コミックナタリー Power Push - 太田紫織 / 著 toi8 /イラスト「オークブリッジ邸の笑わない貴婦人―新人メイドと秘密の写真―」

現代日本の派遣家政婦、19世紀英国へ── toi8が美麗メイドイラスト描き出す現場に密着

背景の着彩~仕上げ

  • 人物をある程度塗り終わったら、背景の着色へ。今回は、青いペンキが塗られた板塀とアイビーが配置された。キャラクターを邪魔しないよう、比較的シンプルにまとめることにする。

  • 着色が終了したら、最後にレイヤーを1枚増やし、テクスチャ素材をオーバーレイモードで入れてざらついた雰囲気を出す。今回素材として使われたのは、自らのデジタルカメラで撮影した壁の写真。

19世紀の英国にこういう壁があったか、というとたぶんないと思うんですけど(笑)。僕の好きな映画に「リトル・ダンサー」という作品があるんですが、それに出てくる少しペンキがはがれているような壁の風合いがすごく好きで。楽しく描けて、質感が面白いというところで題材に選んでみました。

完成!
ラフから約2時間後、シーツを持って微笑むメイドのアイリーンが完成。逆光の表現や肌・布の質感など、すみずみまで堪能してほしい。

オークブリッジ邸に集う人々

  • アイリーン(愛川鈴佳)
    アイリーン(愛川鈴佳)
    札幌在住の派遣家政婦。21歳。家事も料理もきっちりこなす能力を買われ、オークブリッジ邸の住み込みメイドとして働くことに。趣味は野球観戦で、ファイターズのファン。

    toi8コメント

    芯の強いメイドさん、というイメージですね。若い女性なのでかわいく描こうとは思ったんですが、媚びるような顔にはせずに、ちょっと凛とした感じを意識しました。いわゆるメイド喫茶にいそうな感じではなくて、屋敷の雰囲気に自然体で馴染むような塩梅で。

  • ユーリ(楢橋優利)
    ユーリ(楢橋優利)
    IT企業の社長を務める30代の男性で、アイリーンを屋敷に引き入れた張本人。奥様の孫だが、オークブリッジ邸では執事としてふるまう。じゃがいもと煮豆が好き。

    toi8コメント

    骨格がしっかりしていて高身長な美青年というのを意識したのはもちろんですが、ポイントはもみあげです(笑)。手塚治虫さんの「MW」に出てくる主人公のようなもみあげにしたい、というのが僕の中にあって。絵を見た妻からは、森薫さんが描かれた「エマ」のハンスに似てると指摘されましたね。

  • 奥様(楢橋タエ)
    奥様(楢橋タエ)
    オークブリッジ邸の主。若い頃は英文学の翻訳者を務めていた。夫を亡くし、余生を19世紀英国を再現した日常の中で過ごしたいという希望を叶えるべく旭川近郊に屋敷を構えた。

    toi8コメント

    実は僕、これまであまりおばあさんを描いたことがなくて……。例えば「天空の城ラピュタ」のドーラとか、ああいう記号的なおばあさんなら大丈夫なんですが、若い頃は美人で有名だったという雰囲気って、単にシワを入れたりするだけでは表現できない。かなり試行錯誤しましたが、結果的には太田先生にも「イメージにピッタリ」と喜んでいただけました。

  • スミス夫人
    スミス夫人
    オークブリッジ邸の近所で農園を経営している主婦。毎朝新鮮な食材を届けてくれる。いつも笑顔でアイリーンのよき相談相手にもなってくれる存在。15歳になる娘がいる。

    toi8コメント

    モデルは料理研究家の枝元なほみさんです。若々しくはつらつとしていて、周囲を安心させてくれる感じを意識しました。ミセス・ウィスタリアもそうだったんですが、見た目についてあまり小説での描写を読みこめていなくて苦労しましたね。

  • エドワード
    エドワード
    ユーリの弟。定職に就かずふらふらしている放蕩息子だが、不思議と憎まれない。軽薄そうに見えて、窮地に陥ったアイリーンに的確な助言を与えることも。

    toi8コメント

    マンガ的な優男の風味を加えつつ、ユーリさんと雰囲気を似せながら描きました。最近カッコいい男性キャラクターを描くことが増えてきたんですが、どんどん頭身が上がってきてるんですよ。今回はそれを意識して気持ち低めにしたんですが、それでもかなり足が長いなあ。

  • ミセス・ウィスタリア
    ミセス・ウィスタリア
    本名・藤井さん。晩餐会で「ウミガメのスープ」を作ってほしいという奥様からの無茶な要求に応えるべく、スミス夫人が連れてきた人物。元料理人とのことだが、過去に何かあったようで……?

    toi8コメント

    最初に描いた段階では、ジーンズやブーツを着た現代の格好をしていたんですよ。イメージとしては栗原はるみさんのように少し痩せた感じを出していたんですが、もう少しがっしりした感じに。あとは太めの眉毛で意志の強さを、レードルで料理人っぽさをそれぞれ出しています。

イラスト制作を振り返って……
イラスト制作の際、toi8が参考にした資料の一部。
装画にあたっては妻が収集していたメイド関連の資料のほか、この作品の英国文化監修を担当された村上リコさんからアドバイスをいただきました。村上さんはアニメ「英國戀物語エマ」の時代考証なども手がけられていて、メイド服やスーツについてももちろんですが、例えば表紙のアイリーンが持っているバスケットや、背景にある屋敷の窓の形などについても細かく見ていただきましたね。小説ももちろんですが、イラストのそういった部分も楽しんでいただけると幸いです。
太田紫織「オークブリッジ邸の笑わない貴婦人―新人メイドと秘密の写真―」 / 2015年8月28日発売 / [小説] 724円 / 新潮社
「オークブリッジ邸の笑わない貴婦人―新人メイドと秘密の写真―」

愛川鈴佳、21歳。明日から、十九世紀に行ってきます。

「完璧なヴィクトリアンメイド募集」——派遣家政婦・愛川鈴佳に舞い込んだ風変りな依頼は、老婦人の生涯の夢のお手伝い。旭川近郊の美しい町に19世紀英国を再現したお屋敷で、鈴佳は「メイドのアイリーン」になった。気難しい奥様の注文に、執事のユーリや料理人ミセス・ウィスタリア、農家のスミス夫人たちと応えるうち、新人メイドは奥様の秘密に触れ……。制作費50万円相当「本格ヴィクトリア朝ドレス」プレゼント企画も実施中!

英国文化監修:村上リコ
イラスト:toi8

toi8(トイハチ)
toi8

2002年、Colorful PUREGIRL(ビブロス)掲載の「空想東京百景」でイラストレーターとしてデビュー。ライトノベルの装画を数多く手がけるほか、2009年にはメディアファクトリーから初の画集「幻想少女 toi8アートワークス」が発売。独特の世界観が多くのファンに支持され、マンガやアニメにも活躍の幅を広げている。2015年、一迅社から画集「追憶都市 toi8 ArtWorks」「追憶都市〈異聞〉 toi8 ArtWorks」が刊行された。