にゃんぞぬデシの「泣く子も笑う」が、夏目靫子原作によるTVアニメ「おこしやす、ちとせちゃん」のエンディングテーマに起用された。マイケル・ジャクソンに衝撃を受け、小学5年生でエンターテイナーを志すことを決意したというにゃんぞぬデシは、弱冠20歳ながらも、唯一無二の歌声とみずみずしい感性から生み出される豊かな楽曲で支持を集めている。
コミックナタリーでは「おこしやす、ちとせちゃん」をきっかけに出会った、にゃんぞぬデシと原作者の夏目による対談をセッティング。個性溢れる2人の若きアーティストが、“ちとせちゃん”を通じて心を通わせていく姿を楽しんでほしい。
取材・文 / 増田桃子 撮影 / 佐藤類
エンディングに流れたときは、うれしさの塊(にゃんぞぬデシ)
──まずは、おふたりの接点となった「おこしやす、ちとせちゃん」についてお聞きできればと思うのですが、アニメをご覧になっていかがでしたか。
夏目靫子 私はアニメ化が決まったことがまず驚きで。実際にテレビで観るまでは現実味がなかったというか、なかなか実感が湧きませんでした。でもちとせが動いてるのを観て、すごくうれしかったですね。
にゃんぞぬデシ 私も楽しく観ています! ちとせちゃん大好きなので。
──ご自身の曲がアニメのエンディングに流れたときは、どんなお気持ちでしたか?
にゃんぞぬデシ もううれしさの塊で。第1話は「このあと、本当に流れるのかな?」って思いながらテレビを観ていたんですけど、実際にエンディングが流れて「あ、本当だった!」って(笑)。それに、私の歌詞をなぞっていただいているのかわからないけど、エンディングのアニメ映像と歌詞がすごくマッチしていて。めちゃめちゃちとせちゃんの動きに合ってるんですよ!
夏目 きっとなぞってくれていると思いますよ。
にゃんぞぬデシ そうですよね。なんだかちとせちゃんが歌っているように思えて……。エンディングの最後に「よりみち」と「ちかみち」っていう看板の前で、ちとせちゃんが「よりみち」を選ぶのが……。
夏目 私もあれめっちゃ好きです! 見るたびになぜかスッ(涙が流れる仕草)てなるんですよね。ふふふ(笑)。
にゃんぞぬデシ なります! 泣きそうになります。
──アニメのエンディング曲ということで、今までの制作と違ったことはありましたか。
にゃんぞぬデシ 放送で使われる30秒間で、どれだけちとせちゃんのひたむきさを表現できるかなっていうのを考えてました。明るく前に進んでいる感じを出したくて。あとアレンジも、いつも以上にキラキラしている感じを出したいなと。
夏目 短いエンディングにギュッと詰まってますよね。エンディングによって「今回の話めっちゃよかったな」って、物語の価値が上がっていると思います。
──夏目さんは「泣く子も笑う」をお聴きになって、いかがでしたか?
夏目 素晴らしいなと。にゃんぞぬデシさんは、唯一無二の歌声を持っておられるなと思います。うちの母親も、テレビの放送を観て「1回聴いたら頭から離れなくなる声やね」って言ってて。よくサビを口ずさんだりしているんですよ。
にゃんぞぬデシ えー! 本当ですか!
夏目 それに、まだアニメのエンディングでしか聴いたことないって方には、絶対にフルで聴いてほしいですね。私はCメロがすごく好きで。コンパクトなんですけど、そこにこの曲のすべての感情が詰まっていると言うか。
にゃんぞぬデシ は! う、うれしい……!
夏目 テレビバージョンでは聴けない部分の歌詞も、ちとせのことを歌ってくれているんだなっていうのを感じたので、ぜひフルで聴いてほしいです。
にゃんぞぬデシ ありがとうございます!
「泣く子も笑う」はちとせちゃんがいなければ生まれなかった(にゃんぞぬデシ)
──「泣く子も笑う」は、どうやって作詞作曲されたのでしょうか。
にゃんぞぬデシ 私は基本的に、歌詞と曲が同時にできることが多くて。今回は原作の「ちとせちゃん」を読みながら、好きな話や言葉をメモったりしているうちに、自然とメロディが浮かんできた感じです。……あの、ちょっといいですか?(付箋がいっぱい付いた単行本を取り出す)
夏目 えー! すごい付箋の数!(笑)
にゃんぞぬデシ すみません! 今回の対談に向けてチェックし始めたら、めちゃくちゃ付箋だらけに……(笑)。付箋が付いてるのは、全部好きな話なんですけど……。
夏目 多すぎてびっくりしました(笑)。
にゃんぞぬデシ なかなか選べなくて……! いっぱいあるんですけども、原作の第5話で、仕事で疲れているサラリーマンの話がありまして。彼がちとせちゃんと触れ合うことによって元気になっていくお話なんですけど。その最後のページに「泣く子も笑うちとせちゃん」って書いてあって。原作を全部読み終わったときに、私「ちとせちゃんって、本当に『泣く子も笑う』だな」って思ったんですよ。それで「泣く子も笑う」って曲が生まれたんです。
──なるほど。作中のナレーションが曲名になっていたんですね。
にゃんぞぬデシ ちとせちゃんって、いつでもひたむきで明るくて、本当に心が優しいなって思うんです。でも人間はそういうポジティブな気持ちになれないときもあるじゃないですか。でも、ちとせちゃんを見ていると、妬みとか嫌いなものとかがなくなると思うんです。だからそういう思いで曲も作りました。とにかく、ちとせちゃんがいなければ生まれなかった曲です!
夏目 すごい、熱い!(笑)
にゃんぞぬデシ いやあ……すみません!(恥ずかしそうに)
夏目 すごくうれしいです。私としても、嫌なことやつらいことがあった人が読んで、前向きになるような作品を目指してマンガを描いているので。そんなふうに言っていただいてありがとうございます。今、お話を聞いて、このマンガを描いてきてよかったって思いました。
マイケル・ジャクソンのような、キラキラを届けられる人になりたい(にゃんぞぬデシ)
──おふたりともコミックナタリー初登場になりますので、プロフィール的なところも伺いたいのですが、まずその「にゃんぞぬデシ」というお名前の由来をお聞きしたいなと。
夏目 私も気になってました。
にゃんぞぬデシ えっと、小学校1年のとき、お祭りの帰りに野良猫ちゃんが道にいて。ほかの人が近寄っても逃げるんですけど、私にだけ寄ってきてくれたんですよ。
夏目 へえ。かわいいですね。
にゃんぞぬデシ それで気になって連れて帰ることにしまして。大人の猫ちゃんだったので拾ったとき10歳ぐらいだったんですけど、そのあと22歳くらいまで長生きしてくれて。「にゃんぞう」っていう名前だったんですが、その子がとても賢くてかわいくて。にゃんぞうみたいに周りの皆に元気をあげられる人になりたいので、にゃんぞうを師匠にして私が弟子になりました。
夏目 弟子のデシだったんですね!
にゃんぞぬデシ はい!
夏目 にゃんぞうのデシ、にゃんぞうデシ、にゃんぞぬデシ……って感じですね(笑)。
にゃんぞぬデシ 「にゃんぞうのデシ」ってずっと言っていると、「にゃんぞぬデシ」に聞こえてくるんです(笑)。でも本当に師匠と弟子みたいになりたいって思っていたし、名前にしたらずっと一緒にいられる気がして。だからこの名前にしました。
夏目 なんてお呼びしたらいんですかね……?
にゃんぞぬデシ あ、「デシちゃん」って呼ばれることが多いです。
夏目 やっぱり「デシちゃん」なんですね……「にゃんちゃん」とか「にゃんぞぬちゃん」ってなんかしっくり来ないなと思って(笑)。
にゃんぞぬデシ すみません!(笑)
夏目 歌手になろうと思ったきっけはなんだったんですか?
にゃんぞぬデシ 子供の頃からずっと音楽が好きだったんですが、歌手になりたいなと思ったのはマイケル・ジャクソンさんがきっかけですね。私が小学5年のときに亡くなられたんですけど、昔の映像とかMVとかがたくさん流れたときにその存在を知って、映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を観て衝撃を受けて。私もこんなキラキラした、キラキラを届けられる人になりたいと思ったのがきっかけです。
夏目 へえ、小学5年生で……。
にゃんぞぬデシ その後、ラジオで募集している10代のアーティスト限定のコンテストがありまして。もともと私はラジオを聴くのが大好きなんですけど、そこに応募したいと思って曲作りを始めました。その曲を作ったことによってライブを始めたり、ほかにもいろんなコンテストがあることを知ったりして、どんどん活動が広がっていった感じですね。あと、「BECK」っていうマンガがあるじゃないですか。
──ハロルド作石さんの音楽マンガですね。
にゃんぞぬデシ はい。「BECK」がきっかけでギターを弾き始めたんです。中学のときにスピッツさんとBUMP OF CHICKENさんが大好きだったんですけど、「BECK」も同じ時期にハマって読んでいて、どうやら歌っている人はギターを持っているぞと。ギターを買えば曲が作れるようになるんだっていう、道理にかなわないことを思いまして(笑)。お弁当代をへそくりしてギターを買いました。
- にゃんぞぬデシ「泣く子も笑う」
- 配信中 / 三毛猫レコーズ
- ライブ情報
にゃんぞぬデシワンマンライブ
「成にゃん式ワンマンライブ~会場はにゃんぞぬランドです~」 -
- 2019年1月14日(月・祝)
会場:東京・Shibuya eggman
時間:18:00開場、18:30開演
チケット料金:前売り2800円、学生1300円(※ドリンク代別)
- 2019年1月14日(月・祝)
会場:東京・Shibuya eggman
- TVアニメ「おこしやす、ちとせちゃん」
- 放送情報
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TOKYO MX、KBS京都にて毎週金曜日25:35~
- スタッフ / キャスト
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原作:夏目靫子(「BE・LOVE」連載)
監督:矢立きょう
制作会社:ギャザリング
音楽:こぐま
製作・著作:株式会社VAP
ナレーション:堤真一
キャスト:遊佐浩二、小岩井ことり
©夏目靫子・講談社 / VAP
- 夏目靫子「おこしやす、ちとせちゃん③」
- 発売中 / 講談社
- にゃんぞぬデシ
- 1998年8月4日、福島県生まれのシンガーソングライター。中学校3年生のときに曲を作り始め、高校2年生からライブ活動をスタートさせる。ギター弾き語りを中心にしながらもバンドスタイルを取り入れるなど、多彩なライブ活動を精力的に展開。みずみずしい感性から生み出されるポップセンス溢れる楽曲と、情感豊かな澄んだ歌声で支持を集める。
- 夏目靫子(ナツメユキコ)
- 京都生まれ、京都在住。現在、BE・LOVE(講談社)にて「おこしやす、ちとせちゃん」を連載中。最新4巻は2月13日に発売。