コミックナタリー PowerPush - 日当貼「オデットODETTE」

猫頭キャラ誕生秘話を著者が語る “リアル猫ヘッド”を使っての書店デート再現も

日当貼インタビュー

頭だけ猫にしたらもっと面白いかも

──まずは猫氏というキャラクターについてお伺いできればと思います。猫氏は見た目も特徴的ですが、どのように生み出されたのでしょうか。

「オデットODETTE」カラーカット

もともと猫好きということもあって、キャラクターを擬猫化して登場させるような2次創作をやっていたんです。そのうち擬猫化だけでなく、天邪鬼的にもっとビックリさせたくなって、頭だけ猫にしたキャラクターを出してみたのが始まりです。

──別の作品で、頭だけ猫のキャラクターを描かれていたんですね。

はい。描く前はどういうバランスになるのかわからず、頭だけが猫化していると不気味になっちゃうかもと考えていたんです。でも実際に描き始めたら「あっ、これかわいいな」と思って。顔が猫というところ以外は人間と同じなので、キャラクター同士のやりとりや意思の疎通もさせやすかったですね。

──1種の発明のような。

でも猫頭のキャラクターって実は昔から多いんですよね。「耳をすませば」に出てくるバロンなんかはまさにですし、ゲームの「クロノ・クロス」のヤマネコもそうですから。

──日当先生の描く猫の絵柄は割とリアルめですが、どういった所から影響を受けているのでしょうか。

昔からカートゥーンというか、いわゆる風刺画に出てくるような点描画が好きだったので、今の絵柄もそこから来ているんだと思います。子供の頃は「チャーリーとチョコレート工場」の原作を書いた、ロアルド・ダールの本が好きでよく読んでいて。その流れでロアルド・ダール作品の挿絵を描いていた、クェンティン・ブレイクが大好きになったんです。

──ロアルド・ダールもクェンティン・ブレイクもシニカルな部分を持ち合わせた作家ですね。

クェンティン・ブレイクは風刺画も描いていたんですけど、とにかく動物がたくさん出てくるのが楽しくて。そんな経緯で大学は風刺画を勉強できる所に進学したんです。大学では猫が好きで猫の絵をすごくたくさん描いている、ロナルド・サールという作家を知って、めちゃくちゃ影響を受けました。絵柄だけでなく、そういう児童書や風刺画が自分の作風の根っこにあるなって思っています。

原稿は畑仕事の合間に

──大学時代からマンガは描かれていたんでしょうか。

オリジナルマンガは描いていなかったんです。描いてみたいけど描かないみたいな(笑)。ただ同じ高校から進学した友達がマンガを描くコースに在籍していて、その繋がりでできた友人たちがオリジナルマンガを描いていたので、影響されて自分もやってみようかなと始めたのが最初だったと思います。

──そこから投稿や持ち込みなどの活動を?

外出前に身だしなみを整える猫氏。

少しはしていたんですが、なかなか本腰を入れられなくて。創作活動は仕事が休みのときにぼんやりとするぐらいで。そんなときコミティアに参加して、今「オデットODETTE」を連載しているポラリス編集部の方に声をかけていただいたんです。でもすでに大学卒業後で仕事も始めていた時期だったので、そのときは忙しくてうやむやにしてしまって(笑)。

──今もお仕事をされながら執筆しているんですか。

はい、農業をしながらマンガを描いています。畑仕事は土日だからお休みっていうわけでもないので、ほんとに仕事の合間合間に描いている感じですね。今の担当さんからお話をいただいてなかったら、連載はしていなかったと思います。

猫氏は山形出身

──では「オデットODETTE」連載までの経緯をお伺いできますか。

これもコミティアで出していた「オデットODETTE」の基になった作品を、今の担当さんが見てくれたのがきっかけですね。ペーパーに4コマを描いただけだったんですが、第1話の冒頭に近いネタでした。そこからほとんどキャラクターは変わっていないので、自分の中ではそのときすでに、猫氏のキャラクターが出来上がっていたんだと思います。

カフェデートの様子。

──なんでもそつなくこなす、喋らない猫頭の男という。

はい。作中ではあまり出てこないんですが「猫氏は山形出身」とか、細かい設定も実は決めていて。

──山形出身というのはなぜ?

単純に私の中で「山形っぽいな」と思っているだけで、特に理由はないんですが(笑)。「オデットODETTE」は背景などを友人に手伝ってもらっているんですけど、私は部屋の内装とかを考えもなしに描いてしまうんです。で、作画中にその友人と「猫氏やたらといい部屋に住んでるけど、何の仕事してるんだろうね」みたいなことを話したりして。そういうちょっとした雑談の中で出てきたものを設定としてまとめています。

──今後そういった設定が活かされたエピソードが読める可能性もあると。

そうですね。多恵は九州出身で兄弟がいるという設定なので、そういうキャラクターは近いうちに出していく予定です。それから私の中では、「猫氏は劇中では一切喋らせない」というルールもあって。

飲み物を注文する猫氏。

──確かに吹き出しの外では言葉を発していますが、明確に喋ったシーンはありませんね。

頭が猫なのに周囲の人間が誰も突っ込まないようなフワフワとした世界観なので、喋らせてしまうと、そういうフワっとした雰囲気が壊れてしまう気がして。喋れるんだけど読者さんには聞こえていないというか。そんな、曖昧だけど不思議で楽しい空気感を皆さんに楽しんでもらえればと思っています。

日当貼「オデットODETTE」1巻 / 発売中 / 616円 / ほるぷ出版
あらすじ

猫で彼氏──?
ドジだけど明るく素直な彼女と、彼女思いのやさしい彼(猫……?)。ほんわか癒やしカップルの、ゆったり「おデート」物語。あったかでモフモフな、幸せいっぱいラブコメディ。

日当貼(ヒアテハル)
日当貼

10月9日生まれ。広島県出身。友人の飼い猫を世話するため、とある猫屋敷を訪れた青年を描く読み切り「逃げてるボクとネコの三毛谷さん」で2012年にデビュー。2014年2月には、瀬戸内海のとあるみかん農家で暮らす猫たちの日常を切り取った「ねこもふ。」を発表する。同年7月よりCOMICポラリスにて初連載作「オデットODETTE」を連載中。