じでしたね。とても細かく世界のルール作りをされて、その中でキャラクターたちがどう生きていくかを描く。ファンタジーであれ、SFであれ、先生のストーリーの作り方は変わらないのだと思いました。キャラクターたちの置かれる環境がしっかりできあがっているので、その中で主人公がどういう気持ちになっていくのか、一緒に打ち合わせをする自分や脚本の村井さだゆきさんも、考えやすかったと思います。結果的には、割とストーリーの運びは、オリジナル企画であっても弐瓶さんらしいものになりました。

──やり取りの中で、特に印象に残っているものはありますか?

脚本の打ち合わせのとき、弐瓶さん、自分、村井さんと3人で割と脱線してしまって、話の本筋よりも世界の設定で楽しんでしまったり。どれがというより、そんなことばかりしていた楽しい記憶が印象に残っています(笑)。「大雪海のカイナ」の世界にはいろんな地方があるのですが、それぞれの地方での環境はこうなっていて、植生はこうなっていて、食生活はこうなっていて、居住や建物はその中で作られる材料を生かす形で、こんなふうなデザインになっていて……と弐瓶さんからは溢れるようにイメージの提示があって。建物の構造なんて、まるで建築家のようなきっちりした設定でした。

カイナたちが暮らす天膜の村・広間の設定資料。

カイナたちが暮らす天膜の村・広間の設定資料。

──監督の中で、「ここは絶対にこうしたい」とこだわったポイントはあったのでしょうか。オリジナル作品ですと、原作ありきのものに比べて、そうした余地はありそうですが。

うーん、みんなで意見を出し合っていたので、自分に限らず、ここは誰かの意見だと断定できるものは、あまりない気がします。まず弐瓶さんの設定した世界の規定ありきなのは間違いないとして。そのうえで、自分のこだわりでもありますし、関わったみんなのあいだで共通の認識だったと思うのですが、「キャラクターたちが、自分の気持ちに嘘をつかないようにする」というのは、注意していました。ストーリーの都合で動かさず、それぞれのキャラクターの気持ちで、行動をちゃんと考えていくことに、気を配りました。

──嘘のないやり取りで動いていく人間たちを、この作品では描きたい。

はい。ストーリーやセリフに限らず、映像の演出や、アニメーションの付け方、キャストさんの演技に関してもそうですね。キャストさんにも、そのときの気持ちに嘘をつかないで演技をしてもらえるように、芝居に関してよく話し合いました。

──プレスコ収録でセリフの調整が細かくできる利点を活かされていますね。ただの感想になってしまいますが、カイナ役の細谷佳正さんの芝居には特に驚かされました。あまりにフレッシュで、てっきり新人の方かと勘違いを。

そこは細谷さんに期待したところだったんです。ナチュラルに、この大変な雪海世界の中の、まだ力を発揮できていない戸惑う立場の少年になってほしい、と。期待というか、言い方を変えれば、細谷さんに頼った部分でもあります。細谷さんならやってくれると思っていて、見事にやってくれましたね。

アニメ「大雪海のカイナ」より、カイナ(CV:細谷佳正)。

アニメ「大雪海のカイナ」より、カイナ(CV:細谷佳正)。

今までにない弐瓶ワールドと、変わらないこだわり

──そんな素敵なお話から、つながるような、ちょっと脱線するような質問なのですが……どうしても気になる細かい点を1つ伺いたくて。弐瓶先生は、特殊な環境でのトイレ事情にこだわりを持っていらっしゃるのでしょうか? 「シドニアの騎士」でもコクピット内での描写がありましたが、今作でもまた……。

あはは。あれはその、トイレ関係のことがわざわざ描きたいとかではなくて、そういうちょっと恥ずかしくなっちゃう行動も、生きているキャラクターだったら当然あるよね……という、世界を描くために必要なものの、1つの表れ方なのかなと思います。アニメーションの表現手法で、生活感を見せる方法としての食事シーンがあったりするのと、同じくらいの意味合いなんだと思いますね。

──弐瓶先生の、フェティシズムを掻き立てられる非人間的な巨大構造物や巨大生物の描写に溢れた世界に、ときおりああした、マンガやアニメでは避けられがちな人間臭い要素をぱっと放り込まれる感じ。前々からその対比が印象的だなと思っていて、思わず伺ってしまいました。すみません。

いえいえ。それで言うと、弐瓶さんの作品のキャラクターの特徴は、主人公がヒーロー然としていないところかなと。強い役割意識を持って動くというよりは、もっと自然な感情で、世界の中で立ち回っていく。それによって物語が動くことを好まれている、目指されている印象がありますね。

──なるほどなあ。ありがとうございます。では最後に、月並みな質問で恐縮ですが、これからの放送を楽しみされている読者の皆さんに向けて、ひと言メッセージをいただけたら。

今までにない、また新たな弐瓶ワールドを見ていただける作品になります。ですが、根底に流れている弐瓶さんのこだわりは、やはり変わっていません。この作品で初めて弐瓶さんの作品に触れる方も、以前からのファンの方も、おしなべて楽しんでもらえると思いますので、どうぞよろしくお願いします!

プロフィール

安藤裕章(アンドウヒロアキ)

アニメーション監督。監督作品に「LISTENERS」「亜人」「SHORT PEACE」がある。そのほか「GODZILLA 決戦機動増殖都市」「GODZILLA 星を喰う者」副監督、「シドニアの騎士」「鉄コン筋クリート」演出、「スチームボーイ」「MEMORIES」CGI監督などを務める。