コミックナタリー Power Push - 石井あゆみ『信長協奏曲』

担当編集者が惚れ込み世に問う、カテゴライズ不能な痛快戦国デイズ

サブローはこんなこと言わない

市原武法氏

──それはどちらが言い出したんですか。

どっちだったっけなあ。「こういうのどう?」って言うと、ヤツが「面白い、じゃあこういうのは?」って感じですからね。ただ、打ち合わせでそういう提案をするのは実は簡単なんですよ。問題は、マンガ家がそれをキャラクターに起こして、そのキャラクターが本当に生き生きと動くかどうか。そうじゃないと、機械的な、取って付けた企画になってしまう。

──すると、石井あゆみのすごさっていうのは……。

そこですよね。1話目のネームを見た瞬間に衝撃を受けましたから。「なんだこのキャラクターは!?」っていう。何がすごいって、タイムスリップしてるのになんとも思ってないっていう(笑)。そんなこと打ち合わせで決まるものじゃないんですよ。仕草ひとつで表現しますから。飄々と「タイムスリップしてしまったのだ」って言ってあっという間に現実を受け入れて前向きに生きてますし、かと言って自分のペースは崩さない。

──帰蝶も本当にかわいらしいですしね。

本当に魂が吹き込まれてますよね。キャラについては神聖なものだと僕は思ってるので、それに関してはほとんど何も言うことはないんですけど、それがやっぱり僕の予想をはるかに上回ってますよね。歴史的な文献探しだったり知識だったりっていうのは編集者がいくらでも補いますけど、やっぱり作り出してくるキャラクターが僕の予想の5倍ぐらいになって返ってくるので。

──おおー。

例えば竹千代。造形といいキャラクターといい、無口な少年でエロが大好きで、実際、後にエロおやじですからね。そのきっかけを信長が作ったというのは面白いことを考えたなと思いますし。そこらへんのキャラクターの想像力っていうか描写力は尋常じゃないですよね。やっぱり人をよく見てるんだなと思います。

──なるほど。

石井あゆみの脳内ではサブローって生きてるんだと思うんですよ。よくその打ち合わせの中で彼女が言うことで、「サブローはこんなこと言わない」とか「サブローはこんなことしない」って。もしくは「サブローだったらこんなふうに言うはずだ」とか。だからたぶん彼女の中にサブローっていう人間がいるんですよ。そういう意味では本当にすごい作家だなと思いますね、ド新人ですけど(笑)。

『信長協奏曲』 『信長協奏曲』

石井あゆみ『信長協奏曲』 / 2009年11月12日発売 / 460円(税込) / 小学館 ゲッサン少年サンデーコミックス / ISBN: 978-4-09-122100-1

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石井あゆみ『信長協奏曲』(1)

あらすじ

勉強嫌いで日本の歴史になんの興味もない高校1年生・サブローは、ある日突然、戦国時代にタイムスリップしてしまう。そこで出会った本物の織田信長は病弱で、顔はサブローにそっくりだった!

その信長に「体の弱い自分に代わって織田信長として生きてくれ」と頼まれてしまい……!?

織田信長を衝撃の新解釈で描く、時をかける風雲児サブローの戦国青春記、待望の第1巻!!!

石井あゆみ(いしいあゆみ)

1985年9月24日生まれの24歳。神奈川県出身。2003年に17歳で初投稿。2004年「佐助君の憂鬱」でサンデーまんがカレッジ入選。2009年5月のゲッサン創刊号から、弱冠23歳にして「信長協奏曲」で人生初連載をスタート。